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ネガティブな俺じゃ世界は救えない  作者: ロマンティック帰宅戦士 死更 コールツルセットモドキが駆け抜けた366日の軌跡はサイクロイドを描くのか。いや、玄関
1日目
16/30

攻守逆転のムード

 


 地面を揺らす衝撃、その震源は目の前の彼女だ。


「――っ! アハハ! すごいマジックだね。アハハハハ!!」


 俺が抜け出したと悟るやいなや、瞳孔が開ききった目をこちらに向けた。

 完全にキマってる目。絶対に殺す、という目。今の彼女は殺意()殺意(勇気)だけが友達なのだろう。


「手応えなくて申し訳ないね。俺の負けだよ」


 両手を上げて降参を示したけど、まあ彼女は仕掛けてくるだろう。


「アハっ! じゃあ殺しちゃってもいいの!?」


「やれるもんなら、やってみな」


 彼女は俺を殺すことなんてできない。できやしない。俺だってできない。


「《美恋(レムラント)》」


 ――なのに、それを知らないバーサーカーは嬉しそうに体をくねらせている。よほど俺を殺したいらしい。


「ボクのために死んでね!!」


 発射された釘は俺の胸に突き立てられ、飛び込んだバーサーカーが釘を打ち込んだ。



 ――痛くも痒くもない。当たり前だ。今の俺と彼女はパーティーの仲間だから。


 俺はその場から動かず、片手で胸に立つ釘を抑えた。


「君じゃ俺を殺せないよ」


「え…………?」


 俺は釘を放り捨て、驚きのあまりに固まってしまったバーサーカーに歩み寄った。


 すると、彼女が纏っていた黒い鎧は煙となって消えていく。中からは青ざめた少女が姿を現した。



「――嫌っ! 来ないで! 待って、お願いだから!!」



 俺が一歩近づくと、彼女は一歩遠ざかる。それまで狩る側(獲物を追う肉食動物)だった彼女は、今となっては狩られる側(怯えきった小動物)


 無論、今の状況はどっちが有利でどっちが不利というわけでもない。俺だって彼女に危害を加えることはできない。


 でも、彼女はそれに気づいていない様子だった。


 大丈夫か、というのは愚問だ。彼女は大丈夫じゃない。俺から見てもわかる。

 彼女は恐怖に歪んだ顔で必死に叫んだ。


「やめて! ねェ、許してよ!! ボクが悪かったから!!」

 手を前に突き出して俺を止めようとする。


「あ……お、お願い、助けて!!」


 彼女の背後には崖面。後ろに下がろうにも、そんなスペースはどこにもない。

 彼女は危機迫った顔で俺を凝視した。


「ごめんなさい! やめてぇッ!!」


 絶叫するバーサーカー。裏返った声が夜空に反響する。



 ――俺は彼女の肩を掴んだ。


「ッ!!」


 目を見開いた彼女。真っ赤な瞳に俺が映っている。頬を走る涙がきらりと月光を反射した。


 俺は何も言わずに、ただ、彼女を抱きしめる。


(ヒューッ!)



「えっ!? な、何を……?」


「俺にできるのは、これくらいだから」



 ――なんでだろう。どうして俺はこんな事案じみたことをしたんだろう。今となっては分からない。


 理由よりも先に動いていた。俺の中の何かが、俺を突き動かしていた。

 もう、後戻りはできない。この瞬間、俺は王様を裏切った。


 彼女の身体は冷え切っている。まるで、夜風に晒されていた少女みたいな体温。


「うぅっあっ……ダ、ダメ」

 バーサーカーの身体は小刻みに揺れ始めた。発作のような動き方だ。


「へ?」


 ガクン、と一際大きく揺れた彼女は俺の腕から抜け落ちる。


「ちょちょおま!!」

 咄嗟ながらにナイスキャッチをした俺は、彼女を地面に寝かせた。


 力の抜け落ちた彼女を揺すってみても、全く反応がない。


(落ちたな……)

「どういうことだってばよ!!」


 頭を抱え、状況が飲み込めず慌てふためいていると、ある変化に気付いた。


「あ、髪の色が……」


 この夜空よりも暗かった黒髪が、月より明るい白色に変わっていたのだ。

 この世の全ての色を混ぜたかのような黒から、全ての色を抜き取れば、こんな白が残ってくるだろう。


 ただ、わけがわからない。


「ど、どういうことだってばよ!?」


 タコとか、カメレオンみたいな擬態に近いものを感じる。擬態をしているわけではないのだが。


(私にも分かりませんが、失神してますね)


 静かに眠りについた彼女は、人形かなにかに見えた。少なくともハンマーを振り回して人を襲うバーサーカーに見えない。


「街に戻ろう。この子がバーサーカーだって誰も知らないはずだから、そこで休も――」


(――いえ、街は無理でしょう。彼女を連れていくのはとても危険です)


 天の声はやや被せ気味に口を挟んだ。


「じゃあどこに行けばいいんだッ!?」


(落ち着いてください。隣町のレーベットならば安全なはずです)

『レーベット』――それは街の人々の避難先でもある。


「なんでレーベットなら安全なんだ? 王国の兵士だっているんじゃないのか!?」

 自分でも無意識に声を荒らげてしまった。


 それでも天の声は動じることなく、淡々と理由を述べる。

(木を隠すなら森の中、ですよ。街の栄え度合いが違いますから)


 人を隠すなら人混みの中、とでも言いたいのだろうか。確かにその通りだ。


「…………そうか、分かった。レーベットに行こう」

 天の声がそう言うのだ。今は信じるしかないだろう。


 俺はまだ名の知らぬ彼女を抱っこし、隣町レーベットを目指した。

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