感受
圭君視点です。
ずっと僕の心を読んでいたというミオさん。
今僕を試して、ハルさんと共に居ても大丈夫かを判断していたらしい。
ちゃんと認めてもらえたようで僕も安心したけど、ダメだと思ったら僕とハルさんの記憶を綺麗に消してしまおうとしていたなんて、確かに応援してるとか言っておいてって感じだ。
「そうですよね。だから先にそう言ったんですよ?」
「……はい。ありがとうございます」
質問してなくても、僕の心を読んで会話してくれるんですね。
「それはそうですけど、だからって心で話しかけられましても……」
「えっと……失礼しました」
心を読んでくれてるならと思ったけど、ちょっと失礼だったかな。
でも改めて考えると、ミオさんは今の僕との会話中、僕に分かりやすく説明しながら、僕の話を聞いて、更に僕の心も読んでいた事になるんだ。
それって……目茶苦茶大変じゃないか!
えっと、お疲れ様です。
「心が読まれてたっていうのに、圭さんはその事をあんまり気にしていないみたいですね。そんな風に心配されたのは初めてです」
「え? 気にしてますよ?」
「大抵の人はもっと気にしますよ。それこそ気持ち悪いとかも言われますね」
「僕は気持ち悪いとは思いません。大変だろうとは思いますけど」
「そうですか……」
それに僕からしたら、心を読まれてたなんて事よりも、僕の考え方や返答次第で、僕とハルさんの記憶が消されそうだったという事の方が大問題だ。
結果として、こうして大丈夫だと判断してもらえたからよかったけど、もしダメだったと考えると、とても恐ろしい。
何より僕だけじゃなくて、ハルさんからも消そうとしていていたというのが、本当に恐ろしい事だと思う。
僕はハルさんに記憶を消されて、自分がハルさんの事を忘れてしまった事が、本当につらかった。
大切な記憶が消されていると、気付く事すらできない状態……
思い出せた今だからこそ、あの時の自分をとても悲しく思う。
そしてハルさんも、とてもつらく悲しかったはずだ。
大切な人に、自分の存在を忘れられてしまうんだから……
その大切な人との思い出は覚えていられるけど、相手にその思い出はない……
それはとても残酷な状況だと思う。
大切な人を忘れてしまうのと、大切な人に忘れられてしまうのは、どっちが悲しいのか?
そんなの、どっちも悲しいに決まってる。
もし僕がミオさんに認めてもらえなかった場合、僕とハルさんの記憶は消されていた。
それはつまり、僕もハルさんも大切な人を忘れてしまうし、忘れられてしまうんだ……
そんな恐ろしい事はない……
「そうですね。そんな恐ろしい事を実行しようとしていた私。本当に恐ろしいですね」
「え? 僕はミオさんを恐ろしいとは思いませんよ。ミオさんはとても優しい方だと思います」
「はい? 優しい? どこが?」
「心を読んでいたなんて、言わなくても僕には分からないのに、教えて下さる辺りとか、本当に優しいと思いますよ」
「記憶を消されそうだったんですよ?」
「でも、大丈夫だと判断して下さったんですよね?」
「それはそうですが……」
消されそうだったというのは本当に恐ろしいと思うけど、もし消されていたとしたら、それは僕の覚悟が足りなかったという、僕の問題だ。
そもそもミオさんだって、僕達の記憶を消したい訳じゃないんだから、ミオさんを恐ろしいと思う理由はない。
だからこそ、今こうしてミオさんに認めてもらえた事が何よりも嬉しい。
僕もハルさんも記憶を消されなくていいんだから……
ん? 待てよ……
何でハルさんの記憶を消す必要があるんだ?
「ふふっ、驚きの思考回路ですね。話が早くて助かります」
「ハルさんの記憶を消す必要性の話ですか?」
「はい」
ハルさんは確か、自分達は人と関わってはいけない存在だから、もし見られたりしたら記憶を消すって言っていた。
だから本当なら僕の記憶は消さないといけなかったけど、僕がちゃんとハルさんの事を隠していればいいって……
それでも消したのは、僕を巻き込まないようにするためだ。
僕には記憶を消される理由がある。
でも、ハルさんはそもそも記憶を消す側であって、消される必要性がない。
それなのに、僕にハルさんと共にいる資格がないからって、ハルさんから僕の記憶まで奪うなんて……
何で、そんな事……
「ハル姉さんの記憶も消さないといけない理由は、消さずに放っておくと、ハル姉さんが"闇堕ち"してしまうかもしれないからです」
「闇堕ち?」
「はい。私達のような存在にだけ発症する病気だと思っておいて下さい。この病気は簡単には直せません。最悪の場合、殺さなければいけなくなります」
「なっ!?」
殺す? 病気なのに?
ハルさんはその病気になりそうって事か!?
「ハルさんはその病気にならないんですよね?」
「絶対にならないとは言えませんが、よっぽど大丈夫だと思いますよー」
ミオさんは、さっきまで凄く真剣に話してくれていたのに、急に笑いながら大丈夫だと言った。
こんな風に言われると、全然気にしなくていいように思えてくる。
僕が心配していたから、あえてそういう言い方をしてくれたんだろう。
お陰で、少し落ち着く事が出来た。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




