影響
圭君視点です。
だんだんと分かってきた、ハルさんの仕事や不思議な力の事。
あの記憶を消してしまう力も、ハルさんが生活していくには必要な力だったんだ。
そもそもが人と関わってはいけない存在なんだから……
そういえば僕って本当は、警察にあの日の事情聴取に行かないといけなかったはずだ。
なのに行っていなくて何も言われていないし、もしかしてあの日の事も……
「あのハルさん? あの石黒さんや刑事さん達の記憶って?」
「私が消しておきました。あの夜、圭君は何も巻き込まれてないことになっています」
「そうなんですね……」
今までもそうやって、巻き込んだ人の記憶を消したりしてきたんだろうか?
見られたらダメな存在なのにパトロールなんてしてたら、記憶を消さないといけなくなる事も多いんじゃないのか?
記憶を消したからいいって問題じゃない気がするけど……
「やっぱりハルさんの仕事って、結構危ないんですね……」
「危なくはないですよ?」
「でも最初、怪我をしてましたよね?」
「あれは……たまたまです」
「たまたまでもダメです。危ない事は出来るだけしないで下さい。特にパトロールとか……」
浄化とかみたいな、どうしてもハルさんがやらないといけない仕事じゃないなら、パトロールはやめて欲しい。
石黒さん達みたいな、危ない人もいるんだから……
しかも警察にも見つかったらダメなハルさんには、味方が少なすぎる……
「でも私、会社の世界の方で仕事をしているだけなので、パトロールをやめると凄く暇になるんですよ……それに、ユズリハ様にも頼まれた事ですし……」
「ユズリハ様に?」
「そもそも私達のような存在は、下手に人の生活に関わると、世界そのものに影響を与えてしまいます。そうすると歪みが起きたりするんです」
「だからハルさんはいつも、人に見つからないように通報してるんですよね?」
「はい。それでも、折角こういう力を持っているのだから、その力は人を助ける為に使って欲しいと……出来るだけ会社に怒られないように気をつけて……と、ユズリハ様はいつも仰ってました」
人に関わってはいけないはずのハルさんが、見つかるかもしれないリスクをおかしてまでパトロールをしているのは、ユズリハ様に頼まれたからだったのか……
危ないからやめて欲しいけど、大切な人との約束ならそれを僕が無理をいってやめてもらうのも違う気がする。
何より、そのパトロールをしてくれていたお陰で、僕はハルさんと会えたんだし。
……というか今、会社に怒られるって言わなかったか?
「あの、会社に怒られるんですか?」
「はい……あ、バレたらですよ?」
なんだろうこの、バレなければ大丈夫みたいな感じは……
ハルさんは以外と隠れて会社の規約違反とかをする人なのかな?
いや、ユズリハ様がそういう方だったのかも……
「怒られるといっても、人と少し関わった位じゃ怒られませんよ。この世界にない力で、人に影響を与えたりしたら怒られます」
「人に影響……僕、大分助けてもらってますけど、大丈夫ですか?」
いつも浄化の力で洗濯をしてもらっていたし、重力を操って荷物を軽くしてもらったりとか……
ああいうの、会社に怒られていたんだろうか?
「あれは大丈夫です。世界に影響を与えるほどの大きい力でもありませんし、圭君は誰にも話してませんから。圭君が周りの人に言ったりする人だったら、怒られてましたけどね……」
「じゃあ石黒さんの時は大丈夫だったんですか?」
「あれは、まぁ……大丈夫ではないですけど、あの人は私をずっと追っていましたからね。警察にまでなって、私を追うことに自分の人生をかけてしまってましたから……早く止めないと、逆に世界に影響を与えてしまってましたから」
確かに石黒さんもそう言ってたな……
多分石黒さんは、もう何年もハルさんを追っていたんだろう。
そして導きだした答えが、動物を利用している女性だったんだ。
「私がもっと早くにあの人の存在に気づいていればよかったんですが……絶対に捕まえられない私を追い続けるというのは、あの人にとってもよくない事ですからね」
ハルさんが石黒さんに直接会って、石黒さんをとめるというのは人と関わり過ぎになる。
かといってユズリハ様との約束の為にも、パトロールをやめる訳にもいかない。
本当にハルさんには生きづらい世界なんだな、ここは……
「僕に手伝える事があったら、何でも言ってくださいね」
「はい、ありがとうございます」
ハルさんは笑ってくれたけど、きっと僕に出来る事なんて本当に少い。
それに、この世界じゃないところで働いてる時は、何も手伝えない……
「ハルさんは働き過ぎですよ……」
「そんな事はないですよ? 私なんて皆に比べたら……」
「そういえばさっき、1人で沢山の世界を担当してる子もいるって……ハルさんもこれから先、他の世界の浄化とかを担当する可能性があるんですか?」
「それは多分ないです。新しい世界が増え続けたら、そのうち担当しないといけなくなるかもしれませんが……」
「世界って増えるんですね」
「そうですね。世界は常に新しい世界が生まれたり、古い世界が消滅してしまったりしますが、どちらかというと生まれる方が多いんですよ」
世界も増えたり減ったりするのか……
それは管理も大変そうだな。
でも世界の消滅って、あんまりいい言葉じゃない気がするけど……
「あの……その、消滅してしまう世界の人々はどうなるんですか?」
「……」
ハルさんはとても言いにくそうに、俯いた。
ハルさんの事はどんな事でもでも全部知りたいけど、こんな暗い顔をさせてしまうなら、聞かない方が良かったな……
「ハルさん、あの、ごめんなさい……聞いちゃいけないことでした?」
「……いえ、そうですね。少し重い話しになってしまいますが、消滅する世界の人々は……その世界と共に消滅します」
「そう、なんですね……」
「圭君……圭君の中で私が、どういう風に見えてるのか分かりませんが……私は、人のために動ける存在ではないんですよ……」
「ハルさん?」
「私達の仕事は、世界のバランスを保つ事です。人々のために動く事ではありません。だから、消え行く世界に残る人々を助けたりとか、そういうことは出来ないんですよ……幻滅しました?」
不安そうに顔を上げ、僕の顔を伺っているハルさん。
ハルさんは今、不安でいっぱいの中、僕にこの話をしてくれているんだろう。
その不安を少しでも減らせるように、僕のあまり動かない表情筋を頑張って動かして、笑いながらハルさんに話す。
「幻滅なんてしませんよ。ハルさんがそういう重い事も背負ってるというのは分かりました。でも僕、言いましたよね? 僕では力不足でも、あなたの重荷を一緒に背負いたいって」
「圭君……」
「だから、話せない事なら仕方ないですけど、少しでも悩み事とか、その……重い事とかも相談してもらえると嬉しいです。解決はできないかも知れませんが……」
1人で抱え込むだけなのがダメだって事は、僕もよく分かってる。
解決は出来なくったって、人に相談する事で少しは楽になれるはずだ。
「ありがとうございます……でも、そんなに心配して頂かなくても大丈夫ですよ?」
「いえ、その……心配もですけど、僕がもっとハルさんの事を知りたいんですよ」
「そ、そうですか……」
ハルさんまた少し俯いた。
でも今度は暗い顔とかではなく、照れているみたいだ。
本当に、ハルさんは感情が顔に出やすい人だと、改めて思った。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




