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ネガティブな俺じゃ世界は救えない  作者: ロマンティック帰宅戦士 死更 コールツルセットモドキが駆け抜けた366日の軌跡はサイクロイドを描くのか。いや、玄関
1日目
12/30

静けさ、それ則ち嵐の前

 


 街から西に伸びる街道。その右側を緑色に彩っているのが“北の森”。


 城は街の北側に位置しているため、そこから西へ強引に抜けていけば“北の森”だったのだが、俺たちは先に街道へ出ることにした。


 お城から大通りを下り、昼間のように明るい広場まで戻ってくると、真っ先に整理された人の列に気づいた。


「配給はこちらでえーすッッ!!」

 人が為す竜の頭にはツインテールの女の子。お椀とお玉を掲げ、人のざわめきを打ち消すように叫んでいる。


 美味しそうな香りが…………しなくなくもない。人でそれどころじゃないのだ。


「配給……衣食住の食はあるのか」


(ふむ、宿屋が緊急で食事を配っているようですね。横で傷の手当も行っているようですよ)


 暖かそうなスープをすする人々はどこか安心した様子だった。包帯を巻いた人も数多くが休んでいる。


 俺も少しホッとした。一刻も早く魔王を倒さなければならない。世界を救うのだ。たった1週間しかなくても、やり遂げなくてはならない。人々のために。


 意を改めた俺は街の門のほうに走った。人集(ひとだか)りはまばらになり、代わりに甲冑を着込んだ人たちが多くなる。


 彼らは避難民を護衛する騎士たち。遅めの夕食が終わるまで、彼らは待っているのだろう。


 街の端っこに着くと、外のほうを眺めている集団が談笑をしていた。彼らも騎士団のようだ。

 割って入るのがちょっと躊躇われたが、勇気を振り絞って尋ねてみる。


「お話中にすみません。街の外に出たいんですけど」


「ん? なんだいボーヤ……って、そのバッジは!?」「君が件の勇者か。どうしてこんなところに?」


「実は、バーサーカーを討伐するよう仰せつかっておりまして」


「……それは本当に避難のため、かい?」


 ボサボサ頭のひとりが口を開いた。


「――? え、ええ」


 どうしてそんなことを聞くんだろう。それ以外に何か理由があるのか?


 無精髭の彼は神妙な面持ちで、街の外――街道を照らす灯りの数々を眺める。


「バーサーカーは滅多に出てこない。確かに万が一というのはあるが……わざわざ(やぶ)をつつく必要は、ないんだ。しかも今になって」


 眉を潜ませる彼は大きく息を吐き出し、こちらに向き直った。


「バーサーカーと戦えば、殺すか殺されるか。集団を率いて戦いに挑むなら話は別だが、単身で臨むのであれば、それは“死にたがり”だ」



「つ、つまり……?」


「君は行くべきじゃない。せめて避難の完了を待ってくれさえすれば、力を貸すと約束しよう」


 仁王立ちの彼らは互いに見合って、そして頷き合った。俺からは見えないところ――心で繋がっているようだ。



「す、すみません。ちょっと待ってください」


 できるだけの愛想笑いをもってその輪から外れ、天の声と打ち合わせた。


「どうする?」

(彼らはあなたの真の力を知りません。彼らがしているのは杞憂ってやつです)


「……バーサーカーを倒せば、俺たちは前に進めるんだよな?」

(間違いありません)


「じゃあ、今すぐ行ってぶっ飛ばせばいいんだよな?」


(何回もそう言っているでしょう)


 迷いを振り切った俺は、よし、と再び輪の中に戻った。


「俺、行ってきます。王様の勅令ですし、ここで立ち止まってられません」


 今こうしている間も1週間の期限は迫りつつあるのだ。

 夏休みのときのような、あんなお気楽さとは違う。人の命が――数え切れないほどの命が懸かっているのだから。



「そうか……バーサーカーはドラゴンをモチーフにした黒い鎧を纏っているらしい。そして、勇者様と同じ《亜空魔法》を使うんだ」


 彼は未練がましそうに、最後にして最高の情報をくれた。多分、最後の最後まで俺のことを心配してくれていたのかもしれない。


「俺たちは君の幸運を祈ってるよ」


 腕組みをする戦士たち。彼は朗らかに表情を崩し、胸をポンっと叩いた。


「ありがとうございました!」

 俺は転生して一番の声で頭を下げ、暗い街の外に足を踏み出した。



 街は大きな壁に囲まれている。そのため街の光は直接見えないが、間接照明みたいな柔らかな光を発していた。


「……すっげえな」


 風も柔らかい。草原を駆け抜ける空気は、遠くのさざなみを乗せてきた。


(――? どうしたんですか)


「いや、日本じゃありえない自然だなって」

 最初の森の中でも同じことを思ったが、本当にファンタジーの世界に入ったんだな、俺。


 そして、この世界に受け入れられている。前の世界じゃ、ありえなかった。



(ああ、この一面のクソミドリですか)


「ブハッ! なんてことを言うんだ君は……」


 感傷的な雰囲気が台無しじゃないか。吹き出した鼻水をじゅるじゅる吸った。夜風が冷える。


(ほら、さっさと北の森に行きますよ。入口はちょっと進んだところです)

 そう言って、天の声は強引に俺を引っ張っていくのであった。

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