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吾輩は猫のYouTuberである  作者: 灰庭論
未来猫 編
15/18

15 問題発生

 ユメミコがモコに「明日も一緒に勉強しよう」と言い残して、家に帰っていった。それは、吾輩に向けたメッセージでもあった。


 つまり、その時に吾輩を未来へ送り返すために、近藤家から連れ出す手伝いをするということだ。


 ということは、吾輩に残された時間は一日だけで、明日には家族のみんなとお別れすることになる。


 わずか一年であったが、吾輩にとっては六年くらいの価値があるので、感慨かんがい深いものがあった。


 その日の夜、眠れない夜を過ごした。


 いや、眠ったけど。


 吾輩ら猫たちは人間と違って、眠れない夜を過ごすことはできないからである。


 つまり、その、詩的な表現を使いたいくらい、つらい夜だったという意味だ。


 最後の晩餐ばんさんとなる昼食は、いつも通りの通常食にダイエット食品を混ぜたものであった。


 これでいい。


 ママさんが運動嫌いの吾輩のために、健康を願って作ってくれた食事だからである。


 吾輩はそれを「黄金ブレンド」と呼んでいる。「ゴールドブレンド」だとコーヒーになっちゃうからだ。


 違いがわかる男とは、吾輩のことだ。


 夕方になって、約束通りにユメミコがやって来た。この日も学校帰りなので制服のまま家に上がるのだった。


「じゃあ、わたし着替えてくるね」

「先に勉強してる」

「わたしだけごめんね」

「ぜんぜん。ゆっくりでいいからね」


 それが二階の踊り場でのやり取りであった。


 ユメミコが吾輩の部屋に入る時にドアをノックしたのは、中にタカカズがいるかもしれないと思ったからだろう。


 なぜかアイツは今日に限って早く帰宅し、自室ではなく、リビングで自習をしているのだった。


 そんなこと、一度もしたことないのに。


 妹の友達が家に遊びに来て、リビングでママさんに挨拶をする、その一瞬のためにカッコつけたわけである。


 どこまでも浅い男なのであった。


 残念ながらママさんはわざわざ玄関に行って出迎えたので、その雄姿を見せることは叶わなかったわけだが。


 そんなことはどうでもいい。


 吾輩の部屋でユメミコと二人きりになったので、モコが来る前に尻尾を使って会話をすることにした。


 モコは支度が遅い子なので時間はある。といっても、ついでにジュースとお菓子を用意する、気の利いた子でもあるのだが。


 尻尾をフリフリ。


「未来に帰らないとダメなのか?」

「あらトラちゃん、帰りたくないの?」


 ユメミコが正確に尻尾文字を読み解いた。


「ママを悲しませる」

「あぁ、モコちゃんのお母さんね」


 同情してくれた。


「でも、未来にもトラちゃんと会えなくて寂しがってる人がいるのよ?」


 世の中は、なんて切なさに溢れているのだろう。


「わかった」

「そう言ってくれると助かる」


 と、安堵あんどの表情を浮かべるのだった。


 この世界との別れ。


 ということは、吾輩の部屋ともさようならだ。


 日が沈む前に、外の景色が見たくなった。


 窓台へジャンプ。


 高さが丁度いい。


 お隣さんの部屋は、今日もカーテンが閉じられていた。


 やっぱり胸が痛んだ。


「大丈夫?」


 ユメミコが心配して寄り添ってくれた。


「大丈夫だ」

「本当に?」


 寂しいけど、元の世界に帰らなければならない。


「レイカちゃんのためにも、帰った方がいい」

「レイカちゃんって?」


 そこで猫嫌いの隣人について説明した。


「え?」


 話を聞いたユメミコがひどく狼狽うろたえるのだった。


「ちょっと待って」


 と言いつつ、カバンの中から手帳を取り出して、慌ててページをめくるのである。


「どういうこと?」


 吾輩にではなく、自分に問い掛けた。


「ねぇ」


 改めて吾輩に問い掛けるが、その目が怖かった。


「お隣さんが猫嫌いって本当なの?」

「本人に言われたから本当だよ」


 吾輩の尻尾文字は理解したようだが、その事実に納得していない様子だ。


「そんなわけない」


 ユメミコの独り言である。


「どうしよう」


 絵に描いたように右往左往するのだった。


「このままだとマズいことになる」


 そこで立ち止まり、吾輩を睨む。


「トラちゃんのせいで未来が変わっちゃうじゃないっ」


 吾輩が地球の未来を?


 変える?


 だと?

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