赤い噴水
とある小学校の校庭では、生徒達が思い思いに体を動かして楽しんでいた。
ドッチボール、鬼ごっこ、サッカーやソフトボール……。
一人の少年が教室の窓からその様子を恨めしそうに眺めていた。
(いいなぁ。僕も遊びたいなぁ)
少年の右足にはギブスが巻かれていた。
少年の名は健太という。
先週の話だ。
健太が仲間達と校庭でサッカーをしていた時、クラスメイトの雄一が、横からスライディングキックでボールを奪おうとしてきたのに、当てられて派手に転ばされた。
「本当にごめんな。健太」
「いいってこんなの平気さ」
その日、健太は泣きべそを掻いて謝る友達を気の毒に思い、痛みをこらえて気丈に振舞った。
病院へ向かう担任の先生の車内で、健太は痛みにこらえきれず、思い切り泣いた。
怪我自体は骨に少しひびが入っただけだったので、健太はその日のうちに家に帰ることができた。
(どうして、雄一が楽しそうに遊べて、僕は遊べないんだ)
教室の窓際で、恨み言を頭の中で垂れ流していると、ピーピーと音が鳴りだした。
それは、健太の首に付けられた真っ赤な腕輪からだ。
(いけない、いけない。【ストレス】やっちゃった)
ストレスを感知すると、首輪から音が鳴る仕組みなのだ。
この音を無視すると、大変良くないことになる、と健太は母親から強く言われていた。
大人の場合は、一分以上音を鳴らしてしまうと鎮静剤が首輪から発射され、その場で気絶してしまうらしい。
ただ、子供には刺激が強いという理由で、鎮静剤は付いていない。
代替となる機能が付けられていると噂があるのだが……
健太はいつも母親から言われているように深呼吸をした。
すると数十秒ほどして、音は鳴りやんだ。
退屈な昼休みが終わって、5限目の授業は体育だった。
クラスの男子たちが着替える中、健太は自分の席に座って本を読んでいた。
「いいな、健太は。体育出なくてよくて」
ピー―ーーー!
当の雄一から、そんなことを言われ、健太の首輪は、騒がしい音を立てた。
(僕が体動かすの大好きなの知ってるくせに。お前のせいでこうなってるのに)
健太は頭に血が上るのを感じ、そしてその気分のまま勢いよく立ち上がった。
首輪の音を無視して、雄一を睨みつける。
「健太、音鳴ってるって。は、早く深呼吸しろよ」
「うるさい。僕に命令するな」
音を聞きつけたのか、担任の先生が教室に慌てた様子で入ってきた。
「健太君。どうしたんだ。落ち着きなさい」
「うるさいうるさいうるさいうるさい」
「これはまずいな……間に合わない。皆!耳を塞いで、目を瞑って、床に……」
先生がそう言い終える前に、健太の首からポンと爆発音を鳴った。
首輪は爆発し、健太の頭は飛び上がって、教室の天井にぶつかって、形が大きく崩れた
どす赤い血液が噴水のように健太の首から噴き出している。
「うわー」
初めに首輪を鳴らしたのは彼の目の前にいた雄一だ。
雄一は健太の血を大量に浴びて、ショックのあまり泣き叫んでいた。
そのうちにクラス中からピーピーとけたたましい音が鳴りだした。
「皆!落ち着いて!とにかくこの教室から出てください!」
そう叫ぶ担任の首輪もピーピーと音を上げていた。
「皆、早く動いて!はや……うっ」
担任の首輪から鎮静剤が発射され、担任はその場で眠りこんだ。
その後、クラスの至る所から赤い噴水が上がった。
とても綺麗な光景だった。