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桜色のネコ  作者: 猫人鳥


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コンタクト

善勝さん視点です。

 俺が兄ちゃんの家に到着したのは、女の泣き声がまだ盗聴器から響いてる時だった。

 そして今、玄関の前でも聞こえている……

 兄ちゃんの家の玄関の戸は、鍵はかかっていないようだ。

 つまり今家に入れば、俺はハルに会えるって事だ。


 だが、どうも入る気にはなれない……

 入ったとして、俺はハルになんて声をかければいいのかが分からない……


 俺が情けなくも悩みつつ、玄関の前で立ち尽くしていると、泣き声は段々と聞こえなくなってきた。

 どうしたものか……

 そろそろ入るか……


 そんな事をなやんでいると、盗聴器から、


「え……何ですか? これ……盗聴器?」


という声が聞こえた。

 兄ちゃんの服に仕掛けたからな。

 おそらく倒れた兄ちゃんを移動させようとして、盗聴器に気づいたんだろう。

 これはもう、入って行くしかないな。


「よぉ、キツネの姉ちゃん」

「あなたは!」

「どうもおかしいと思ってな、あの兄ちゃんの服に盗聴器仕掛けさせてもらってたんだわ」

「え……じゃあ、これ……」

「あぁ、だから話は全部聞かせてもらった。姉ちゃんがさっきのキツネって事だろ?」

「……」


 やっと会うことが出来たハル。

 大分目を擦ったようで、美人が台無しになって……ないな。

 話すのにこっちが緊張しちまうくらいの美人であることに、変わりはない。


 普通に話しかけてみたが、あまり俺と話す気は無さそうだ。

 それも当然か。

 さっきの2人の会話を盗聴してた俺となんて、話したくはないだろう……

 そこは申し訳ないとは思うが、俺もひくわけにはいかない。


「ありがとうな、助けてくれて」

「いえ……」


 俺から視線を反らし、何か悩んでいるみたいだ。

 まぁ大方、俺の記憶を消すとか、そんな事だろう。

 記憶を消されたら全てが振りだしに戻っちまう。

 何がなんでも、それだけは阻止しないとな。


「今回だけじゃねぇよな? 助けてくれたのは」


 俺がそう言うと、


「え? 何の事ですか?」


と、こっちを向いた。

 俺の話も聞かずに、いきなり記憶を消してくるという事は無さそうだな。


「俺は前に、犯人を追ってる途中にドジってな、犯人に殺されかけた事があるんだよ。でもたまたま空からデカめの木の実が落ちてきてな、それが犯人に当たって、ひるんだところで形勢逆転して、犯人を捕まえれた事があるんだ。その空から木の実落としてくれた鳥には本当に感謝したもんだ」


 落ちてきた木の実は、鳥が運んでいたにしては少し大きすぎた。

 その上、たまたま犯人に当たるなんてありえねぇ。

 あの時はこんな奇跡が起きるもんかと思ったが、鳥になれる人がいたんなら話は変わってくる。


「あぁ」

「やっぱりな。アレ、姉ちゃんだろ?」


 この反応からしても、間違いないな。

 俺はもう、二度も助けられているんだ。

 もしかしたら気がついてないだけで、今までも沢山助けられていたのかもしれないな。


「でもなんで私だと? さっきの圭君との話を聞いていただけなら、私が鳥になれるって分かりませんよね?」

「あの石黒が言ってたからな。あの兄ちゃんは最初、怪我をした猫を拾って、それから鳥を部屋に招き入れていたってな。で、キツネが姉ちゃんだって言うんなら、猫と鳥も姉ちゃんだろ?」

「なるほど……そういう事でしたか」


バキッ!


「うぉっ!」


 苛立ったのかは分からねぇが、ハルはいきなり盗聴器を壊した。

 聞いていた俺の耳が壊れたらどうしてくれるんだ。

 まぁ、聞いていた俺が悪いんだが……っていうか、盗聴器を素手で壊すって……


「とりあえず、ここを出てお話しましょうか」

「そうだな。だがこの散らかった部屋は、そのままにしといてくれよ」

「そういうわけにはいきません」


パンッ!


 ハルが両手を合わせると、散らかっていた兄ちゃんの部屋の物は勝手に動きはじめた。

 落ちていた本は本棚へ、ぐちゃぐちゃの衣服は綺麗にたたまれてタンスやクローゼットに入っていく。

 その信じられない光景を、今俺に平気で見せたという事は、間違いなく俺の記憶を消すつもりなんだろう。


「これで皆の記憶も消して、兄ちゃんは一切の関わりがなかったって事にしたいのか?」

「……」

「姉ちゃんの事情はよく分かんねぇが、それは兄ちゃんに対してあんまりじゃねぇのか?」

「……もうこの部屋に用はないはずです。場所を変えましょう」


 怒ってるのかなんなのかもよく分からない、冷たい雰囲気だ……

 まるで感情のない人形みたいだな……

 それに、やけにこの部屋から出ていきたがっているような……


「あぁ、俺の記憶も消したいのか」

「な、何故急に?」

「やけに出ていきたがってるからな。俺の記憶をここで消すと、移動させるのが大変なんだろう?」

「……」


 都合が悪いと黙るみたいだが、兄ちゃんと一緒でハルも嘘はつかないみたいだな。

 それなら変な嘘に騙される心配もねぇし、話し合いで解決出来る事もあるはずだ。


「ものは相談だがよ、記憶を消すのは力の消費量も大きいんだろ? だったら俺の記憶は消さなくていい。俺は姉ちゃんの事を言いふらしたりもしないからな」

「それはあなたが決める事ではありません」

「俺の記憶を消さない利点は、姉ちゃんにもあるぞ」

「なんですか?」

「俺と姉ちゃんが知り合いなら、俺の携帯に直接連絡してこればいい。もう匿名の電話をしなくてよくなるぜ」

「確かに……」


 ハルは悩み始めた。

 やっぱり匿名の電話は、ハル自身もあまり好んではいなかったようだ。


「あまり警察にも関わりたくないなら、匿名の電話なんてやめたいだろ?」

「それはそうなのですが……どうやってあなたを信用しろと仰るんですか?」

「えっ? 俺、信用できねぇか?」

「はい」

「そんなにはっきり言われると、ちょっと傷つくな……」


 さっきからろくに返事をしなかったくせに、こういう事は即答ではっきりと言うとか……

 だがちょっとは俺の話を聞く気になってきたみたいだ。

 あとは俺がハルに信用してもらうだけだ。


読んでいただきありがとうございます(*^^*)

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