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ネガティブな俺じゃ世界は救えない  作者: ロマンティック帰宅戦士 死更 コールツルセットモドキが駆け抜けた366日の軌跡はサイクロイドを描くのか。いや、玄関
2日目
22/30

メルキアのお願いごと

 


 コンコン、とアオの部屋のドアがノックされた。


「ここはトイレじゃないですよー」


 俺はアオの不在をいいことにふざけてみた。


(面接、ウッ頭が……っていうか、結構余裕そうですね?)


「ああ、もうひとりじゃないからな」


(『ひとり』って。私がいたでしょうに……)


 そうだったね、と小さく謝り、窓の外を見るラブに視線を向けた。

 黙る姿は美人、話す姿は元気っ子。“美しい”と“かわいい”が両方そなわり最強に見える。


 もしもラブを置いていくことになっていたら、それは本当に心細かったことだろう。


 ラブには感謝しかない。

 俺の目が少しだけ潤んできたとき、ドアの向こうから更にかわいげのある声が聞こえた。


「あ、あのぅ……朝ごはんなのですが…………」


「へっ? あっ、どうぞ!」


 ふざけたっきりで待たせてしまっていたことに気付き、慌ててドアを開けた。


 廊下には朝食を乗せたサービスワゴンという台車、そして見覚えのある顔。


「あっ、君は昨日の――」


「――はい。その後お変わりないで(・・・・・・・・・・)すか(・・)?」


 彼女は手負いの俺に治癒魔法をかけてくれた女の子。聖職者っぽい帽子と貫頭衣(かんとうい)

 本家さながらの《おんなそうりょ》である。


おかわり無いの(・・・・・・・)!?」


「ひゃあっ!?」


 いつの間にやら俺の脇に潜んでいたラブが驚いた。それに彼女が驚いた。俺もビビった。


「『お変わりないですか』ってそういうことじゃねえよ……心配してくれてんだよ」


「そうなの? 私は大丈夫だよ、ナゴミちゃん(・・・・・・)!」


「え、どうして私の名前――」


「――あ……いや! アオが言ってたから! うん、そうなんだよ!」


 慌てながら答えると部屋に逃げていった。彼女――ナゴミとは顔見知りだったのだろうか?


「なるほど、そうでしたか」


 ナゴミのほうは、ふふっと口を隠して微笑んだ。その仕草はかわいいの権化と言う他ない。


「では、中にお運びしますね」


 ナゴミはサービスワゴンを押して部屋に入った。ガラガラという車輪の音以外にも、どこからか話し声が聞こえる。


 ……は? 話し声?



「蜘蛛雲じゃー! それそれ〜!」


「わー! キモカワー!! 流石だね、くもじい」


 室内なのに雲があった。八本の足を持った蜘蛛っぽい形の雲。『蜘蛛』と『雲』をかけているのだとしたら、シャレとして下手すぎると思った。


 青い魔法陣を通してそれを操っていた『くもじい』とはメルキアである。当然のようにそこにいる彼はラブと遊んでいた。


「ホいつの間に!」


 思わず指をさして驚いてしまった。どこから入ってきたんだ!?と。

 ここは地上数10m級の部屋で、ひとつしかない入り口には俺がいた。忍者なのか、メルキアは。


「あ、先生! いらっしゃったんですね!」


 ナゴミは驚きつつも喜んでいる様子だ。彼とは『先生』と呼ぶ関係性らしい。


「窓が開いていたからのう」


「私が開けたんだよー! 感謝してね、くもじい!」


 ラブは一切の遠慮もなしに恩を売りつける言い方をした。もう少し歯に衣着せてもいいんじゃないか。


「ふぉっふぉっふぉっ、“感謝感激雨あられ”じゃのう」


 そう言うと蜘蛛雲から雨を降らせ始めるメルキア。それを見て目を輝かせるラブ。

 俺の脳内で大噴火を迎えるアオ。


「ちょ待てよ! ここアオさんの部屋なんだけどォ!?」


 床が水浸しになる。只事じゃない。ヤバい。これマジでヤバいヤツじゃん! 俺が殺されちまう。


「あっはは! 水溜まりだー!」


 ラブはバシャバシャと、雨の中に入って遊び始めた。俺の気苦労も知らず。


(メルキアさんなら心配ないですよ。いくらでも元通りですから)


「そうなの? いや、そうじゃなきゃ困るんだけど」



「――さて、と。本題に入ろうかの、エックス」


 彼が指を鳴らすと雲は煙のように消え、床を覆っていた水もなくなった。ホントだった。

 手品で騙されたというより、催眠術が覚めたかのような気分になる。


 真剣な声のトーンになったメルキアを相手に、俺は背筋を伸ばした。


「エックス、おぬしとナゴミに頼み事がある。教団の指導者であるアシュリーを助けて欲しい」


(ほほう! これは棚ぼた的展開ですよ!)


「わ、私もですか?」


「うむ。ほぼナゴミの仕事になるのじゃがな……“浮き島”まで行って、アシュリーの疲労を取り除いて欲しい」


 またもや分からない固有名詞が登場した。

「“浮き島”って?」


(ああ! 世界の空を守るため、アシュリーという魔法使いが住んでいる浮き島です。雲より高い場所にあるので、地上から見れば豆粒ほどもない大きさですが)


「ほー。でも、どうやって行くの? 浮き島まで」


「教団の集会所から特別な魔法陣を使って飛んでゆける。それしか手段はないのじゃ」


「あれ? それって俺、要らないんじゃ……」


この依頼だけでは(・・・・・・・・)、じゃの。もっと長いスパンで見たとき、おぬしが同行することは必要不可欠なのじゃ」


「そ、そうなんですね……?」


(ふうむ。おそらく彼は、エックスと教団の関係を密接にしようと考えているのでしょうね)


 天の声もいつになく落ち着いた様子だった。


(この依頼、承る以外ありえません)


「前回はそれで裏切られたわけだけどな……」

 脳裏にはバーサーカー討伐の命。また騙されるんじゃないかという不安が無いといったら嘘になる。

 でも、メルキアには謎の信頼感があるのも確かだ。


「どうかの? お願い、聞いてくれるかの?」


「……もちろんです。救世主ですから」


 断る理由はない。もしも教団のトップだというアシュリーとやらに接触できれば、それだけで(おん)()だ。


「それは良かった。おぬしも一緒に行くのじゃろう?」


「うんっ! アシュリーちゃんと会えるんだね」


 ラブはアシュリーと知り合いなのか。


「うむ。では、今日のチェックも済ませるとするかのう」


『チェック』という言葉を聞いたナゴミは帽子をひっくり返して、底から1匹のネズミを取り出した。


「ネズミ!?」


 ソイツは俺の脇を通ってメルキアの手のひらにまっしぐら。その小さい眼鏡を虫眼鏡のように動かし、メルキアはネズミを観察した。


「ふむ、今日も合格じゃ。しかし、最近は調子が振るわないのかの?」


「あ……そうなんです……」


「では、ついでにアシュリーに教えを乞うとよいじゃろう。教えるのがワシやあの小童ばかりだと保守的になってしまうでな」


「はい、分かりました……!」


 メルキアが眼鏡をかけ直すと、ネズミはナゴミの帽子の中に戻っていった。結局何をしていたのか分からない。


「ねえねえ、くもじい。さっきのネズミさんは何?」


「ああ、アレはナゴミの魔法の師匠じゃ。延命(えんめい)魔法を失敗してネズミの姿になったのじゃが、治癒魔法によって日に日に寿命が延びとる。結果オーライというヤツじゃな!」


「てことは、中身はおじいちゃんなの?」


「いや、お姉さんじゃ。健康チェックが必要なくらいのな! ふぉっふぉっふぉっ」


 メルキアからして『お姉さん』ということだろうか。そうなると相当な歳のように思える。


「ま、そういうことじゃ。ワシは忙しいから先に集会所に行っておるでなー!」


 ふぉっふぉっふぉっ、という笑い声を残し、彼は雲に巻かれて消えてしまった。



「……ふぅ。雲のように自由なおじいちゃんだった」


(全くです。流れるままというか……)


 しかし嫌な気はしない。憎めないというか……



「では、エックスさん。朝食をとったりして支度が済んだらお声掛けくださいね」


 ナゴミは部屋の隅っこで、先程の“師匠”というネズミに魔法をかけ始めた。



 俺とラブは互いに見合って頷く。期待を膨らませながら、サービスワゴンに乗っかった朝食の蓋を取った。

 立ち上る湯気。一瞬だけメルキアを警戒したが、それは杞憂でしかなかった。


 そして安心した俺たちは、カトレア特製三ツ星クラスの朝食に舌鼓(したつづみ)を打つ。

 少しばかりの安寧(あんねい)に、俺は心を休めたのだった。

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