7 吾輩、猫じゃらしで遊ぶ
タカカズが次の新作のネタとしてチョイスしたのが、猫じゃらしであった。定番中の定番だが、意外にも初挑戦であった。
吾輩としても、猫じゃらしは嫌いじゃなかった。
今まで企画として取り組まなかったのは、タカカズの方が猫じゃらしで遊ぶことに飽きてしまったからだ。
吾輩は、いつでもウェルカムだった。
そもそも、猫じゃらしとは遊びじゃないのである。いや、遊びは遊びだが、我々猫にとっては、あくまで実戦に備えた練習という位置づけだ。
ただし吾輩の場合、ガチすぎたのかもしれない。
吾輩にとって猫じゃらしとは、生き抜くために必要な訓練という意識があるからだ。それを遊びながら学ぶわけである。
獲物の見極めや、間合いの取り方や、攻撃を繰り出すスピードや、押さえつけるタイミングや、獲物のしぶとや、予想外の動きへの対応など、どれも必要不可欠な技術ばかりだ。
猫じゃらしには、すべてが詰まっているのである。だからこそ、飽きられると困るのだ。
「よし、撮影するか」
先ほどまでタカカズは自分の部屋で猫じゃらしを自作していたのだが、ようやく完成したようである。
動画が収益化されていないということで、基本的にお金を掛けないというのがタカカズの撮影方針だ。
段ボールで作った吾輩のベッドもそうだが、可能な限り手作りするのだった。
そこは唯一、タカカズの良い部分である。
今回の猫じゃらしも、パパさんの古い釣り竿をもらい受けて、先端に疑似餌を取り付けて既製品のようなオモチャを作ってしまった。
吾輩としても、本気には本気で応える気構えがある。
「それでは猫じゃらしで遊びたいと思います」
撮影スタジオに移動して、本番を迎えた。
「見てますね」
自作の猫じゃらしは悪くない。
いや、よくできている。
「反応しませんね」
だが、動かし方が良くない。
これでは宝の持ち腐れ。
「目で追ってはいるんですけどね」
目を離さないのは鉄則。
だけど、やっぱり動かし方が下手。
「ダメだな」
ダメなのは、タカカズの揺らし方。
それでは獲物に見えない。
「久し振りですからね」
それは言い訳。
ブランクは関係ない。
シュッ
「おっ?」
シュッ、シュッ
「やっとパンチが出ました」
気を抜くな。
「あれ? もう飽きたみたいです」
違う。
タカカズが雑になったから止めたのだ。
シュッ
「いいですね」
揺らし方が下手な時は反応しない。
上手な時はちゃんと反応している。
タカカズよ、その違いを学ぶんだ。
シュッ
だんだん上手くなってきた。
「ジャブに切れが出てきました」
それはタカカズ、おまえが上達してきた証拠。
そのリズムを身体に刻め。
シュッ、シュッ
いいぞ、タカカズ。
その調子だ。
「ノッてきました」
口じゃない、手を動かすんだ。
おまえは、こんなもんじゃないから。
もっとできるから。
シュッ
「あっ」
そこで疑似餌が取れてしまった。
道具の方が先に参ってしまったようである。
「すごかったですね」
凄いのはタカカズ、おまえもだよ。