力の総量
圭君視点です。
僕の不用意な発言でハルさんは照れてくれる。
真面目な話をしている時に申し訳ないとは思いつつも、僕の発言を意識してくれていることが嬉しい。
「えっと……少し話が脱線しましたが、さっき私が他の世界を担当することは多分ない、って言いましたよね?」
「あ、はい」
「あれは、私は一緒の仕事をしている皆と比べると、使える力が少ないからなんです。私の力では自分の世界である、この世界の担当だけで手一杯なんですよ。だから他の世界の浄化を担当する余裕はありません」
動物になったり、人の記憶を消したり出来るのに、それで力が少ないって……
ハルさん以外の人はどれだけ凄いんだろうか?
というか、それよりも……
「その貴重な力を、僕の洗濯物に使って下さっていたんですね。本当にごめんなさい……」
どういう力を使うのが大変なのかとかは、全然分からないけど、この世界の担当だけで手一杯だというハルさんの力を、僕の為に使ってもらっていた事が、本当に申し訳ない。
「いえ、私が言いたかったのはそういうことではなくて……それに洗濯とかに使ったのは、浄化の力の中でも本当に少しなので、気にしないで下さいね」
「でも力が少ないなら、大変でしたよね?」
「そんな事はないです。圭君はちょっと、洗濯について考えすぎですよ」
「そうですか?」
「はい」
確かにさっきから洗濯の事を考えていたかもしれない。
でもやっぱり、そんな凄い力を僕の洗い物に使ってもらっていたんだから、気にしないでいる方が難しい……
「それよりも圭君。私、圭君の記憶を消しましたよね?」
「えっ? はい。でもちゃんとハルさんの事を思い出しましたよ?」
「そうなんですよね……本当に何で思い出してもらえたのかが謎ですが……」
「謎なんですか?」
力を使った本人であるハルさんに謎なら、何故思い出せたのかは分からない。
でも僕は自信を持って、ハルさんの事を思い出していると言える。
ちゃんと思い出せたからこそ、こうやってハルさんと話ができているんだから。
「それは今度、会社の記憶とかに詳しい子に聞いておきますね」
「はい、お願いします。それでその、記憶を消したのと、ハルさんの力が少ないのは関係があるんですか?」
「私にはあまり力がないので、記憶を消したりとか、そういう大きい事に力を使うと結構寝込んじゃうんですよ」
「えっ、寝込むって……」
力を使うことで、体に影響をきたしたりもするのか……
だったら尚更、洗濯に力を使ってもらっていたのが申し訳なく思える……
「あ、圭君また洗濯の事を考えてますね」
「えっと……その、寝込んで大丈夫だったんですか?」
「大丈夫ですよ。寝込むって最初から分かってますからね。今回は圭君の記憶と、あと関わった刑事さん達や石黒さん達の記憶を消して、辻褄を合わせたんですが、2日程寝込みました……」
「そんな、大変だったんですね……」
ハルさんに記憶を消されたのは3日前の夜だ。
その後に刑事さん達の記憶を消しに行った事を考えた上で、2日程寝込んだのなら、今日こうして会えているのは、ハルさんは起きてすぐに僕に会いに来てくれたという事になる。
それを今嬉しく思うのは、不謹慎だろうか……
「それでですね、刑事さん達の記憶はいいにしても、圭君が思い出してくれた以上は、圭君に記憶をちゃんと返さなければいけません」
「そうなんですか? 僕、もう思い出してますけど?」
「ちゃんとお返ししないと、私が圭君の記憶にした辻褄合わせと、実際の記憶とで、圭君が混乱してしまうかもしれませんので」
そんな混乱しそうな感じはないんだけど……
僕の感覚的には、ハルさんの事は完璧に思い出しているんだけど、まだちゃんと思い出せていないのだろうか?
それは困るな……
「そういう事なら、お願いします」
「はい。ですが私には今、あまり力が残っていません。それに記憶を返すのは、消した時の力を打ち消さないといけないので、消すよりも力を使います。ですから圭君に記憶をお返しすると、多分私はまた寝込みます」
「えっ、そんなハルさんの負担になるなら、もっと後でいいですよ。ハルさんの力の無理のない時で大丈夫です」
「いえ、圭君が混乱するのもよくないので、こういうのは早い方がいいんです」
そんな再会してすぐに、ハルさんが寝込んでしまうなんて嫌なんだけどな……
でも仕方ないのか……
「分かりました。僕に何か役に立てる事はありますか?」
「役に立てるというか、お願いがありまして」
「お願い?」
「えっと……記憶をお返しした後、私は自分がどれだけ寝込んでしまうかが分からないんですよ。なので、会社の同僚に連絡しておきたくて……その、連絡用の電話が私の家にあるんですよ」
連絡用の電話……
初めてハルさんと会った時に言っていた、足がつかない電話の事だろうか?
「それはさすがに、僕の携帯を使ってもらうわけにはいきませんね……」
「はい。それで、私がお願いしたかったのは……今から圭君に、私の家に一緒に来ていただけないかと……」
「えっ! ハルさんの家に行っていいんですか!?」
「はい。お手数お掛けして、申し訳ないのですが……」
「いえいえ、全然! 嬉しいです。行きたいです!」
「そんなに見て楽しい家ではないですよ?」
ハルさんの家に行っていいなんて……
正直、凄く楽しみだ。
「そのまま私の家で記憶をお返しした方が、後で寝込む事を考えても効率がいいですし……それに、圭君も寝てしまうと思いますので……」
「あ、僕も寝るんですか?」
まさか僕も寝るとは……
そういえばハルさんに記憶消された時も、意識が遠退いていったな……
「でも圭君は多分、10分くらい寝るだけだと思いますよ。次の日の事もありますし、起きたら私が寝ていても帰っていいですからね」
「分かりました。なら、勉強道具をもっていきますね」
「えっ?」
「あと、何か食材も持っていかないとですね」
「……そうですね。ありがとうございます」
絶対にハルさんが起きるまで、帰らないでおこう。
もうバイトもないし、特に用事もないんだから。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




