仕事内容
圭君視点です。
「昔々、あるところに……」
ハルさんの事情の話が、まさかの昔話スタイルだとは……
と思っていると、突然、
「神様がいました」
と、話が壮大になった。
まぁ昔話スタイルだからって、最初がお爺さんとお婆さんから始まる訳ないか。
「神様ですか?」
「はい、でも圭君も知っているような土地神様とかではないです。姿も何も分からないような存在の方です」
「とりあえず、物凄い方ですね?」
「はい」
ハルさんは土地神様達と知り合いだ。
だから神様って言われると、あの方達を想像してしまうけど、そういう方の話ではないみたいだ。
「そしてその神様は、全世界を見守っていました。でも、神様だけで世界の全てを見守るのは、不可能だったんです。世界は沢山ありますからね。だから神様は会社を設立しました」
「会社ですか……」
「その会社の代表取締役、会長に就任しました。そして沢山の子会社を作ったんです」
「なるほど?」
全然昔話でもなくなってきた。
神様が会社設立とか、一体何の話になってきたんだろう?
「その子会社は、会社毎に担当が色々と違っていて、私が働いている会社は"人"を担当する会社なんですよ」
何の話かと思ってたら、急にハルさんが登場した。
「えっとつまり……ハルさんは神様の会社の、子会社の社員さんという事ですか?」
「そうです! さっきの話のユズリハ様は、その人を担当とする子会社の、先代の社長にあたる方です」
「そうなんですね」
だんだんと話が分かってきた。
おそらく代表取締役とか、社長とか、そういう言い方を本当はしないんだろう。
僕に分かりやすいように、ハルさんはあえて会社のように話してくれてるんだ。
「そしてこの会社の仕事内容ですが、人を担当していると言っても、直接人と関わる事はほぼありません。人の行いによって穢れてしまった世界の浄化と、歪みの正常化が一番の仕事になります」
「世界の浄化ですか?」
「世界はいろんなものに毒されて、どんどん穢れていくんですよ。それを放っておくと、世界が壊れます。なので私達社員は、各自担当世界が決まっていまして、世界が壊れないように常に浄化しているんです」
"私達"って言ってるし、やっぱりハルさんみたいな人が他にもいて、皆でその仕事を頑張っているんだな。
「この世界の担当が、ハルさんですか?」
「そうです。流石は圭君です! 理解が早いですね!」
「じゃあハルさんと一緒にその仕事をしてる人達は、この世界にはいないんですね」
「はい。でもたまに会社の世界で集まったりもしますよ。まぁ皆忙しいので、あまり会えませんけどね」
という事は、ハルさんはこの世界で1人で仕事をしてるんだ……
それは何か……少し寂しい気がするな……
でも僕は、ハルさんがこの世界の担当だったからこそ、出会う事が出来たんだ。
それに、あの時のハルさんにもし仲間がいたら、僕がハルさんを保護することはなかっただろう。
だから僕にとっては、ハルさんがこの世界を1人で担当していてくれてよかったんだ。
「その担当世界っていうのは、どうやって決まるんですか?」
「基本的には、自分が生まれた世界は自分で担当してます。それでも、社員の数より世界の数の方が圧倒的に多いので、1人で沢山の世界を担当してる子もいますよ」
「なら、ハルさんはこの世界出身なんですか?」
「そうですよ」
ハルさんはこの世界で生まれた人って事か。
でも前に家族はいないって悲しそうな顔で言ってたし、そういう出生の事を聞くのはやめておこう。
ユズリハ様っていう、大切な方も亡くなられているんだし、変に質問してハルさんを傷つけたくはないから……
「えっと……ハルさんもこの世界以外の、他の世界の事も担当してるんですか?」
「いいえ。私が穢れの浄化や、歪みの正常化を担当しているのは、この世界だけです。私は会社の世界で違う仕事もしていますし、あまり沢山の世界を担当する事はできないんですよ」
ハルさんはこの世界だけしか担当していないのか……
会社でしてるっていう、違う仕事っていうのも気になるし、会社で違う仕事をしてるって事は、会社の世界にも定期的に行ってるという事だろうか?
さっきもたまに皆で集まるって言ってたし、結構会社の世界へ行っていたりもするのかな?
でも今まで、毎日僕の家にも来てくれていたし、そんなには会社の世界へ行けていないはずだよな?
あー、聞きたい事が多すぎて、ハルさんを質問攻めにしてしまいそうだ……
そういえば、さっき世界の浄化って言っていたけど……
「あの、ハルさん。1つ確認なんですが……」
「はい、なんですか?」
「その世界の浄化って、浄化の力を使うんですよね?」
「はい、そうですよ」
「それってもしかして、僕の洗濯物とかを浄化していた力と一緒ですか?」
「そうですね。厳密に言えば少し違いますが、基礎は同じです。浄化の力を応用したのが洗濯ですよ」
「あぁ……」
ハルさん……
そんな大事な力を、家事の道具みたいに洗濯や掃除に使っていたなんて……
なんだろう? 世界に凄く申し訳なく思えた……
「圭君?」
「ハルさん。僕、やっぱりちゃんと洗濯機買いますね……」
「えっ? 急にどうしました?」
「いえ、そんな大事な浄化の力で、僕の洗濯物を綺麗にしてもらっていたのかと思うと、申し訳なくて……」
「そんなの、気にしなくていいんですよ」
ハルさんは気にしていないみたいだけど、やっぱりこういうのはよくないだろう
特別な力が使えるからって、それに甘えていてはいけないと思う。
「いえ、この際なのでハルさん。もう1ついいですか?」
「は、はい。なんですか?」
「ハルさんはいつも自分を浄化してるから大丈夫だって、お風呂に入らないじゃないですか」
「はい」
「確かに汚れは落ちるかも知れませんが、お風呂は疲れをとる意味でも大切だと思うんですよ」
「それはそうかも知れませんが……」
「僕には詳しい事は分かりませんが、多分何でも浄化に頼るのはよくないと思います。ちゃんとお風呂に入りましょう。あと洗濯物も、もう浄化しなくて大丈夫ですから」
これからは、ハルさんの事も支えていけるような存在になりたいんだ!
ハルさんの特別な力に頼ってる場合じゃないし、ハルさんだって力が使えるからって、そればかりを利用しているのはダメだと思う。
特にお風呂は体を休ませれる場なので、ちゃんとゆっくり入ってほしい。
「あの……それだと私、圭君に何のお礼もできなくなるんですが……」
「お礼とか、そんなの考えなくていいんですよ。ハルさんの好きなようにこの家も使ってもらっていいですし、何の気兼ねなく僕に頼って下さい。僕はハルさんの"彼氏"なんですから!」
「か、彼氏……ですか?」
「えっ、違うんですか?」
「あっ! いえ、その……その言葉に慣れていなくて……」
僕の言葉に対し、ハルさんは顔を真っ赤にしていて、とても可愛い。
でも自分で言っておいてなんだけど、僕も凄く恥ずかしかった……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




