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ネガティブな俺じゃ世界は救えない  作者: ロマンティック帰宅戦士 死更 コールツルセットモドキが駆け抜けた366日の軌跡はサイクロイドを描くのか。いや、玄関
1日目
17/30

ワレモノ注意の逃避行

 


「えっと、こっち?」


 アウトドア趣味の「ア」の字も知らない俺は、木々の中を行ったり来たりしていた。


 ――というのも、明かりがなく、自分の居場所が分からないからだ。


 バーサーカーを抱えるので両手が塞がってしまっているため、慎重に歩くしかない。

 その結果、方角が分からなくなって時間はかかるわで大変だ。


(もうそろそろ抜けられるはずなんですけど)


「もう疲れたよ……」


 なんて言ってると、葉っぱの合間から光が見えた。希望の明かりが一筋。無くなりかけた体力が回復した気がする。


 興奮気味に走った俺は、足を引っかけそうになった。


「っと、危ない危ない」

 ヒヤリハットを感じつつ茂みを抜けた。そこは街道。戻ってこれたんだ、と安堵の息をついた。


 もういっその事、ここで夜を明かしてもいいんじゃないかと思った矢先、怒鳴り声が届いた。


「――貴様! エックス!!」


 それは聞いたことのある声。


 夜なのに光り輝く鎧。ライドには松明を持つ連れたちがいた。

 今度はまったく見たこともない騎士だ。


「あー……こんばんは。ははは」


 苦笑いでどうにかできないかと思ったが、どうにもならない。ヤツはガシャガシャとやかましく近寄ってくる。


(まーたあの七光りですか)

 天の声もうんざりしてしまっていた。


 またもやライドが俺たちをピンチに立たせる。本日2回目だ。あまりにもデジャブ。


「つっても、どうすればいいんだ? 普通にマズいよな……」


 ライドたちと対峙しているこの状況。


 バーサーカーを討伐しに行ったのに、バーサーカーをお持ち帰りしようとしていることがバレてしまえば、もう後がない。


 この子をバーサーカーから救い出した、という設定でもこしらえてしまえば、このピンチを切り抜けられるけど……いかんせん姑息だ。

 あまりにも分が悪い。


(ライドもバーサーカーもパーティーメンバーなので、即☆斬☆首みたいなことにはならないのが救いですが……)


 そう。警戒すべきは、「仲間だからノーダメ」が通用しない“連れ”のほうなのだ。彼らから嫌な予感がする。


「やはり……!! 団長、エックスは寝返ってしまったようです!」


「何ィッ!? やはりか!!」


 ――やっぱり。この騎士たちも俺に仕向けられた罠だ。


「待ってくれ! そいつの言うことを信じるなよ、俺はこの子を助け出したんだ!!」


「そうなのか!? おのれ、騙したな! 一介の兵士の分際でこの俺様をォ!!」


 彼は振り返り、部下に対して剣を引き抜いた。

 ライドがバカで良かった。心底そう思う。


 しかし、騎士たちもそれで引き下がる相手ではなかった。

「違います団長! あの女の子がバーサーカーなのです!」


「むむむ! エックスめ、見損なったぞ!!」


『見損なった』のは俺のほうだ。そんな簡単に靡くヤツだとは思ってなかった。

 ライドは剣を構えやがる。完全にやる気だ。


「くっそ、何がむむむだ! このド低脳がァ!!」


 俺が啖呵を切ると、ライドは斬りかかってきた。


「覚悟!」

 これはブニュブニュするだけで脅威でもなんでもない。


「クソがッ! お前たち、エックスを斬れ!!」


 ――来る! 取り巻きたちの攻撃は避けなければならない。だけど、間に合わない!


 咄嗟に背中を向けた。

 強い衝撃がいきなり激痛に変わる。背中の上らへん、肩甲骨の辺りを斬られた。


(何やってるんですかエックス!!)


「この子を守らなきゃ……ならねえだろッ! 《血絲(アルマティ)》!」


 赤い魔法陣を喚び出し、次の斬撃は防いだ。


(いいですか、バカエックス。レーベットは右のほうです。逃げなさい!!)


合点(ガッテン)承知の助! ちょっと乱暴だけどごめんな!」


 俺は、血だらけの背中を敵に向けて走り出した。本気では走れないものの、それでも我ながらかなり速い。少なくとも現実の俺とは大違いだ。


「待てー! 我ら王立騎士団! 秩序を保たんと敵を討つ!!」

「うおおおおお! エックス、覚悟!!」




 ――休むことなく走り続けること十数分。

 足音と声はぴったりとくっついてきている。


 少し高い丘の上から、最初の街と同じく壁に囲まれた目的地が見えた。


「あれが、隣町レーベット!」

 走りながらその街の規模を測ってみると、天の声が言っていたように、王国とは全然違う。広すぎて端っこが見えない。


(はい。ここから街まで下り坂なので、気を付けてください!)

 下りの衝撃は上るときよりも大きい。できるだけ彼女を揺らさないよう、膝を曲げて進んだ。


「待てー! 裏切り者めー!」

 追っ手はすぐそこまで来ている。


(ほら、急いで!!)

 急き立てる天の声。


「気を付けるのか急ぐのか、どっちだよ!!」

(どっちもだよ!! なんでもいいから走ってください!)


 体を前に傾けて、勢いをつけた。少しでも足が出るのが遅れれば、すってんころりんどころじゃない。


「うおおおお!!」


 今の気分はサバンナを駆ける“けもの”だ。血の匂いが俺を昂らせる。あーはー!



 斜面が終わり、ここからは物理でいうところの等速直線運動だ。


 ゴールの門を見据える。門は開いているが、隣に兵士が突っ立っていた。

 ライドが率いていた騎士とは違う色の装備。


 向こうもこちらに気づいて槍を交差させ、俺の行く手を塞いだ。


 もうブレーキが効かない。俺は強引に身体を捻って背中でぶつかった。

 傷に傷が重なる。


「――貴様、何やつ!」


「救世主エックスだ! この通り、王様のお使いだよ!!」

 胸のバッジを見せつけると、兵士は退いて敬礼を飛ばしてきた。


「よっしゃ、後ろのヤツらは通さないでくれ!」

 俺は街へ駆け込んだ。


「衛兵! ヤツを捕まえろォ!!」


 背後からライドの声がする。


「む……ヤツはノートマンのところの長男か」「確か、王立騎士団長になったはずだが」


「むむ、やはり怪しい! 待て貴様!!」


 衛兵は、何が起きてるのかを冷静に分析しやがった。有能な兵士だけど、今はそれがキズだ。


 俺は逃げる足を早める。


「な、待て! 俺は後ろのを止める。お前はアイツを捕まえろ!」

 2人のうち片方が俺を追ってきた。


「敵が増えちまった!」

 まだ追いかけっこは続くらしい。街の中だから、上手くやれば撒けるかもしれない。


 中心の方へ少し走ると、街が明るくなってきた。

 レーベットの街、月の下。両脇には出店が続いて客引きの声がひっきりなしに聞こえる。

 人通りが多すぎて一寸先が見えない。


「なんだここ!? 眠らない街か!」

 そう言いながら、俺は躊躇わず人の海に飛び込んだ。

 槍を持ってきた兵士は背後で立ち往生してくれた。


(言ったでしょう? 「木を隠すなら森の中」だって。ま、今のあなたの傷じゃ目立っちゃいますけど)


 赤い服を着ている人はなんていない。俺だけの奇抜なファッションだ。


 目を引くのはそれだけじゃない。

 俺の抱える少女も、ダイヤの原石みたいな美しさで目立った。ボロボロの布切れだけじゃ隠せない魅力だ。


 とりあえず走ってはいるが――

「――どこに逃げりゃいいんだよ!」


 と、そのとき肩を掴まれた。屋台から伸びるその腕はガチガチに鍛え上げられている。

「ちょっと待った兄ちゃん! チキン食うか!?」


「はぁ!? チキン!?」

 脇からかけられた声に、俺は半ばキレ気味で答えてしまった。こんな状況でチキンを食うバカなんているもんか。


「おう、ちょっと寄れ」

 俺を呼び止めたのはハゲのマッチョ。ガタイの良い彼は俺に目配せを送ってきた。


 そこでハッとした。俺の知る限り、この手のタイプは決まって人が良い。俺は警戒することもなくホイホイ近付く。


(こ、この方は……!)


 そこそこ距離があるのに、腕を伸ばして俺をがっしりと掴んできた彼。彼が格ゲーに登場していたなら「吸い込みのザンギ○フ」とでも呼ばれていただろう。


 俺は彼の横に立つと、屋台の下に押し込まれた。乱暴だった。

「痛ッ!」


 背中を丸めると傷が開いて痛い。深呼吸では誤魔化しきれない痛みだ。

 泣くことものたうち回ることもできない。痛すぎる。


「この程度じゃあ死なねえよ!」

 マッチョの彼は背中をバンバン叩く。


「痛い痛いって!」


 悪い、と笑い飛ばす彼には敵わない。なんか大丈夫な気がしてきた。

 間違いない。典型的肉体派の良キャラだ。


 彼は、しー、と痛がっている俺に合図をした。そして屋台の正面に向き直り、誰かに向かってこう言った。


「お勤めご苦労さん、チキン食うか? 兵隊さん」

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