猫の知識
圭君視点です。
思わず大学受験への不安をハルさんに相談してしまったら、とても親身に聞いてくれた。
勉強も分かりやすく教えてくれて助かったし、本当に感謝の気持ちでいっぱいだ。
でも、幼稚園しか卒業してないとか言っていたのが気になるな。
中学までは義務教育なんだから、必ず行ってるはずなのに?
あまり聞いてはいけない気がして聞かなかったけど、どんな事情がある人なんだろうか?
ハルさんが教えてくれたおかげで勉強も捗り、気がつけば夜になっていた。
今日の夕飯はお昼のカレーを温め直して食べたけど、明日からのご飯も考えないといけない。
買い物もしたいし、バイト時間まではまだ早いけど、そろそろ出掛けよう。
「ハルさん。僕、出掛けますけど、何か必要なものとかありますか? ついでに買って来ますよ」
「必要なものですか? う~ん、特にないですよ」
特にないって言うけど、ハルさんは今着ている服以外、着るものがないよな?
着替えとかは大丈夫なんだろうか?
「服とか必要ないです?」
「あぁ私、"浄化の力"を使えるので」
「浄化、ですか?」
「はい。あっ! お世話になりっぱなしで申し訳ないですし、衣類は全部浄化しておきますね! 洗濯いらずですよ!」
僕の家には洗濯機はない。
独り暮らしだとそんなに洗濯物もでないので、いつもは溜まってからコインランドリーに行っていた。
行くのは結構面倒なので、洗濯いらずなのはありがたい。
それにしても、ハルさんの事が本当に分からないな……
「ありがとうございます。えっと、よく分からないんですが、その浄化はハルさんの負担にならないんですか?」
「大丈夫ですよ! そんなに力も使わないので」
浄化はそんなに力を使わないってことは、結構な力を使わないといけない事もあるんだろうか?
猫になったり、浄化ができたり、幼卒なのに頭も良いし……
ハルさんなら何でも出来てしまうような気がする。
「凄いですね」
「全然凄くないです。"治癒の力"が使えれば圭君に迷惑かける事も無かったんですけどね……自然治癒力が高い方なので、そういう力は無くてもいいかな~って思って、覚えなかったんですよ」
「僕は……いえ、なんでもないです」
何でだろう?
今、変な事を言おうとしてしまった。
ハルさんが治癒の力を使えなくて良かった、なんて……
まるでハルさんの怪我を喜んでいるみたいだ。
「どうしたんですか?」
「あ……僕、帰ってくるのはバイト後になるので、ハルさんは好きに過ごして下さいね。足はあまり動かさないように気を付けて」
「圭君は心配性ですね。大丈夫ですよ。圭君こそ気を付けて、バイト頑張って来て下さいね」
「はい。じゃあ、行ってきます」
ハルさんは笑顔で手を振って、送り出してくれた。
綺麗な女の人に自分の家から送り出されるというのは、結構な違和感がある。
出会ったばかりで、何者なのかも分からない謎の人を家に残して出掛けるだなんて、普通はあり得ない。
だけどこの短時間で凄い優しい人なのは分かったし、不思議と何も心配してない自分に納得出来た。
スーパーで適当に食材等を買い、バイト先のコンビニに向かう。
裏から入るとすぐに店長がいた。
「あぁ、瑞樹君。今日もよろしくね」
「よろしくお願いします。店長、昨日はありがとうございました」
「いいよいいよ、気にしないで。それより猫ちゃんどう? 元気になった?」
昨日の事は本当に気にしてない様子で、猫の事を聞かれた。
猫だった人の話にはなるけど……
「足はまだ痛そうですけど、ちゃんと食欲もあるみたいで元気ですよ」
「病院は連れて行ってあげた?」
「あぁ、はい……」
病院には行っていないのに返事をしてしまった。
これは嘘をついた事になるんだろうな……
ハルさんに嘘はダメです! って怒られるかな?
診断結果とかを聞かれて、これ以上の嘘をつくわけにもいかないので、話を変えさせてもらおう。
「そういえば、猫に人間用の消毒薬って使ったらダメらしいですよ」
「そうなの?」
「ちゃんと動物用の消毒薬を使わないと、逆に怪我を悪化させてしまうみたいです」
一応気になっていたので調べておいた。
結局ハルさんは人だったので、人間用の消毒薬でも問題なかったけど。
「あと、猫にカレーをあげたらダメらしいです。スパイスが体によくないらしくて」
「へぇ、そうなんだ」
これも一応調べておいた。
ハルさんは人だから、カレーを食べても大丈夫だけど。
何故か猫の話をしているはずなのに、ハルさんの事を考えてしまってるな?
「何か瑞樹君、楽しそうだね。よかったよ」
「そうですか?」
楽しそう? そうなのか?
まぁ、猫についての新しい知識は増えたし、新しい知識が増えるっていうのは楽しい事かもしれない。
だから楽しそうにみえたのかな?
でも増えたのは猫についての知識で、ハルさんについてじゃない……
ハルさんのことは分からない事だらけだ。
どこまで踏み込んで聞いて良いのかも分からないけど、ハルさんの事をもっと知っていきたいと思った。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)