隠し事
圭君視点です。
僕がハルさんの事を思い出すことが出来た理由を、ミオさんはハルさんの使った力が弱かったからだと言った。
でもハルさんは弱い力を使ったなんて言っていなかったし、なんで思い出せたのか分からないと言っていた。
という事は、ハルさん本人は気づいていないのに、力が弱かったって事だ……
「力が弱かったというのは、ハルさんが気づいていないうちに、ハルさんの力が弱くなっているとか、そういう危ない感じの事ですか?」
「圭さんは心配性ですね。大丈夫ですよ、別にハル姉さんの力の衰えとかではないですから。それに弱かったと言っても、普通に破られるような力ではありませんでした。ハル姉さん本人も気がついてないくらいの、本当に小さな綻びですからね」
「小さな綻び?」
「ガラスにとても小さいひびが入っているようなものです。光に照らしてやっと気づくような、そんな感じです」
「なるほど……」
ミオさんは僕にも分かるように説明してくれる。
使った力が弱かったというのも、ハルさんにとっての危ない事ではないみたいで安心した。
でもそれなら尚更に、どうしてハルさんは弱い力を使ってしまったんだろうか?
「力の衰えとかではないのなら、どうしてそんな小さなひびが入ってしまったんですか? それも、ハルさん本人が気づいていないだなんて……」
「まぁおそらくは、無意識下で力を制御してしまったんでしょうね。やっぱり圭さんに忘れられたくなくて」
「えっ……」
「つまりですね、圭さんが私達の力を破る事が出来たのは、圭さんのハル姉さんへの愛というよりも、ハル姉さんの圭さんへの愛って事になりますねー! ふふふっ、愛されてますね!」
「えっと、その……ありがとうございます」
真面目かと思えば、またからかってくる……
しかも目を真っ直ぐに見て言われるので、正直かなり恥ずかしい……
それにしても、ハルさんが無意識下で力を制御してしまっていたとは……
あの時の泣いていたハルさんを思い出す……
本当にどれだけの思いを抱えていたんだと心配になるけど、それと同時に、僕の事をそんなに思ってくれていたのかと思うと、嬉しかった。
あれ……?
でも結局今の話って、僕がハルさんの力を破れたのは、力に最初からひびがあったからって事だよな?
そして、ハルさんすらも気づいていないそのひびに僕が気づけたのは、あの時応援してくれたミオさんのお陰だって事だ。
なのにミオさんは、どうしてハルさんに言わなかったんだろう?
「あの、ミオさん……」
「はい?」
「さっきハルさんと、記憶を消しても切っ掛けがあれば思い出せるって話をしていましたよね?」
「そうですね」
「僕に思い出す切っ掛けをくれたのは、ミオさんじゃないですか。なのに何でその事をハルさんに言わなかったんですか?」
今こうして僕に話すんだったら、別に隠していたかった訳でもないはずだ。
それならさっき、ハルさんに切っ掛けは自分だって言えばよかったのに、ミオさんは話を逸らしてまでハルさんに隠した。
もしハルさんの力が弱かった理由が、本当に力の衰えとかだったのなら、ハルさんには隠す必要もあるかもしれない。
でもただの僕への思いからなんだというのなら、さっきと同様にハルさんも僕もからかいながら、言えばいいはずなのに……
「圭さんも変な事を気にしますね……もう、思い出せた、やったー! で、よくないですか?」
「よくないです」
「んー、隠した理由は……あれですね! 本当に私のアドバイスが切っ掛けかなんて分からないじゃないですか。アドバイスしたのは事実ですけど、圭さんがハル姉さんを思い出した切っ掛けは別にありますよね? だから私のアドバイスは一切必要なかった可能性もあるわけで、そうだったら、切っ掛けは私っていうのも嘘になってしまいますので……」
「なんか……今、無理矢理に理由をつくっていませんか?」
ミオさんは物凄く分かりやすく、さっきハルさんに隠した理由を今つくっていますというかのように、話してきた。
本当の理由は別にあるというのを隠す気がないような、僕に突っ込まれるのを待っていたかのような、そんな感じだ。
これも僕をからかっているのだろうか?
本当によく分かんない人だと思う。
「それで、隠した本当はなんなんですか? 教えてもらえないと、僕がハルさんに言っちゃいますよ? ミオさんは夢に出てきてアドバイスをしてくれたって」
「そんなっ、ハル姉さんという人がありながら、私の夢を見るなんてっ!」
「……ミオさん?」
「圭さんはノリが悪いですね」
「それは申し訳ないです」
多分ミオさんは、人をからかうのが好きなんだろう。
もう、そういう事にしておこう……
「まぁ隠した理由は、単純になんで私が圭さんを応援したのかっていうのを、ハル姉さんに聞かれるのが嫌だっただけです。何より一番、メンドクサイ……」
「え、えーっと……」
「いえ、すみません。こっちの問題です」
こっちの問題って言われてもな……
でも、どうして応援したのかを聞かれるのが嫌って、どういう事だ?
応援なんて、応援したいからするもので、それが理由に……ならないな。
同じ環境にいる、よく知っている人達の恋愛を応援するのなら、応援したいからしたという理由でも納得はできる。
でもハルさん達は同じ環境どころか、世界まで違うんだ。
例えハルさんがミオさんに僕の事を相談していたとしても、僕とミオさんは知り合いでも何でもないんだし、僕の事を何も知らないミオさんが、世界を越えてまで応援しに来るのは不自然だ。
「ミオさんは、何で僕の事応援してくれたんですか?」
「その質問は非常に答えにくいです」
「それは、すみません……」
「いえ、答えられないわけではないのですが、多少の前置きが必要となりますので」
「前置きですか?」
「はい。それでも聞きますか?」
「えっと……お願いします」
僕がそういうと、ミオさんはさっきまでとは全く別人だとも思えるくらいに落ち着いて、
「では圭さん。少し真面目な話をしましょうか」
と、とても優しく笑いながら言った。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




