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ネガティブな俺じゃ世界は救えない  作者: ロマンティック帰宅戦士 死更 コールツルセットモドキが駆け抜けた366日の軌跡はサイクロイドを描くのか。いや、玄関
1日目
14/30

凶戦士、月夜に嗤う

 


(――ッッ! 来ます!!)



 左腕の(バックラー)を前方に構え、襲いかかる正体不明の攻撃を防ぐ。

 が、しかし、その威力は凄まじく、吹き飛んだ俺は背中を大木に強打した。


「ぐッ!」


 月明かりと、俺より頭一個分小さいくらいの人影。

 そのシルエットは、空間にポッカリと穴が空いているかのように暗かった。



(まさか、彼女が……)


「彼女がバーサーカー……!!」


 お化けの可能性も微粒子レベルで存在しているが、相手がお化けでもバーサーカーでもやることは同じだ。


 俺はバックラーを構えながら、ブロードソードを握る右腕に力を入れた。その姿勢のまま、歩み寄る。



「アハっ! こん、ばん……ワァ! ボクを傷つけようとする哀れなおにーさん、アハハハハ!!」


 髪が黒に染まっているのに気が付いた。


 非常に嬉しそうな、跳ねるような声。確かにそれは女の子のものだ。


 同時に、女の子が発してはいけない覇気も感じた。常人じゃない。

 肌が(あわ)()つ感覚。



「君がバーサーカーだったんだね」

 恐る恐るだが、言葉をかけてみた。



「ウン、ボクがバーサーカーだよォ。ひとつ聞きたいんだけどおにーさん。さっき街のほうがうるさかったけど何があったのかな?」


 彼女は情報通り、ハンマーを引き摺っていた。身長大のそれは、命を叩き潰す以外の使用用途が思いつかない凶悪なデザイン。

 一体、どこから持ってきたのか……いや、生成したのか。


(《亜空魔法》……)

「《亜空魔法》って、勇者の魔法かなんかじゃないのかよ?」


(はい、勇者だけが生まれながらに持っている魔法です。しかし、彼女には事情がありますね……)

 天の声は黙った。


(手強い相手です。あの兵士たちの心配は杞憂でも何でもなかった……!)

 息を呑んだ。今まで散々余裕ぶってきたあの天の声が、その調子を崩すとは……


「ねェ。ボク、聞いてるんだけど」


「え? あ、怪物が出たんだよ。山のようにデカいヤツが」


「フゥン、そうなんだぁ……」



 ――何なんだ、何なんだコイツ! 怖すぎて身体が動かない! 小鹿のように膝が震えたりもしない!



「懐かしくて嫌な匂い。ねェ……おにーさん、もしかして勇者? 返答に依らず殺すけど」


「ああ、勇者だぞ。俺は救世主エックスだ」


 そう言い切った瞬間。涼しい顔をしている場合じゃなかった。


(――4時(右後ろ)!)


「ヴぇ――!?」

 視界外、意識外からの不意打ちだった。咄嗟に身を翻し、飛来する“それ”を避ける。


 “それ”とは細長い四角錐。ほんのりと紫色に光る和釘のようなものだった。


 天の声が気付かなければ即死だったかもしれない。



「アハっ! ボク、ゾクゾクしてきちゃったよォ……」

「俺は最初からずっとゾクゾクしてるよ」


 なんてったって死と隣り合わせのこの状況。今となってはお化けにビビってたのがバカバカしかった。


「でもォ……おにーさん、殺さなきゃなー。残念残念だよ」

 わざとらしく彼女は言う。つまり、余裕がある。底知れない迫力。


 さっきまでの彼女とは何もかもが違うのだ。一人称だって、髪の色だって違う。



「俺も、君を倒さなきゃいけない。救わなきゃ(・・・・・)!」


「そうだよね。ボクを野放しにしたのはおにーさんなんだから」



「……《展世(ファンタジスタ)》」


 気は抜けない。バーサーカーを視界から離さず、新たに剣を生成した。


 リーチは長く、それは日本刀。彼女の持つハンマーと同じくらいの間合いが確保できた。


(賢明です。ただ、刀だと盾は使えませんね)

「盾で受け止めるなんて思っちゃいけない。さっきの攻撃だって本気じゃなかった」


(……避けきれますか?)


「できるかじゃなくて、やるんだよ!」


(フフっ、馴染んできましたね)



「後悔しても遅いよ。《美恋(レムラント)》!!」

 魔法陣が次々と、俺を囲うように展開される。半球状に連なる魔法陣に隙はない。


(『飛び道具』……!)


「魔法かッ!」

 正面から頭の後ろまで、どこを向いても死角が発生してしまう。



アイツ(・・・)のために、そしてボクのために死ーんでっ? 勇者様(クソカス)が」

 彼女は顔を傾けて、ニコッと微笑んだ。まるで天使のような悪魔の笑顔。


 あの和釘が顔を覗かせる魔法陣は、キッと輝いて釘を発射する。


「うおおおお!!」


 まずは身体を右斜め前に滑らせ、4分の1を避ける。刀は右手に任せ、左手で地面を撫でるようにして体勢を保った。滑り出した勢いをそのままに、前に突っ込む。


 続いて0コンマ1秒ほど遅れて射出された釘が俺を捉えた。

 右に行くにも左に行くにも隙が生まれてしまう。にっちもさっちもいかない。


 飛んで避けようとしたそのとき――


(――地面から離れてはいけません!)

「ヴぇ!?」


 俺は重力の反対を振り切り、宙へ飛び出していた。これが第一の間違い。

 勇者の跳躍はカエルよりも高いのだ。


「アハっ! ぜーんぜん素人じゃん!! こんなんじゃアイツ(・・・)でも思い出さないよォッ!!」


 彼女も俺を狙って飛んだ。

 飛んだだけなのに、地面がえぐれた。爆発でも起きたみたいな跳躍力。


 簡単に俺を追い抜いて、高く出る。


 そのハンマーを思いっきり振り上げた。いっぱいに広がる満月と、彼女の凶悪なシルエットが重なる。

 逆光で見えないが、彼女は嗤っていた。血よりも赤い瞳にシアワセそうな笑み。


(来るッ!!)

 意識がその一点に集中した。


 ヤツが来たら、刀で受け止める。生成した刀だから刃こぼれなんて気にしない。



「死ねよォッ裏切り者がッ!!」


 音を立て、風を切って落とされる鉄塊。俺は刀の腹を抑えて受け止めた。これが第二の間違い。


「うああああ!!」

 地面がないから止まられない、止まらない。


 ――地面から離れてはいけないとはこういうことだったか。



 俺たちは垂直に落下し、またもや背中を強打した。

 勢いが乗った攻撃はなんとか持ち堪えられた。だが、肘は地面について押され気味である。


「うおああああああああッッ!!」

 どうしようもなく叫んだ。持てる力を、筋力を総動員して刀を抑える。



 ――突然、左腕の力が抜けた。さっき酷使してしまった反動だろう。



 このままだと圧し潰される…………


 盾で受け止められていたら《那浪(デウケスク)》で反撃できたのに。



 見誤ったか、「やってしまった」という言葉が脳裏に浮かんできた。


「クソがあああああああ!!」

 生まれて一番の絶叫を――雄叫びを、目の前の殺人鬼(バーサーカー)に思う存分浴びせる。


 俺の中の救世主は、最後の叫びで目を覚ました。



 ――――『バーサーカーはなかまになりたそうに こちらをみている!』

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