読心
圭君視点です。
「少し真面目な話をしましょうか」
そう言ったミオさんは、さっきまでとは雰囲気が全く違う。
まるで学校の先生のようだ。
「真面目な話ですか?」
「はい。応援しているとか言っておいてなんですが、本当にハル姉さんと恋人になる覚悟はありますか? 私達は普通の人ではないんですよ」
「僕はまだ、ハルさんがどんな仕事をしているのか、今までどんな風に生きてきたのかを、何も知りません。だから僕ではハルさんが困っていても、助けることも出来ないかもしれないです……それでも、ハルさんの支えになりたいという気持ちは変わりません」
違う世界で働いているし、不思議な力も持っていて、世界の浄化や町のパトロール等と、ハルさんの事は僕に分からない事が多い。
そんな人を支えていけるのかという不安はもちろんあるし、今の僕に具体的に何が出来るのかは、まだ分からない。
ハルさんと一緒にいるっていうのは、きっと凄く大変な事なんだろうけど、それでも覚悟はもちろんある。
「なるほど、そうですか。では……」
僕の返事を聞いたミオさんは、僕の目を真っ直ぐに見て、
「ハル姉さんと同じ所で仕事をしている私が"人殺し"だとしても、同じようにハル姉さんを支えていきたいと言えますか?」
と、聞いてきた。
急だったのもあって、ミオさんの言葉がすぐには理解できなかった。
"人殺し"……
今ミオさんは、自分の事を人殺しだと言ったんだ……
「あ……あの、人殺しって……?」
「あぁ、誤解のないように先に断っておきますが、ハル姉さんは人を殺した事なんてありませんよ」
ハルさん"は"人を殺した事がない……
それはつまり……
「ミオさんは、あるんですね……」
「えぇ、私以外にもハル姉さんと共に仕事をしている人達の中には、人を殺した事のある人が何人かいます」
ミオさんは、当たり前の事を説明するかのように、淡々とそう言った。
こんな優しい見た目の人が、人を殺した事があるだなんて……
「あの、なんで殺したのか……とか、聞いてもいいですか?」
「圭さん達の暮らすこの世界は、とても平和ですよね。多少の治安は悪いようですが、大半の人々は笑いあって暮らしているように見えます」
「そうですね」
「それに比べて他の世界というのは、もっと恐ろしい場所なんですよ」
「戦争が当たり前の世界とかですか?」
「そういう世界ももちろんありますし、もっと残酷な世界も存在します。そして、そんな世界の浄化等が私達の仕事なのですが、時として邪魔なものを排除しなければいけなくなる時もあるんですよ」
邪魔なもの……
そこにはきっと、"人"も含まれるんだろう……
ミオさんは、変わらず淡々と説明してくれている。
人を殺すなんていう恐ろしい話をしているけど、ミオさんを怖いとは思わない。
きっと、僕が理解しやすいように話してくれているんだ。
こういう優しい人達が、そんな仕事を……
「それは、世界のため……なんですよね?」
「そうですよ。私達は人のために動ける存在ではありません。常に世界のために動いています。例え人を殺さなければいけないとしても、それが世界のためになるのなら、実行するのが私達ですから。ハル姉さんは、そういう場所で私達と一緒に仕事をしているんですよ」
そういう場所で仕事をしているというわりには、ハルさんは人を殺していないとミオさんは言った。
つまりハルさんは、その邪魔なものを排除する仕事をしていないんだろう。
でも、今目の前にいるミオさんはしてるんだ……
やっぱりどんな理由があっても、人の命は奪っていいものではないと思う。
もちろんミオさん達にも事情があることは分かっているんだけど、それでも他に方法はなかったのかと思ってしまう……
「私まで受け入れる必要はありませんよ。この世界において、人を殺すという事は、絶対にやってはいけない事ですからね。それをやっている私を受け入れられないのは、至極当然の事です」
「すみません……仕方ない事だったんだっていうのは、分かってるんですけど……」
「そんな"仕方ない事"って思い込んで、無理に受け入れようとするのはよくないです。生まれ育った環境の違いですからね。宗教による考え方の違いとか、そういうのと一緒です。無理に受け入れる必要はありません。ただ、理解して頂ければ……」
「理解ですか……」
「自分とは違う価値観で育った人もいるんだ、という理解で大丈夫です」
「違う価値観、ですか……」
ミオさんは一体、どんな世界で育ったんだろうか?
それこそ、人を殺してはいけないなんていう法のない世界で育ったのなら、この世界はかなり平和に見えるだろう。
平和に見えるというより、異常に見えるのかもしれない……
違う世界で働いているって、本当に大変な事なんだな……
僕は少し、甘く考えていたのかもしれない。
ミオさんはそれを教えてくれたんだ。
「どうですか? そんな仕事もある場所で働いているハル姉さんを、それでも支えたいと思いますか?」
「もちろんです。むしろ、そういう仕事もあるからこそ、悩みも多いと思います。僕には解決出来なくても、ハルさんの悩み事を聞くことはできますから」
「……そうですか。それを聞いて安心しました」
「安心?」
「はい。実は圭さんに謝らないといけない事がありまして……」
謝らないといけない事?
なんだろう?
「勝手で申し訳ありませんが、さっきからずっと、圭さんの心を読ませてもらっていました」
「えっ?」
心を読んでた?
そんな事まで出来るのか?
「今の話をして、圭さんに少しでもハル姉さんに対しての嫌悪感とかがあるようなら、2人の記憶からお互いの事を綺麗さっぱり消そうかなーと、考えてましたので」
なんて物騒な事を考えてたんだこの人は……
やっとハルさんと再会できたばかりだというのに……
「ふふっ、本当に物騒な考えですねー」
「えっ!? あぁ……僕の心読んでるんでしたね」
「はい。今心を読んで、圭さんがハル姉さんと居ても大丈夫かを判断して、ダメそうだったら消そうとしてました」
「僕は今、試されていたんですね……」
安心したという事は、大丈夫だと判断してもらえたという事でいいんだろうか?
「いいですよ」
「……そうですか。ありがとうございます」
「いえいえ」
ミオさん……
本当によく分からない人だ……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




