終わりも始まりも、だいたい突然やってくる
連載物にはしたけれど、続きなんて考えてない。
エタり上等まかしとけ。
大打者だって3割しか打ってない。
世の中の半分以上は上手く行かないようにように出来ている。
だから俺は高望みもしないし、出来ない事はやらない。
かといって、勉強を怠るわけでもない。
たいして期待せず、あんまり望まず、そこそこ程度にやっていく。
それだけの事だ。
俺は、そこそこ勉強もするし成績も悪くない。
それなり友達もいて、部活もやるし、遊びもする。
とりたて変な先祖は居ないし、手からビームも出さないし、目から術とか使わないし、超スピードで走ったりもしない。
オシャレな呪文で地面がドカーン! 光がビューン! とか、漫画みたいな事も出来ないし、そもそもしたいと思わない。
「特別になりたい」とか「力が欲しい!」なんて思った事だって無い。
強いて言えばもう少し数学の成績が上がればなーと思ったくらいか?
ひょんな事から厄介事にー!とか、変なヤツと友達になってからー!とか、出生の秘密ー!とか、漫画の中の話だと思ってた。
なのに……。
俺の部屋の真ん中で、光り放ち浮き上がる、『本』が俺に向かって、
『私と契約し、魔法を継承せよ。田中寿和!!』
「……え、嫌だけど」
どうしてこうなった……。
「ねーちゃん、ご飯」
開かずの扉に呼びかけて、晩のお膳を廊下に置く。
今日は親子丼に吸い物と漬物。
店屋物みたいなメニューだが、俺の手作りだ。
部屋から返事はない。バラエティー番組の音声は聞こえるんで、部屋の中にはいるだろう。
空になったを昼飯の器があるから、食ってはいるんだろう。それをもって、居間に戻る。
「お膳上げてきたよ」
「うん、じゃあ座れ。食おう」
親父に促されるわけでなく、いつもの席にいつものように座ると、お母さんがいつもと同じように手を合わせる。
「いただきます」
「いただきます」
いつものように、いつもの通りの、そこに姉貴の居ない食卓。
--「魔法少女。
幼稚園の頃、姉貴と一緒に見ていた覚えがある。
自称何の取り柄もない普通の女の子が、魔法の国の妖精から変身アイテムを貰って、派手な色の魔法のドレスに身を包み、町中に愛と希望を振りまきつつ、わるい悪魔をヤッツケル的なヤツだ。
正直俺はコレが好きじゃなかった。
俺としては同じ時間に放送してた男子向けのヒーローロボットモノが見たかったし、姉貴の魔法少女ゴッコに付き合わされるのも嫌だった。
小学校1、2年の頃まで、ナンチャラステッキで叩かれたり、ヒッサツワザで殴られたり。
毎日毎日そんな感じで、その頃から姉貴とは一定の距離を置くようになった。
当然だ。殴る相手の側に居たいなんて奴は、そうそう居ない。
姉貴はテレビっ子だったんで、距離を置くと必然的に俺はTVを見なくなり、姉弟の会話も減った。
殴られる事も無くなったが、中学を出る頃には姉弟の間には断絶に近い溝が出来た。
姉貴が引き籠もりになったのは、俺が高校に上がってすぐだった。
テレビっ子から卒業した後は、普通に部活に勉強に遊びにと、学生生活を謳歌していたんだが。
翌日。
一一野球部の活動を当面の間停止とする一一
月曜。朝練に出た俺たちが、部室の扉に張り出された張り紙に呆然とするしかなかった。
先輩共が不祥事をやらかして、警察のお世話になったのが校長と監督に伝わり、と。
月曜日の朝に、活動停止のお知らせが出た。
何をやったのか。飲酒か、暴力沙汰か。お察しでしか無いが、俺は突然目標を失った喪失感に、呆然とするだけだった。
学校側はこの件を真剣に受け止めてるって事なのか、活動停止は無期限。部員には転部が勧告され、野球部の道具は、部室から学校の倉庫へと移された。
大山と田崎と滝田さんは他校から声がかかり、新沢と森田は転校していった。
一年も引き抜きや転校で、バラケていった。友達が軒並み居なくなった。
俺には、引き抜きの声もかからなかったし、転校するにも、親に負担はかけたくなかった。
俺も、メダルと、盾と、集合写真を一箱にまとめ、自分のグラブと、スパイクと、バットを丁寧に磨いて、家の物置にしまい込み、洗ったユニフォームを、丁寧にたたんで、箪笥の衣装箱にしまい込むと。
少し泣いた。
「としー、としかずー。ごはんよー」
「…ごめん、後で食うー。置いといてー」
我ながら涙声だった。
「置いとくからー、ちゃんと食べなさいねー」
「わかったー」
「……ふぅーーー……」
灯りもつけず、ベッドに倒れこむ。
リトルの頃からやってた。でも、正直俺は上手い選手でも強い選手でもなかった。
大義高で一年やってきて、二年目。レギュラーの目も見えてきたあたり。新しく入ってきた一年も経験者揃いで、今年は良い所まで行くんじゃないか?なんて言ってた矢先の出来事だった。
なにも、甲子園で優勝!とか、プロ選手にスカウト!とか、派手なもんじゃない。
勉強もやって、野球もやって、大学行って。実業団あたりで就職の糧になれば、くらいは考えてたけど。
高く飛んだ打球を、全力で走って捕ったアウトの感触も、狙ったバットの一振りが、相手の投球を吸い込んだ感触も、ホームに帰ってくる返球と競りながら、ホームベースに飛び込んだ感触も、たぶん、そのうち消えてくれる。
この涙は、それらが体から出て行ってる証だ。
……、さて。メソメソするのもここまでだ。晩御飯食わないと。
と、身を起こした時、隣の部屋、ねーちゃんの部屋からドスン!と大きな音がした。
なんだ? と思ったのもつかの間、俺の部屋に閃光が奔り、輝く本が現れた!
『私と契約し、魔法を継承せよ。田中寿和!!』
「……え、嫌だけど」
どうしてこうなった……。
キャラ設定も舞台設定もフンワリ。