はじめまして
圭君視点です。
「ちょっとハル姉さん! 変な連絡、寄越さないで下さいよ! ビックリしたじゃないですか!」
目の前の景色が急に歪み、その歪んだ景色を切り裂くように現れた青い髪の女性。
現れていきなり、少し怒り気味でハルさんに話しかけた。
「あっ、ミオ。えっと、ごめんなさい……」
ハルさんは少し驚きながらも、その女性に謝っている。
連絡とか言っていたし、おそらくさっきハルさんが連絡を送った相手なんだろう。
確かにあんな連絡をされたら、余計に心配になると思う。
きっとこの女性は、ハルさんが心配して違う世界から急いで来てくれたんだ。
「それで? 倒れる予定はこれからですか?」
「それが……何故かそんなに力を使わなくて、倒れずにすみました。何故でしょうね?」
「もしかして、こちらの……」
「瑞樹圭君です」
「圭さんから消した記憶を返したり、とかしてました?」
「はい、その通りですよ! 流石ミオですね」
「まぁ、来る前から大方の予想はしていましたから……」
大方の予想はしてたって……
ハルさんは流石だと褒めていたけど、そんな事を予想できるものなんだろうか?
「それで、何故私は倒れていないのでしょうか? 圭君も寝ていませんし……記憶をちゃんと返せていないんでしょうか?」
「いいえ、返せていますよ。力の消費や圭さんへの負荷が少なかったのは、既に圭さんが返してもらう記憶を思い出していたからでしょう」
「そうなんですね、良かったです」
ん? ちょっとまて……
この人、おかしくないか?
「それと圭君の記憶についてなのですが、私はちゃんと消したはずなんです。それなのに、何故圭君は思い出せたのでしょうか? ミオは分かりますか?」
「……一概には言えませんが、圭さんの記憶を消しても、圭さんのハル姉さんと過ごした事で身についた習慣までは消せていなかったからじゃないですか?」
「ん~? でもそれをおかしいと思わないように、辻褄を合わせたはずなんですが……」
「何か切っ掛けがあれば、その辻褄合わせが間違っていることに本人が気付いてしまいますからね」
「なるほど……でもそうなると、何が切っ掛けだったんでしょうか?」
「何でしょうね? それは私には分かりかねますが、何にせよ良かったですね! 思い出してもらえて」
「そ、そうですね」
ハルさんは特になんとも思っていないみたいだけど、このミオという人の言動はおかしい。
最初にここへ来た時のミオさんは、ハルさんが僕から消した記憶を返していた事も知らなかった。
予想はしていたとしても、それは確信ではなかったはずだ。
それなのに、なんで僕達の事にこんなに詳しいんだ?
ハルさんの性格から考えても、会社の世界の方でそんなに僕の話をしていたとも思えない。
僕が返してもらうはずの記憶を既に思い出していた事や、僕がハルさんと共に過ごす為の習慣が消えていなかった事が、どうして分かるんだろう?
「っと、それよりハル姉さん。報告、行かないとですよ」
「あぁ……」
「面倒で嫌な事は、早く終わらせた方がいいです。送るんで、早急に行って来て下さい。私は圭さんに自己紹介をしていますから」
「はい、じゃあお願いします。圭君、少し出掛けてきますね」
「えっと、はい。お気をつけて」
僕が悩んでいる間に、ハルさんが会社の世界へ報告に行く事になったみたいだ。
ミオさんが何もない所へ手をかざすと、景色がまた歪んだ。
そして今度はハルさんがその景色を切り裂くように入っていき、そのまま消えてしまった……
歪んだ景色は戻ったけど……これが違う世界に行ったって事なのか……
「それでは、改めて。はじめまして瑞樹圭さん。私はミオと言います」
「あ、は、はじめまし……て?」
ミオさんが挨拶をしてくれたので、僕も改めて"はじめまして"を言おうとして、変な違和感を感じた。
なんだろう? この感じ……
「ふふっ、本当は微妙にはじめましてじゃないんですよ。分かりますか?」
楽しそうに笑い、肩が震えるミオさんの耳には、大きくてキラキラと光るイヤリングがある。
初めて見るはずなのに、何故か見覚えがあるような気がする。
それにミオさんの声……
この声にも聞き覚えがあるような……
キラキラとしていて、青い髪で……青い……青い夢?
「あのっ! もしかして、夢で応援してくれた人ですか?」
「はい。大正解です!」
そうか、この人があの時の……
これで色々と繋がった。
ミオさんは最初から僕とハルさんの関係を知っていたんだ。
「その節はありがとうございました。ミオさんのアドバイスのお陰で、僕はハルさんと共にいられるんですね」
「いえいえ、頑張ったのは圭さんですよ。あんなアドバイスだけで私達の力を打ち破ったんですからね。本当に凄い事です」
僕が改めてお礼をいうと、ミオさんは笑いながら褒めてくれた。
その表情は本当に優しくて、心から僕達の事を喜んでくれているように思える。
でも急に、
「ふふっ、まぁ普通はそんな事、出来ませんけどね」
と、いたずらっ子のように笑いながら言った。
褒めているというよりは面白がっているような、そんな感じだ。
「そうなんですか?」
「そんなアドバイス1つで簡単に破られる力、意味ないじゃないですか。だから本当なら破れなかったんですよ」
「それなら何で破れたんですか?」
「それはもちろん、圭さんのハル姉さんへの愛! じゃないですか!」
「そ、そうですか……」
「いえ、冗談です」
「あ、冗談ですか……」
「んー、まぁ圭さんの絶対に思い出すっていう意思の強さも、それなりには影響を与えたとは思いますよ。でもやっぱり、そういう事だけで破れるほど、私達の"力"というものは弱くありません」
ミオさんのテンションがよく分からない……
いたずらっ子のようだと思えば、今度は真剣な面持ちで話してくる。
「あの、結局のところ、どうして僕は記憶消去の力を打ち破れたんですか?」
「それは、ハル姉さんの使った力が弱かったからですね」
「え?」
僕の質問に対し、ミオさんは冷静にそう言った……
でもハルさんの力が弱かったって?
それはハルさんにとって、大丈夫な事なんだろうか……?
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




