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桜色のネコ  作者: 猫人鳥


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違和感

圭君視点です。

 ……寒いな。

 この時期の朝は、ベランダの戸から冷たい風が入ってくる。

 少し開けておくだけのつもりが、電話をしてた事もあってずっと開きっぱなしだった。

 結構長い時間開けてたから、部屋の温度も大分下がっていた。


 もう寒いのでさすがに閉めたけど、またこの胸が痛いような感じがする……

 僕はこの戸を閉めたくないんだろう。

 これも違和感の1つだ。


 他にもあるはずだ。

 ここ最近感じた違和感を1つ1つ、ちゃんと考えていかないと。


 とりあえず何か適当に朝食を作ろうと思い、キッチンへ行く。

 棚の上、未開封のキャットフードがやっぱり気になる。

 あの黒猫を拾った時に、何故使わなかったのかは覚えてないけど、このキャットフードがあの時からずっとあったのは覚えてる。

 なのに今まで気にもしていなかった。

 今こんなに気になるのに、何でずっと気にしなかったのかが疑問だ。


 キッチンのお菓子も謎だ。

 買った覚えも作った覚えもない。

 誰かにもらった? そんな覚えもないな。


 でも確か、勉強中に甘いものがいいって思って食べてたな……

 ならやっぱり買ってきたのか?

 僕は勉強してるんだから、作れるわけないし……

 まさか誰かが作ってくれていたなんて、あり得ない……よな?


 勉強といえば、考え方はあってるかとか、誰もいないのに質問したくなるんだよな……

 まるで今まで誰かに勉強を教えてもらってた、みたいな……


 クロスワードも本当に僕がやったのか?

 確かに大分前だから覚えてないかもしれないけど、雑誌1冊分終わらせて、懸賞ハガキでドレッシングまで応募してたら、さすがに覚えてると思う。

 そこまで記憶力の悪い方じゃないと思いたい……

 でもそうなると、僕じゃない誰かがこの家でこのクロスワードをやったってことだ。

 そんな事、あり得るのか?


 ベランダやキャットフードは分からないけど、お菓子があることや勉強、クロスワードとかは、僕以外の誰かがいた形跡のように感じた。

 さっきの手紙を書くように進めてくれたのや、便箋の事を考えても、やっぱり僕が忘れているのは"人"なのかもしれない。


 考えてばかりいたら、朝食を作る手が止まっていた。

 ちゃんとご飯を食べて、栄養をとらないと、脳も活性化しないだろう。

 僕は考えるのを一旦止めて、朝食を食べた。


 脳もちゃんと活性化したはずなので、違和感をまた考える。

 ベランダ、キッチン、洗面所、玄関……

 何度も同じところを回って違和感を探す。


 違和感はそこかしこに感じる。

 本の並びが綺麗過ぎる本棚。

 最近コインランドリーに行った覚えがないのに、たまっていない洗濯物。

 何か乗っていたような感じのする、玄関の棚。

 どれも不自然に感じるけど、僕の気のせいのようにも思う。


 結構な時間、家で違和感を探したけど、特に解決はしなかった。

 家の中で分からないなら、外の可能性もある。

 外で何か違和感を見つけられたら、何か分かるかもしれない。

 昨日お供えしに行った神社とか、もう1度行ってみよう。


 手ぶらで行くのもどうかと思い、昨日も持って行ったけど、今日も焼きトウモロコシを持っていく事にした。

 昼食と同時に焼きトウモロコシも作り、急いで昼食を食べ終えてから神社に行った。


 この神社、お祭りの時に来たのが最初だったな。

 誰と来たんだっけ?

 いや、1人で来たな……


 確か迷子のまなちゃんと会って、一緒にお母さん探して……?

 探してないな……

 輪投げで一緒に遊んでたら、お母さんがまなちゃんを見つけたんだ。


 なんか、あの祭りの日の記憶は曖昧だ……

 凄く綺麗な花火を見たことは覚えてるけど、どこで観たんだっけ?

 覚えてないけど、石碑の伝承を読んだのは多分この日だろう。


 それで、焼きトウモロコシ屋さんがあって、穀物が好きなら焼きトウモロコシも好きなんじゃないかとか、僕が勝手に思ったんだろう。

 だからここの土地神様に、トウモロコシお供えしに行ったんだったかな?

 いや、でも誰かに教えてもらった気がするんだけどな……

 それにここの土地神様がトウモロコシ好きなのは、僕の思い込みじゃなくて事実な気がしてしょうがない……


 持ってきた焼きトウモロコシをお供えして、神社の周りを調べたりしたけど、特に思い出せる事はなかった。

 この神社に来るようになったのはまだ最近の事で、それまでは来たことがなかった。

 ここ最近で、もう何度も来ているというのに、思い出せることが何もない。

 花火を見た場所も分からなかった。


 逆に言えば、この神社にこれだけ来ているのに、何も分からないという事が違和感だった……

 日も落ちてきたので、今までの事考えながら帰路につく。


 僕に、母さん達へ手紙を書くように薦めてくれた人がいたはず……でも、テレビとかで言ってたのに僕が感化されただけかもしれない。

 勉強を教えてくれていた人がいたはず……でも、1人でやってたのかもしれない。

 お菓子を作ってくれていた人がいたはず……でも、自分で買ってきたのかもしれない。

 クロスワードを全部やって、懸賞を送った人がいたはず……でも、大分前の事だし、覚えてないだけで自分でやったのかもしれない。

 土地神様へのお供えや、好物がトウモロコシだと教えてくれた人がいたはず……でも、僕が勝手に思い込んだだけかもしれない。


 疑問に思おうとしても、すぐに自分で否定してしまう。

 結局何も分からなかった。

 違和感は感じるけど、自分ではそれが何なのか分からないし、本当に誰かが僕と一緒にいたんだろうか?


 確かに誰かがいたような形跡はあるけど、それだけ一緒にいた人の存在を忘れるなんてことあり得ないと思うし、そんな人がいたなんて証拠はどこにもない。

 全部、僕が気のせいだと思ってしまえば、それまでなんだ……


 でも、感じた違和感を気のせいで片付けないでって、応援してもらったんだ。

 このたくさんの違和感を気のせいだけで片付けたくない。

 それに母さんもちゃんと悩んで、ちゃんと答えを見つけなさいって応援してくれた。

 解決しないからって、悩むのをやめたらダメだ。


 とにかく、今日はもう遅いし、これからは早起きの習慣にしていかないといけないから、夕食を食べて寝よう。

 今日は、勉強も全くできなかったな……


 今日の事も色々と反省しつつ、アパートまで帰ってきた。

 玄関のドアを開けようとした時、


カタッ


という音がした。

 音がした方を見ると猫が1匹。


 すごく綺麗な白猫。

 その白猫と目があった。

 白猫は少しだけ僕をじっと見つめ、振り返って立ち去ろうとした。

 僕は思わず、


「ハルさんっ!」


と、叫んでいた。


読んでいただきありがとうございます(*^^*)

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