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ネガティブな俺じゃ世界は救えない  作者: ロマンティック帰宅戦士 死更 コールツルセットモドキが駆け抜けた366日の軌跡はサイクロイドを描くのか。いや、玄関
1日目
13/30

対峙

 


『北の森』と書かれた矢印は地面のほうを向いていた。

 代わりに、森の入り口に新しめの立て札がある。


『この先キケン。月に一度の山菜採りへのご参加は主催の宿屋組合(バウハウス)までお申し付けください』



「……扱われ方が熊だな」


(バーサーカー、クマったやつです全く)


「いやダジャレかよ! 下手なのに無理すんなよ!」



 ――なんて茶番で誤魔化しているが、実際コワイ。バーサーカーもそうなんだけど、この暗さだとお化けとかが出てきそうで……


「っていうか、明かりはどうしよう?」


(《晴無(インダージュ)》で松明が呼びだせますよ)



「ほー、《晴無(インダージュ)》」

 黄色だか金色だかに光る魔法陣。今回のは小さめも小さめで、手のひらサイズだ。


(いくつか項目がありますが、その中から松明のシンボルに手をかざしてください)


「んーと、これかな?」

 何となくの勘でポチッと押したら、魔法陣が変形する。

 車輪のような、暖色の輪っかだ。


 他の魔法と同じように、無を掴んで引き抜いた。


「うおっ、眩し!」


(よくできました。便利な道具は他にもこの魔法で呼び出せますので)



 俺が照らしているのは鬱蒼とした木々。上の方まで葉が茂っていて、夜空の星ひとつさえ見えない。

 道の傍らにはきのこが生えていて、いかにもRPGのダンジョンだ。

 ある一点を除いて。


 不思議なことに、魔物にエンカウントしないのだ。1分歩いても、5分歩いても、10分歩いても。

 だが、代わりに不気味なすすり泣く声を聞いた。


「うっそじゃん……ねぇ、ここ、いわくつきの場所だったりしない?」


(なんだよエックス、ビビってんのか?)

「ち、ちげーし」


(はぁ……ここにはそういう噂はありません。どういうわけか子供が迷い込んだのでしょう)


「――ってことは、大変だ! 助けにいかなきゃ!」


 俺は声のするほうに走った。茂みを掻き分け、夜露を振り払う。


 やがて崖を前に、開けた場所に出た。月明かりもちゃんとある。

 俺が目にしたもの、それは首輪の着けられた少女。

 崖面の洞窟から伸びる鎖が、その首輪に繋がれている。


 ところどころが擦り切れた布一枚、みすぼらしい格好だった。白い肌の色が見える。

 靴も履いていない裸足で、擦り傷のようなものも見えた。



「待ってろ! 今助ける!」

 気付けば、松明を放り捨てて剣を片手に突っ込んでいた。

 彼女は驚いた様子でこちらを見る。


「勢いよくやれば切れるかな?」

(トライですよ)


 女の子の横に駆け寄り、俺はブロードソードを握り締める。

「ちょっと踏ん張ってくれ」


 彼女は白い髪を揺らした。月光で艷めく長い髪。


 俺は頭の上に掲げた剣を、瞬きよりも速く振り下ろした。

「でぇやあッ!」


 キン、という小さい音とともに鎖が砕けた。


(やればできるじゃないですか)

「ああ、よかった。これで彼女は無事……ん?」


(唸り声、ですか?)


 声が響いてくる洞窟からはコウモリが飛んできて、崖から石ころたちが転げ落ちる。


 構える俺の背中に、何かがぶつかった。

「うぅ……」


 少女はボソボソと何かを呟いているが、聞き取れない。ていうかそれどころじゃない。


 相手はバーサーカーだ。

 ハンマーと飛び道具、身に纏うは黒の鎧。


 気を引き締め、洞窟に潜むヤツを待った。


「おぉまぁえぇ……そいつを放したなぁ!?」

 間延びした声。


 暗がりから現れた彼は体長3m級の大男だった。ただ、黒い鎧なんてしていない。


「ああ! お前をぶっ倒しにきたぜ、バーサーカー!!」


「ばかやろうぅがぁ!」


 ヤツはトゲだらけの棍棒を手に取り、こちらに向かってきた。


「《血絲(アルマティ)》!」

 (バックラー)を生成した。2秒。女の子を後ろに突き飛ばす。



 ヤツの一撃!

 その鋼にはヤツの体重も込められている。怪物のときを考えても、これは十分に重い一撃。


 だが、持ち堪えた。持ち堪えられた。俺の本気。


「うオオオオ!!」


 瞬間的に全身全霊の力を込め、跳ねっ返した。


 ドン、と衝撃が空気を伝い、その巨体をも岩盤にぶっ飛ばした。クレーターができる。


 彼は力無く落下し、ピクリとも動かなくなった。


「はぁ……うっし!」

(バーサーカー、討伐完了ですね! 街に戻って乾杯でもしましょう!)


 ダランと垂れる左腕は、ずっとビリビリ痺れて感覚がない。


「はぁ……はぁ……やべ、左腕やっちまったかも」

(ありゃ、身体に負荷をかけすぎましたか。まあいいでしょう、これも学習です)


 一瞬の戦いだったのに、こんなに疲れるとは思わなかった。


(さて、あの女の子は無事ですか?)



 ――そう、咄嗟に俺が突き飛ばした女の子。


 振り向くと、彼女は泣いていた。


「ごめん! どこか擦りむいちゃった?」

 慌てて駆け寄った。女子に泣かれるとドキッとしてしまう。それが故意でも故意でなくても。



「――違う……どうして、どうして私に……どうして意地悪するの……?」


「へ? 『意地悪』?」

 一瞬、自分の耳を疑った。だけど疑いようもなく、ハッキリとそう聞こえた。

 彼女の声はよく通る。水のように透き通った声。


 こんな不穏な内容を、こんな綺麗な声で聞いてしまったがために、背筋がゾクッとする。


「もう、お父さんも殺されちゃう……どうして……」



 思わず後ずさりしてしまった。何を言っているのかサッパリ分からない。


『意地悪』? 『殺される』?


 俺は何か間違えたのか?



(――マズい! 来ますッ!!)


「はぁっ!?」


 彼女のシルエットは黒い(もや)に包まれた。それはどこから発生したかも分からない。


 もう一歩後ずさった。


 次に覚えたのは強烈な殺気。



 ――殺される、不意にそんな風に思った。まさか、そんなわけ…………



「――アハハっ! 殺すゥー! アハハハハ!!」

 闇の中に浮かび上がった、緋色の瞳。


 ……そんなわけ、ありました。


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