つかみどころのない人
圭君視点です。
ミオさんは、"闇堕ち"という病気について教えてくれている。
この病気にかかってしまうと、最悪の場合は殺さないといけなくなってしまうらしい……
「そもそも、どうなったらなる病気なんですか?」
「マイナスの感情を、自分で抑えきれなくなった時ですね。今回で言えば、大好きな圭さんに忘れられたショックで、自分の感情が押さえられなくなって、ハル姉さんが闇堕ちをしていた可能性がありました」
然り気無く"大好きな圭さん"とか言わないで欲しい……
心臓に悪い……
それにしても、マイナスの感情を抑えれなくなると発症する病気か……
つまり僕に忘れられた、辛い、悲しい、っていうような感情が、ハルさんに貯まってしまうのがいけないんだろう。
「だからハルさんから僕の存在を消して、僕に忘れられたというショックをなくそうとしていた、という事ですか?」
「そうです。それと、さっきの圭さんを試していたという話ですが、あれはもし圭さんがハル姉さんに対して、少しでも拒絶反応があった場合、ハル姉さんは圭さんに拒絶されたショックで、闇堕ちしていたかもしれませんよね? そういう事です」
そういう事……なるほど。
僕の事なんて何も知らないミオさんが、何でこんなに教えてくれたのかがやっと分かった。
僕が後々に、ハルさんの仕事では人を殺す事もあるんだと聞いて、ハルさんを拒絶するかもしれないということを、ミオさんは懸念していたんだ。
そのためにわざわざ"人殺し"なんていう嫌な言い方をして、僕の心にハルさんへ対する拒絶反応がどれだけあるかを、確認してくれていたという事か。
「その通りです。ご理解いただけたようですね。では、少し今さら感がありますが、圭さんの質問にお答えしましょうか。私が圭さんを応援した理由は……」
「ハルさんの闇堕ちを防ぎたかったから、ですね?」
「大正解! はなまるをあげましょう!」
「ありがとうございます」
何故かはなまるをもらった。
僕がさっき先生みたいって思ったからだろうか?
「そうですよー。ふふっ」
「本当にミオさんは楽しそうですね」
「そうですか?」
「いつもそんな感じ何ですか? それとも、初対面の僕のために無理をしてくれてますか?」
「無理なんてしてませんよ。私はいつもこんな感じです」
「それなら良かったです」
ミオさんが無理をしている訳ではないということも、もちろん良かったと思うけど、何よりこういう明るく楽しい人がハルさんの周りにいてくれる事を良かったと思う。
ハルさん達の仕事はとても大変な事だし、色んな悩みも多いはずだ。
辛い思いをしていないかが心配だったけど、大丈夫そうだ。
「辛いかと言われれば、それはもちろん辛い時もありますよ。楽しい時もあれば悲しい時もあります。仕事が上手くいくこともあれば、失敗することもあります。褒められることもありますし、もちろん怒られたりもしますね」
「僕等の日常と、そんなに違いはないんですね」
「そうですね。世界の浄化や管理、壮大な事を色々とやってはいますが、結局は他の世界とさして変わらない場所ですよ。上司、先輩、同僚、友達……色んな人達で協力し、支えあっているだけです。どこの世界でも似たようなものですね」
ミオさんの話を聞いていると、会社の世界というのも、そんなに遠い存在ではないように思える。
それに、ミオさんみたいな変わった人が普通にいてくれるのなら、そんなに厳しい場所ではなさそうで、安心した。
「私、変わってますか?」
「あくまでも、僕からみたらですよ」
真面目に話しているはずなのに、からかってきたり……
ふざけているのかと思えば、急に真剣になったり……
つかみどころのない人というのは、こういう人の事をいうんだろうか?
「私ほど単純明快な存在はいませんよ。私は、基本的に闇堕ちの事しか考えていません。それが私の仕事ですからね。圭さんとハル姉さんがお似合いだとか、圭さんが信用できるかどうかとかは二の次、三の次くらいにも考えていません」
信用出来るかを考えていない?
それはつまり……僕はまだ、ハルさんと共にいることを一旦認めてもらえただけで、ミオさんは僕を信用している訳ではないという事なんだから、僕の行動によってはハルさんと引き離される可能性が……
「あはははっ! ここまで面白い人は久しぶりに見ましたね。今の私の言葉を、そういう風に捉えますか。流石はハル姉さんの彼氏さんですね!」
少し考え事をしていたら、ミオさんに笑われてしまった。
しかもかなりの大笑いだ。
「今の僕の思考、そんなに面白かったですか?」
「えぇ。認めてもらえたと浮かれるだけではないようで、なかなか興味深いです。"圭さん"ですね。覚えておきます」
「これだけ名前を呼んで下さっていたのに、覚えてくれてはいなかったんですね」
「まぁ言い訳になりますが、私は沢山の人と関わる事が多いので、人の名前をいちいち覚えないようにしてるんですよ。名前を呼ばないといけないような状況だったら、その人の心を読んだり記憶を覗き見たりして、その場凌ぎで呼べますからね。ちゃんと覚えるのは、本当に覚えようと思った人だけにしています」
それなら、僕の名前はちゃんと覚えようと思ってくれたのか?
まだ信用はしてもらえていないけど、名前は覚えてもらえたみたいだし、ハルさんと共にいていいと認めてはもらえたんだ。
それは本当に嬉しい事だと思う。
「まぁ確かに信用云々はしていませんが、期待はしています。それと、私は本当に、圭さんがハル姉さんを思い出してくれて良かったなーって、思ってますからね。これからも頑張って下さいね」
「はい!」
ミオさんはとても優しく微笑んで、応援してくれた。
常に僕を試しているような雰囲気もあって、先生みたいなのも変わらない。
その上、人をからかうのが好きで、とても楽しそうで、どこまでもハルさんの事を考えてくれている優しい人だ。
こんな凄い人に期待してもらえているというのは、とても誇らしい。
その期待に沿えるように頑張ろう。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




