表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
吾輩は猫のYouTuberである  作者: 灰庭論
現代猫 編
1/18

1 タカカズ

 吾輩わがはいは猫のユーチューバ―である。再生数はまだ少ない。


 それは撮影者の腕が悪いだけなのだが、お気に入り登録が増えないのを吾輩のせいにしているのが、オス人間のタカカズであった。


 タカカズとは、高校生になったばかりのディレクター兼カメラマンのことである。自分のことを飼い主だと思っているが、吾輩は近藤家に飼われているため、それは間違いである。


 自分も近藤家に養われている身分にもかかわらず、あるじであるかのように振る舞うのが、タカカズの悪いところだ。


「お手」


 先ほどから撮影スタジオで、「お手」の練習をさせられているのだが、それを覚えさせられると、「お手」をしないと食事をもらえなくなるので、拒否し続けているところである。


「ハァ」


 溜息を漏らしたところで、同情する気にはならなかった。こういう時は、手を噛んで気持ちを伝えるより、分からないといった顔をするに限るのだ。そうすれば勝手に諦めてくれるからである。


 ちなみに撮影スタジオというのは、近藤家の三階にある、吾輩の居住スペースのことである。


 もちろん、そこに居候いそうろうさせてもらっているのはパパさんとママさんの温情であって、収入のないタカカズのおかげではなかった。


 客間のある一階と家族の寝室がある二階にカメラを持ち込まないことを条件に、動画の撮影を許してくれたのもパパさんとママさんのおかげである。


 他のユーチューバ―はキャットタワーなどを購入してもらっているが、吾輩の部屋には何もなかった。あるのはソファと、段ボールで作った寝床と、トイレ。


 その中古のソファにしても、自分が寛ぐためであって、吾輩のためではなかった。このように何から何まで自分本位なのがタカカズであった。


「見ろ、ほら、こうやってするんだ」


 ノートパソコンで「お手」をする猫の動画を観させられているのだが、真似する気にはならなかった。猫の気高い魂を売ってまで、服従する気にはならないからである。


 しかし十万を超える再生数は、嫌でも目に入ってしまうものだ。吾輩の動画は四桁を超えたことがないので、六桁は殿上猫のようなものである。


 憎い。パンチを食らわせたいほど憎かった。


 再生数の稼ぎ方は分かっている。可愛らしい声で鳴き、飼い主を愛してると、目で訴えるようにアピールすれば良いのだから。特に視聴者は、無防備な状態でゴロゴロしてやると喜ぶ。


 他にもオモチャで遊んであげたりと、全部わかっている。


 分かっているが、タカカズを調子に乗せないためにも従うわけにはいかなかった。少しでも調子づかせると要求がエスカレートするに決まっているからだ。


 猫の労働組合どころか、労働基準法すらなく働かされるので、相手の要求を飲まないことで自分を守るしかないというわけだ。


「トラ、お願いだから反応してくれ」


 そう言われても、ストライキあるのみ。


 ちなみに「トラ」というのは吾輩の名前である。オレンジのトラ柄が由来らしいが、だからといって猫に虎と名付けてはならない。その致命的ミスを犯したのがタカカズであった。


 悪事はそれだけではない。


 パパさんが上司から譲り受けたのに、それをなかったことにして、動画に「保護猫」のハッシュタグを付けているのがタカカズである。


 タグ詐欺も許せないが、同情を誘っても登録者数が伸びないことで、吾輩がどれだけ惨めな思いをしているか、想像すらしないタカカズが許せなかった。


 そもそも吾輩は撮影の許可を出した覚えはない。これは肖像権の侵害であり、さらに日によっては盗撮の被害を受けていることもあるのだ。


「今日も撮れ高ゼロかよ」


 そういうこともあり、少し前から、吾輩はタカカズの暗殺を考えるようになった。


「うわっ、クッセェ! オナラした」


 タカカズの自演である。


「今、トラがオナラをしました」


 やはり殺すしかないようである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ