6 人気猫動画の研究
ある日の夜、タカカズが吾輩の自室兼撮影スタジオにノートパソコンを持ち込んで、人気の猫動画を観て勉強を始めた。
タカカズのお気に入りは、「ぷにまる日記」という、独身男がホワイトにグレーが混ざったスコティッシュフォールドの猫と共同生活をしている動画であった。
登録者だけで三十万人を超えており、動画をアップすると、すぐに万越えの再生数を記録するという、お化け動画である。
可愛らしいアイコンも然ることながら、やはり強みは毎日更新していることであった。多い時で日に二回も更新する時がある。
また、投稿した動画の本数が三百本を超えているのに、ぷにまるは常に新鮮な表情や、やんちゃな仕草で、見る者を楽しませるのであった。
正直、勝てないと思った。
同じ猫のユーチューバーとして、負けを認めざるを得なかった。吾輩でもカワイイと思うのだから、人間ならばイチコロだ。
吾輩の場合、どうしてもカメラを意識してしまい、緊張で硬くなってしまうのである。
レンズの向こうに見ず知らずの視聴者がいると思うと、単純に恥ずかしくなってしまうのだ。
その点、人気ユーチューバーのぷにまるは、始めからカメラがないように、素を見せることができているのである。
つまり演者としての、格の違いを見せつけられているというわけだ
キャットタワーのハンモックで休んでいるところ、急にカメラを向けられても、動じないどころか、面倒くさがらずに飼い主の相手をしてやるのが、ぷにまるである。
吾輩と、ぜんっぜん、違うのだ。
飼い主が出掛けようとすると、玄関までついてきて寂しそうな視線を送るのだが、それが演技ではなく、自然なのである。
吾輩には、それができぬのだ。
また、飼い主の帰りを出迎える時も、本当に嬉しそうで、誰が見ても相思相愛であることが分かるのである。
正直、吾輩には、無い感情だ。
「すんげぇ、プレゼントもらってるよ」
タカカズが観ているのは、視聴者から送られてきたプレゼントの開封動画であった。
「人気が出ると、こういうことがあるんだなぁ」
それを不人気ユーチューバーの吾輩に当てつけるように漏らすのだった。
こんな飼育係と、信頼関係が結べるだろうか?
答えは、否である。
「ちゅーる、五百本?」
!
カニ味?
なんだ、カニ味って?
ちゅーるにカニ味なるものがあるのか?
ちゅーるにササミとマグロ以外の味があったとは知らなかった。人気者になると、そんなものまで食べられるようになるということか。
……。
……、……。
うむ。
吾輩もユーチューバーとしてデビューした以上、いつまでも照れてる場合じゃないのかもしれない。
「よしっ」
そこで吾輩に呼応するように、タカカズが気合を入れた。
「次はこれをパクるか」
頑張ろうと思ったが、これが吾輩の相方であることを忘れていた。