3 モコ
近藤家には吾輩の天敵がいる。それがタカカズの妹のモコだ。中学一年生になったばかりのメス人間。
アチアチの熱湯に浸けようとしたから逃げただけなのに、その一回で吾輩のことをお風呂嫌いと決めつけた自分勝手な女。
その点、ママさんは毛で覆われている吾輩のために、優しい温度のお湯を作ってくれる配慮がある。
熱すぎず、冷たすぎず、人間には中途半端な湯かもしれないが、猫である吾輩には絶妙なのだ。
タカカズはお風呂が嫌いなので、そもそも吾輩を風呂に入れようという発想がない。本当に残念な男である。
風呂上がりに飲む麦茶は格別だというのに、撮影の時以外は吾輩に興味がないので、分かりやすく上手そうに飲んでやってるのに、そのパフォーマンスを見てくれないのだ。
吾輩もユーチューバ―としてデビューした以上、ちゃんねるを盛り上げたいという気持ちはある。
ディレクターの指示があれば、熱湯風呂に入ってリアクションする用意はあるのだ。
それを企画立案のセンスがないばっかりに、吾輩にメシばっか食わせようとするから、薄いリアクションになるのではないか。
もっと、斬新な企画をくれと言いたい。
また愚痴ってしまったが、話を妹のモコに戻そう。
ご飯を用意するのも自分があげたい時だけで、疲れた時はママさん任せで、自分が責任を持つということはないのがモコである。
その点、ママさんは自分が疲れていても、吾輩のご飯を忘れることはなかった。
そのご褒美として特別にモフらせてあげているのに、モコはママさんと同等の待遇を求めるのであった。
そんなものは当然拒否させてもらうのだが、それを嫌われていると自分勝手に解釈するのがモコだ。
こんなんだから、この世がママさんのような人だけならどれだけ幸せかと夢を見てしまうのである。
ご飯に関しては、タカカズも酷いものだ。
ママさんがお出掛けの時に任されているのだが、任されている責任を感じることなく、昼まで起きて来ないから性質が悪い。
そういう時は、安眠を許さないと決めている。意地悪ではなく、吾輩を世話する責任を学ばせるためだ。
二階にある、タカカズの部屋へ入る方法は知っている。ジャンプして、レバーを下げればドアが開くからだ。
布団を被って寝入っているわけだが、いきなりジャンプして、四足キックをお見舞いすることはない。寝ぼけた人間は狂暴で、反撃してくる時があるからである。
こういう時は、枕元に行って、頭を軽く叩いてやればいい。目を覚ますまで、何度でも。
「なんだよ、トラかよ」
タカカズはママさんに起こしてもらっても感謝しない男なので、予想通りの反応だ。
「もう少し寝かせてくれ」
そう言って、布団を頭から被ってしまうのだった。
もう少しって、猫と人間では時間の価値が六倍は違う。そんなことも分からないから、飼育員失格だと言っているのだ。
このように、吾輩の苦労は続くのであった。
話が逸れてしまったので、天敵モコの話は別の機会にしよう。