2 ママさん
吾輩のご飯を用意してくれるのはタカカズではなく、ママさんである。ママさんがいなければ、不幸な一生を送っていたことだろう。
毎日欠かさず用意してくれるので、そのご褒美として、キッチンで立っている間、脛の辺りをスリスリしてあげることにしている。それが孝行というものだからだ。
タカカズもママさんにご飯を用意してもらってるくせに、ご褒美を与えるということが一切なかった。感謝もしなければ、ありがとうの一言もないのである。
吾輩の方がよっぽど近藤家の跡継ぎに相応しかった。
ママさんは家の仕事を終わらせると、リビングでドラマや映画を観るので、吾輩もソファで一緒に寛ぐのが日課であった。
その際に、日頃の感謝を込めて、ママさんにだけモフモフさせてあげることにしている。ご褒美を得るに相応しい働きをしてくれているからだ。
「よし、トラ、撮影するぞ」
そんな幸せな日常をぶち壊しにするのがタカカズであった。両脇をロックして拉致されると、吾輩としては何もできなくなる。
連れ去られた場所は、三階の撮影スタジオであった。監禁されるので、脱出は不可能だ。
「では今日も、ちゅーるを食べさせてみたいと思います」
唯一の再生数三桁動画ということもあり、タカカズはネタに困ると、ちゅーるに逃げる癖があった。
「欲しがってますね」
バカめ。食いつき良く見せて、好物だと思わせるためではないか。
「今日は、ささみです」
は? 今日は、まぐろのはず。
「僕も魚よりカラアゲの方が好きですからね」
またしても致命的ミス。自分の好き嫌いで、吾輩のローテンションを崩しやがった。
「おお、今日もスゴイ食べっぷり」
それはバカな飼育者に飽きたと思わせてはならないからだ。
「あっ」
床に溢しやがった。
「やっべ」
へたっぴめ。
「ハハッ、床を舐めてますよ、意地汚いですね」
なんたる言い草。
なんたる恥辱。
己の失敗を反省せず、リカバリーした吾輩を笑いやがった。
「食いしん坊ですね」
やはり殺すしかないようである。