挨拶
圭君視点です。
ハルさんの家にお邪魔させてもらえる事になったので、勉強道具や食材等の荷物を準備した。
これでハルさんが起きるまで、ハルさんの家で待っていられる。
「あっ! ハルさん、靴がないですよね?」
玄関までいったところで、ハルさんの靴がないことに気がついた。
「別になくても、大丈夫ですよ? 家に入る前に浄化しますから」
「ダメですよ。足を怪我しちゃうかもしれないですから」
「圭君はちょっと過保護ですね」
「そんな事ないですよ。もう外も暗いですし、何が落ちてるかなんて分かりませんから。僕がおんぶしていくので、捕まって下さい」
「えっ……それは、ちょっと……」
僕はハルさんが背中に掴まれるように屈んだけど、ハルさんは掴まってくれなかった……
ちょっと、残念だ……
「それなら猫になれますか? 抱っこして行くので……」
「……では、それでお願いします。少し目を閉じていて下さいね」
ハルさんが動物になる時は結構眩しく光ってしまう。
少し照れているハルさんをもう少し見ていたい気持ちはあるけど、折角僕の目を気遣ってくれているので、僕は目を閉じた。
「もう大丈夫ですよ」
「じゃあ、行きましょうか」
「はい。ありがとうございます」
猫になってくれたハルさんを抱き上げて、家を出る。
鍵をかけていた時に、
「よぉ、解決したみてぇだな。これで約束は解消だな」
と、声がした。
見ると、前に僕と一緒に石黒さんに捕まった刑事さんが立っていた。
「善勝さん! 何でここにいるんですか!」
刑事さんに気づいたハルさんは、驚いたようにそう言った。
今、猫の姿なのに、この刑事さんの前で喋って大丈夫なのか?
というか今、善勝さんって……
「あ? 約束は破ってねぇぞ。ちゃんと兄ちゃんと関わってねぇからな。ただ、遠くから見てただけだ」
「それは関わった事と同じだと思うんですが?」
「でも兄ちゃんは気がついてねぇだろ? なら、関わってねぇのと一緒だ」
刑事さんは普通に猫姿のハルさんと喋ってる……
約束とか、何の話だろう?
何か僕だけ置いてけぼりな感じだ……
猫姿とはいえ、ハルさんを抱えているのは僕なのに……
「で、何故今ここにいるんですか? こんなところにいて、関わる気満々じゃないですか」
「兄ちゃんが猫を抱いて家に入るのが見えたからな、多分解決すると思ってな。ここで待ってた。寒かったんだぞ」
「知りませんよ」
「ハルは俺に結構冷てぇよな。この寒い中、邪魔しねぇように呼び鈴も押さず、出てくるかも分かんねぇのに玄関前で待ってた俺の気持ちも、少しは考えてほしいもんだね」
「待っててほしいなんて頼んでないですよ」
ハルとか、呼んでるし……
「あの……ハルさん? この刑事さんとお知り合いなんですか?」
「んー? なんといいますか……」
置いてけぼりにされている感じが辛くて、ハルさんに質問すると、ハルさんは刑事さんから視線をはずし、ちゃんと僕を見上げてくれた。
よかった……
「この間知り合いになったんだよ。で、諸々約束したんだ」
「約束ですか?」
「ああ、二度と兄ちゃんに関わるな! とかな」
「え?」
「そんな言い方はしていません」
「そうだったか?」
ハルさんが刑事さんとの関係を言い淀んでいると、刑事さんがこたえてくれた。
ハルさんが猫姿で喋ってるし、ハルさんの事情を知っているということなんだろうけど……
でもこの間知り合ったってさっき言ってたし……
それに二度と僕に関わるなって、どういう事だろう?
「まぁ、細かい事はまたハルから聞いてくれ。俺は挨拶に来ただけだからな」
「なら、今じゃなくてもいいのでは?」
「そういうなよ。俺は熊谷善勝だ。熊さんって呼ばれてる。今後ともよろしくな、兄ちゃん」
「よろしくお願いします。熊谷さん」
僕が軽く会釈をすると、
「兄ちゃんもか……」
と、熊谷さんは少し残念そうな顔をした。
何が僕もなんだろう?
「では失礼しますね」
「待てハル。何処に行こうとしてるんだ?」
「ちょっと圭君に、私の家まで来てもらおうかと思いまして……」
「こんな時間に、いきなり家か? 大胆だな」
そう言われると確かにもう夜だし、こんな時間に女性の家を訪ねるのは……
でも急いだ方がいいみたいだし……
「何か勘違いをされているようですが、まぁとりあえず善勝さんにはこれ以上用はありませんし、さようなら。私達は急いでいますので」
「すみません、失礼しますね」
さっき熊谷さんが、ハルさんに冷たいって言ってたのが少し分かる気がする。
ハルさんはいつもあんなに優しいのに、熊谷さんには雑に対応しているような感じがする……
でも逆にいえば、そういう態度がお互いに許せる関係って事だ。
ハルさんと熊谷さんは、お互いを分かりあっているようで……ちょっとだけ複雑な心境だ。
僕のこの気持ちは……嫉妬かな?
「待て。ハルの家って近いのか?」
「あのマンションです」
「はぁー、どんだけ歩くつもりだよ」
「小一時間程ですが?」
「アホか! 送ってやるから、乗れ」
熊谷さんは、物凄い呆れた様子で溜め息をついたと思ったら、送ってくれると言い出した。
「ですが……」
「急いでるんだろ? ほら、行くぞ兄ちゃん」
「では、お言葉に甘えさせていただきます。圭君、善勝さんに送ってもらいましょう」
「……はい。よろしくお願いします、熊谷さん」
「あぁ」
僕にはよく分からないまま、熊谷さんが車で送って下さる事になったみたいだ。
熊谷さんの車は、僕のアパートから少し離れた所にとめてあった。
さっき僕には関わらないように遠くから見てたとか言ってたし、前みたいに近くにはとめられなかったのかもしれないな。
僕はハルさんを抱えたまま、熊谷さんの車の後部座席に乗らせてもらった。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




