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吾輩は猫のYouTuberである  作者: 灰庭論
現代猫 編
5/18

5 近藤家の食卓

 近藤家では、金曜日の夕飯メニューだけ子供たちのリクエストを受け付けている。それは付き合いの多いパパさんが家でご飯を食べないからだ。


 長女のモコと一緒に買い物に出掛けるママさんが、リビングの大画面テレビでゲームをやっているタカカズに尋ねる。


「今晩は何がいいの?」

「唐揚げ」


 ママさんの顔を見ずに素っ気なく答える長男坊に、吾輩がムッとしたのは言うまでもない。


「先週も食べたじゃん」


 抗議したのは妹のモコだ。


「じゃあ、なんでもいいよ」


 この通り、タカカズには食への拘りがないのである。


「だったらハンバーグがいい」


 この通り、モコも吾輩にお伺いを立てるということを一切しないのであった。


 二人の子供が吾輩の大好物である魚を選んでくれれば、一口くらいはおこぼれにあずかることができるというのに、気にも留めてくれないのである。


 もう、一か月もマグロの赤身を口にしていなかった。


 マグロが食卓に上がった時、欲しいというアピールをしているので、好物であることは知っているはずである。


 それでもマグロを所望してくれないのだから、近藤家の二人の子供は鈍感だ。


 いや、ここまでくると血も涙もないと言えるだろう。


「じゃあ、お留守番お願いね」

「うん」


 そんなタカカズでも、留守番は得意であった。数少ない特技ともいえる。友達から呼び出しを受けることもなければ、恋人と約束があるわけでもないのである。


 ユーチューブのチャンネル登録者としては無能だが、自宅警備員としては有能だと認めざるを得なかった。



 それにしても、タカカズの好物が唐揚げというのはいただけない。いや、これは人間全般にいえることなので、諦めるしかなさそうだ。


 唐揚げやハンバーグのような濃い味付けの料理など、繊細な舌を持つ猫族には理解しがたい食べ物であるが、味覚音痴の人族にはご馳走になってしまうからである。


 そんな人間でも、年を取れば味覚に変化が起こるというが、高校一年生のタカカズが老いるのを待つのは、吾輩にとって気の遠くなる話であった。


 そこで呪いを掛けることにした。


 ゲームに夢中になっている今がチャンスだ。


『魚を好きになれ』


 この世には「化け猫」という言葉がある。迷信や都市伝説かもしれないが、完全には否定できない。


『魚を好きになれ』


 吾輩自身、霊の存在を信じる者である。


 すると、どうだろう。


 タカカズがおもむろに立ち上がるのだった。


 向かった先は、キッチンの戸棚。


 そこでポテトチップスを手にしたのである。


 限定販売の「鰹だし香る醤油味」


 惜しい。


 実に惜しい。


 今の吾輩の呪詛では、それが限界のようであった。

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