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ネガティブな俺じゃ世界は救えない  作者: ロマンティック帰宅戦士 死更 コールツルセットモドキが駆け抜けた366日の軌跡はサイクロイドを描くのか。いや、玄関
2日目
21/30

イン・ザ・モーニング・グローリー


 

「あんた、どうするのよ。また勇者と旅をするの?」


「……勇者様のことを悪く言うのは許さない」


「違うわよ。あんたの身を案じて言ってるの」


「だとしても……勇者様は私のかけがえのない人だから」


「アタシにとってもそうよ!」


「なら! なら、なおさらあんなことは言わないで……」



 うっすらと話し声が聞こえる。



「――ていうか、エックスはまだ寝てるの!? ほら、起きなさい! お天道様が見てるわよ!!」


「ん、むにゅぅ……まだ5分、いや10分だけ待たせてぇ……」


 布団を引き剥がされた俺は、朝日を相手取って必死に抵抗する。まだまだ寝足りない。

 しかし、奪われた温もりは帰ってこなかった。いくら再会を願おうとも、二度とは帰ってこなかった。


「あんたのツレは起きてるわよ!」


 その一言はおかんの「遅刻するよ!」と同じくらいかそれ以上の威力を発揮した。

 頭の中の朝靄(あさもや)が晴れ、目が冴え渡る。眠いとかそれどころじゃない。


「ヴぇッ――!?」



 そこはアオの部屋の床の上。彼女の高飛車っぽい雰囲気とは裏腹に、可愛らしい乙女チックな部屋。


 その部屋の一角――窓からの風で白が靡いている。それはカーテンではない、少女の髪だ。


 朝日の中でより一層眩しい髪色。無垢な輝きを漂わせていた。


 白は膨張色だと言うが、あの白は違う。引き締まっていて、か細くも凛とした髪の毛。その1本1本が風に揺られていた。


 光に溶け込みそうな彼女は、ぼーっと窓の外を眺めている。



(ビューティフォー……)


 彼女は俺が起きたことを認めると、トタタタと駆け寄ってきた。

 まず俺の目に飛び込んだのは少し赤みがかった目の縁。


「あのあのっ! すみませんでした!!」


 ――——ゴツンっ! ゴツンゴツン……


 謝るや否や、床に頭をぶつけての土下座を繰り出す。



「ヴぇっ!? 待って、どういうことだよっ!?」


 先程の儚い雰囲気からは想像できない慌てっぷり。


 俺が脳内に組み立てた“儚げ美少女キャラ”イメージが、ほんの2秒足らずで崩壊した。

 本当はお転婆な元気っ子なのだろうか。



「だって、私、あなたにひどいことを……」


 顔を上げた彼女を見て、内心ドキッとした。


 目には大粒の涙。ギャグみたいな振れ幅だけど、彼女は確かに本気で謝っていたのだ。

 真っ白な瞳がうるうると揺れている。その顔を見ると、俺が泣かしたような気がして緊張してしまった。



「えーっと、それって昨日のこと?」


「う、うん……」


 涙を拭いて俯いた彼女。必死に涙を堪えようとしていた。


「大丈夫だ、俺は大丈夫なんだよ。謝らないで。そのために君を救ったんじゃないからさ」


「……うん」


 俺の一言は涙腺ダムを爆破してしまったようで、抱きついてきた彼女は俺の肩に顔を埋める。


 昨晩、同じように抱き合ったときの彼女とは何か雰囲気が違う。

 今はまるで甘える子犬。しっぽを振っているような……そんな気がする。



「まったく、朝っぱらからイチャつくなら他所(よそ)でやりなさいよ。一銭の得にもならない」


 アオは上から見物するように、こちらを眺めている。



「あ、あはは……すみません」


 アオに冷やかしを受けた俺は離れようとしたのだが、バーサーカーは一向に離れようとしなかった。


 ……ていうか、なんかキツくなってきた。肋骨がちょっとかなり痛い。


 (こころ)()しか、メキメキいってる気がする。ヤバい、死ぬ。死んじゃうう!


「ちょ待って! 痛いって! 痛いっておい!!」


 言葉を投げかけても全く動じないので、パンパンと彼女の頭を叩いた。


 それでも解放してくれない。


「ギブ! ギブですギブ!! おいレフェリー止めろォ!!」


 必死でアオに助けを求めるが、彼女はくすくす笑っていた。


「面白い興行ね。いいわ、続けなさい……って言って殺されちゃ(かな)わないわね。ほら、離しなさいな」


 彼女が手をぱんと鳴らすと、我に帰ったバーサーカーは俺を解放した。


「た、助かったぁ……」


「あっ……ごっごめんなさい! また私、無意識のうちに……」


 また彼女は泣きそうになっている。


「うぅん、ギリセーフだから。それより力が強いよね、昨日も思ったけど」


「私は、父が戦士で幼い頃から護身術というか……色々仕込まれてるだけで……」


 昨夜のアオといい、この世界の女性はこんなにも強いのかと怖くなる。俺のお姉ちゃんに至っては前の勇者だし。


 ま、仲間なんだから心強い限りですが。


(――そう、そこなんですよ!!)


「うわぁ! いきなり大声を出すなぁ!」

 ずっと静かだった天の声の大声に驚いた。ふたりはそんな俺に振り向き、不審そうな目で見てきた。


(彼女は昨夜の時点で仲間になっているはず……なのに何故、攻撃が通じるのでしょう?)


 うーん、確かに。痛いのはおかしい。

 ライドのときは斬撃をも無効化し、俺に対して危害を加えられない状態になったのだが。あのときと今では何かが違うのだろうか。


 ……分からない。情報が無さすぎる。



「そうだな……まずは名前を聞いてもいいかな?」

 まず、名前からだ。


「私はラブです」


 ラブ……(ラブ)、か。


「かわいい名前だね」

 とてもバーサーカーなんかには似つかわしくない名前だと思う。女の子の名前だ。



「はい。私の大好きな人がつけてくれた名前なんです」


(いやぁ、ネーミングセンスがグンバツですねその人)


「こっちも改めて自己紹介を。俺はエックス。何回も言うけど勇者の弟で救世主だよ」


 俺が『勇者の弟』と言ったところで、ラブの白い眉が反応した。



(いやぁ、ネーミングセンスがサイテーですねその人)


「うっせ! いいだろ別に……」


 天の声にツッコミを入れる。もうこの役にも慣れてきたものだ。



 と、そのとき、目を輝かせたラブが前のめりになって迫ってきた。

「エックスって勇者様の弟なの!? 勇者様のこと、聞かせてくれない!?」



「えっ!? あー、うーん…………」


 この質問には困った。


 このゲームの中では“勇者の弟”という設定だけど、俺には勇者がどんな人だったか全く分からない。


 どう言い訳しようかと考えていたら、天の声が助け舟を出してくれた。


(先代勇者はとてつもない人気者だったみたいですね。彼女はいつでもドクターチリペッパーを飲んでいたそうですよ)


 もういっそのこと、《憑依》でもして代わりに答えるほうが早いのではないかと思う。


(いえ……その、ちょっと照れくさいです)


「どういうことだよ……えっと四六時中ドクターチリペッパーを飲んでたよ」


「それでそれで!?」

 更にラブは乗り出して聞いてくる。天の声はラブに圧されて他の話題を探し始めた。


(ええと、そうですね――)


「――待ちなさいよ。今それを続ける価値はあるの? もっと大事なことを話しなさいよ。」


 しかし、アオが強引に話を止める。組んだ腕で指をトントンし、そこから苛立ちようが伺えた。


「そうだった。それじゃあラブはこれからどうするの?」


「わ、私は……」


 ラブは言い淀みながら、殺傷力抜群の上目遣いを俺に向ける。何かを伝えようとしている目だが、真意を汲み取ることはできない。


 しかしすぐに目を逸らし、小声に何かを言い始めた。


「い…………い」


「い?」


 再びこちらに向き直したラブ。


「い、一緒に行きたい!」


 声を張り上げて全力でぶつかってきた。圧倒された俺は、助けを求めるようにアオのほうを見る。彼女は少し難しい顔をしていた。


「……いつ言おうか迷ってたけど、教えてあげる。あなたは今、お尋ね者よ」



 一瞬、言葉を失った。こっちに来て2度目の衝撃。

「そっか、そうだよな。そんな気はしてたけどさ……」


 ライドが取り繕って、何とかお咎めなしになるという一縷(いちる)の望みが切れた。いや、最初(ハナ)っからそんなのはなかったのか。


 俺はハメられたってわけだ。でも、何故……?


 俺が答えを探し求めて遠いところに行きかけたとき、誰かが手を握って俺を引き戻した。


「エックス……謝るなって言われたけど、やっぱりごめん」


「――っ、ラブ……」


 不安そうな顔の彼女はその目を潤ませて謝る。


「いや、いいんだ。俺のやったことに後悔なんてないから」


 とは言い切ってみたものの、本当に困った。


「それで、どうするの? ラブを置いてくっていうならバウハウスが協力するけど」


 アオは選択を迫ることなく、肩の荷を持ってくれた。


「分かった。そのほうが――」


「――待ってエックス。私、エックスの力になりたい」


 握る小さな手には力が込められていた。



「え……?」


 ラブは両手で俺の手を力強く握って言い放つ。


「私っ、仲間になるから!!」



 その瞬間に現れた黒いウィンドウ。


『ラブはなかまになりたそうに こちらをみている!』



 そして停止する時流。ただでさえお人形さんみたいなラブが、より一層ガラス細工のように見える。


「――ッ、またか!? 2回目だぞ!」


(……ははーん、なるほど。なるほどなるほど)


「分かったのか天の声。どういうことなんだよ、これ?」


(いいですか? 言いますよ……こほん。ズバリ、彼女はバーサーカーで(・・・・・・・・・・)はない(・・・)!)


「はぁ? 訳分かんねえよ……高校化学かよ……順を追って説明しろよ……」


(化学なんてやめて地学でも履修すればいいんですよ――――じゃなくてっ! 『ラブ』と『バーサーカー』は別人なんですよ。二重人格かなんかなんでしょう)


「それはどうして?」


(まずは表示されてる名前。前は『バーサーカー』でしたが今は『ラブ』となってます)


「確かに。でも、それだけ?」


(先程のハグ攻撃もそうです。『バーサーカー』とは仲間ですが、『ラブ』とは仲間ではないのでダメージを受けたのでしょう)


「ほむほむ……」


 確かに天の声の言うことは的を射ている……ような気がする。



「ま、今は選ぶしかないか」


 本当なら、危険な旅には連れていきたくない。バウハウスで面倒を見てもらうほうが安全なのは言うまでもない。


「――でも、『仲間になりたい』って言ってくれたから!」



 俺はお馴染みのSEを聞いた。

 この音を耳にすると、なんだかワクワクしてくる。もとい、オラ、ワクワクすっぞ!


 不安定な時流は完全に元に戻り、ラブは晴れやかな顔をした。



「ラブ、これからよろしくな。こんな俺だけど」


「エックスーっ! うん、不束者ですが末永くよろしくお願いします!!」

 ラブは飛び込んできて俺を後ろに押し倒した。


「んん? 何か“コレジャナイ感”があるけど、まあいっか!」



 てなワケで……こんな俺だけど、仲間と呼べる仲間ができました。



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