複雑な事情
圭君視点です。
「さてさて圭さん。さっき私が圭さんを応援した理由を、ハル姉さんに聞かれるのが嫌だと言ったのは覚えてますか?」
「はい、もちろんです」
なんか、面倒くさいとか言ってたな……
「何が面倒なのかっていうのは、ようはハル姉さんに聞かれると、私は闇堕ちを心配していましたーって、ご本人に言わないといけなくなるんですよ。そうなったら当然ハル姉さんは、迷惑かけてごめんなさいってなるじゃないですか」
「それは確かに、なりそうですね」
「それが嫌だから聞かれたくないんです。ご理解頂けたのなら、圭さんもハル姉さんに言わないで下さいね」
「分かりました」
ミオさんが、色々と複雑な事情から僕を応援してくれたんだって事も分かったし、ハルさんに余計な心配をかけさせないために、ハルさんには言わないでおくというのも納得できる。
ハルさんに隠し事をするというのは気が引けるけど、これは確かにハルさんには言わないでおく方がよさそうだ。
「圭さんが話の分かる方で良かったです。まぁ分かって下さらなかったら、記憶を消すだけですけどねー」
「え……」
「ふふっ、私は色んな世界で、たくさんの人の記憶を消してきてるんですよ。圭さんの記憶くらい、簡単に消せます」
簡単に消せるっていうのは、記憶を消す力を使うのが難しいとかという事ではなくて、そんな恐ろしい事も躊躇いなく出来てしまうという事ですね……
「そうですね」
僕はまだミオさんに信用されてない。
そしてミオさんは闇堕ちの事しか考えてない。
だから、僕の発言……いや、考え方をみたミオさんの判断で、記憶を消されてしまうかもしれないんだ。
……ん? だったら、最初から応援なんてしなくても良かったんじゃないか?
「圭さん?」
「あの、本当に闇堕ちを防ぎたかっただけなら、最初から僕とハルさんから記憶を消せば良かったんじゃないですか?」
「え、そんなことして欲しいんですか?」
「絶対してほしくはないですけど……」
でも、本当に闇堕ちだけを防ぐのなら、それが一番の方法のはずだ。
それなのにどうして……
「まぁ、それは……ハル姉さんから圭さんの記憶を消したとしてもハル姉さんがこの世界を担当している以上は、また圭さんと出会う可能性がありますよね?」
「そうですね」
「さっきも言いましたが記憶消去というのは、何かの切っ掛けで、その記憶が間違っていることに本人が気付いてしまえば、正しい記憶が戻ることもあります。私の記憶消去が破られるなんて事はよっぽどありませんが、それでも100%ではありませんから」
「なら仮に今ここでミオさんに認めてもらえなくて、記憶を消されていたとしても、思い出せていたかも知れないってことですか?」
「そうですね。試してみますか?」
「全力でお断りします!」
僕は、ミオさんの声をかき消すように、大きな声で拒絶した。
自分でもこんな声が出た事に驚いた……
「まぁそうですよね。でも、思い出せる自信がないんですか?」
「それは、もし本当に消されたら絶対思い出してみせますけど、そんなお試しみたいな感じでハルさんとの大切な記憶を忘れるとか、そういうのがいやなだけです。別に思い出せるかに自信がないわけじゃないです」
まぁ、ハルさんと違ってミオさんは僕から記憶を消すことになんの躊躇いもないだろうし、そんな完全な状態の記憶消去をされても本当に思い出せるかっていう不安は、もちろんある。
それでも絶対思い出してみせるという意思は変わらない。
「ふふっ、分かってますよー。今ここで、『僕達の愛の力なら、記憶を忘れるなんてあり得ない!』とか言って、お試し感覚で記憶を消すような人なら、私は認めていませんよ」
「そ、そうですか……」
そんな恥ずかしい事、言うわけない……
「そうですか? でも前に、『僕は記憶を消されても、思い出してみせます! ハルさんの事を!』って、言ってますよね?」
「あぁ……」
「勢いで言ってしまったにしても、私達の力の事を軽く考えてるからこその発言に思えます」
「すみません……」
「今回は確かに私達の力を打ち破れましたが、絶対に軽く考えないで下さいね。私達は普通の人とは違う存在だということを、よくよく考えておいて下さい」
「はい」
からかってばかりじゃない。
ミオさんは、僕とハルさんのこれからを考えて、助言してくれてるんだ……
「さて、そろそろ30分が経ちますね。真面目な重い話は終わりにしましょう」
「30分ですか? 経つと何かありますか?」
「圭さんの愛しのハル姉さんが帰ってきますよ!」
また急に元気な女の子のように変貌したミオさん。
愛しのとか……
「あぁ、ハル姉さんが帰ってきたら重い話は禁止ですよ。闇堕ちとか私が勝手に話しただけで、別に圭さんが知ってる必要性もないことですし」
「僕は聞かない方がいい話だったんですか?」
「いえ、別に話していけないし事ではないので、私から聞いたと言ってもいいんですよ。でも、折角の付き合い始めたばかりのラブラブカップルタイムに、そういう話は無粋でしょう?」
ラブラブカップルタイム……
「はぁ、ミオさんは僕をからかうのが本当にお好きなようですね……」
「そうですね! ふふっ、顔、真っ赤ですよ」
「そ、それは、何度もミオさんがからかってくるからじゃないですか!」
僕が恥ずかしさを隠しながら、怒ったように言うと、
「圭さん、これからもハル姉さんの事よろしくお願いしますね。必ず幸せにしてあげてください」
と、ミオさんは、物凄く丁寧に頭を下げてそう言った。
「も、もう……そうやって急に真面目にならないで下さいよ」
「ふふっ、お返事は?」
「もちろんです! 全力で幸せにします!」
「はい、いい返事ですね」
ミオさんとそんな話をしていると、急に景色が歪んでいき、
「ただいまですー」
と、ハルさんが帰ってきてくれた。
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