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ネガティブな俺じゃ世界は救えない  作者: ロマンティック帰宅戦士 死更 コールツルセットモドキが駆け抜けた366日の軌跡はサイクロイドを描くのか。いや、玄関
1日目
11/30

長い話



 世界にはまず、道がありました。誰か――偉大なもののために(あつら)えられた花道が。


 しかし、意地悪な巨人が道を塞いでしまいます。偉大なものは怒りました。その巨人をどかし、偉大なものは道を通り抜けて去っていきました。


 すると意地悪な巨人も怒りました。道を作り替え、終着点を出発点に繋がるようにしたのです。そうすれば何回も意地悪ができるから。


 新たにやってきた偉大なものは困りました。道から抜け出せなくなり、力尽きてしまったのです。


 偉大なものたちは考えました。道に出口を作らねば、また巨人に邪魔される。

 そうして偉大なものの中から、道に閉じ込められたものを救うものが現れました。


 救うものは道に咲く花たちを味方につけ、その輪廻を終わらせました――――巨人を倒したのです。



「――テメエは『救うもの』。勇者の中の勇者、『救世主』なのデスよ」



「んふ……えらく抽象的なお話だったな。何が何だか分かんない……」

 このお話中は喋りがマトモだったために、素に戻ったときのエセ外国人の反動がヤバい。


 『救うもの』が意地悪な巨人に一泡吹かせたってのは伝わったけど、特に前半が意味不。まるで化学の問題文みたいだ。


(エックス。今のあなたには分からないでしょうが、魔王を倒すということは重大な使命なのです。それはこの世界の根幹に関わること……)


「おまえは何を言っているんだ」

 俺が背負っているのは世界の命運だ。世界の仕組みとか言われてもよく分からない。



 ――それまでずっと手元の本に目を落としていた大臣は、何か思いついたかのように口を開いた。


「……僭越(せんえつ)ながら、申し上げます。彼に“調停士”が務まるか、(わたくし)には疑問です。やはり“聖人の館”から選出するのがよろしいかと」


 それを受けた王様は首を傾げる。


「彼は勇者デスよ。“聖人の館”から“調停士”を選ぶのは勇者の血を引いているからに他ならないデス。同じように勇者の血を引き、しかも“救世主”であるエックスは“調停士”にこの上ない人材デース」


「しかし、その前に彼が本当に“救世主”であるのかを確かめる必要があるでしょう」


「では、どうナサルか?」


「“バーサーカー”……ここから隣町レーベットへ続く街道に出没するというバーサーカーの討伐を命じてはいかがでしょう」


 得意気な顔で大臣は切り返した。『バーサーカー』とは何ぞや。字面からするにめっちゃ強そうだけど。



「それは妙案デース! バーサーカーに関しては実害でてるデスね!」


 大臣が付け足す。


「郵便馬車の襲撃13件、民間人もかなりの数の被害を受けていますね……死傷者の数は2桁にものぼります」


「バーサーカー討伐は民が避難するための安全確保にもなりマスね! よーし、そうと決まればお行きナサイ! バーサーカーを懲らしめるのデス!!」


 王様はマントの下からロッドを取り出し、先を天に掲げた。先っぽの宝玉がキラリと輝き、王者の風格をこれでもかと発している。


「はっ!」


 俺は下がって一礼。そして謁見の間を後にした。



「――――とは言ったものの、世界を救う時間的には大丈夫なのかな?」


 長い階段を下りながら、色々と考えた。


 あのデカブツを倒せたわけだし、バーサーカーの討伐自体に苦労することはないと思うんだけど、時間的な心配がある。


(ええ。“調停士”になりさえすれば、あとはあっという間でしょうから、バーサーカー討伐は問題になりません)


「ふむう、そうか。じゃあまずは情報収集?」


(ですね。聞き込みはRPGの基本、基本の『キ』の字です)



 運のいいことに、俺たちは今、城の中にいる。脅威であろうバーサーカーの情報だって少しは転がっているはずだ。



 階段を下りきってそこは1階。使用人たちが(せわ)しなく歩いている。

 強そうな人たちに話を聞いてみよう。彼らならバーサーカーのことをよく知っているのではないかと考えたからだ。


 まずは扉の前にいる近衛兵(このえへい)に尋ねた。


「――バーサーカー? ああ、北の森にいるらしいよ。それで時偶(ときたま)街道にも出てくるんだ」


「なるほど! ありがとうございます!!」


 次は騎士団員。大きな髭でダンディー、騎士の矜恃(きょうじ)を感じる人だ。


「――バーサーカーか、うちの元団長が必死で探していたなあ。何でも『俺が倒さなきゃなんねえ』って言って聞かなかったよ。やっとのことで掴んだ情報は、バーサーカーはハンマーと飛び道具を使っているってことだけ」


「ふむふむ。ありがとうございました!」


 次は顔に傷がある強面。その片手には包丁を持っている。


「――ちょうど俺はバーサーカーに対する警備をやってたんだぜ。ヤツは夜な夜な街道を徘徊して物資を運ぶ馬車を襲うんだ。そんで、狙われる物資ってのがどうも“教団”関係らしくてな。え、俺? 俺は膝に矢を受けてしまってな。警備はやめて今はコックさ」


「貴重な情報、ありがとうございます!」


 胸に付けたバッジのおかげか、みんな快く教えてくれた。ありがたい限り。


 他にも数人に聞いてみたが、それ以上のことは分からなかった。ただ、北の森とやらにいることがわかったのはデカい。


(――日中は北の森にいて、夜になると教団の積荷を載せた馬車を、ハンマーと飛び道具で襲う……っていうことですね。まずは北の森に向かいましょう)


「ああ、ぶっ倒してやんよ!」

 元団長の一言が気になるけど、そこまでのんびりしてはいられない。王様が言うように、街で被災した人たちの避難のためにもなるのだから。


 俺は意気揚々と扉を開け放った。待ち受ける困難など知らずに。


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