勇気
圭君視点です。
刑事さんにアパートの下まで送ってもらい、家に帰ってきた。
ドアを開けると、部屋の中は滅茶苦茶に散らかっていた。
これは刑事さんに言った方がいいよな?
でも今別れたところなのに、もう1回来てもらうのも申し訳ない。
明日の事情聴取の時に言えばいいか。
僕がそう考えていると、開きっぱなしの窓から鳥が1羽飛んできた。
その鳥はいつものように少し奥まで飛んでから光り、人の姿になる。
「ハルさん、良かったです。どこも怪我はありませんか?」
「私は大丈夫です」
雰囲気がいつもと違い、少し暗い感じだ。
まぁ、あんなことがあったんだし、当たり前か。
部屋も散らかってるからな。
ハルさんも、散らかった部屋を見渡していた。
「あぁ、これは片付けないといけませんね……」
「私があとで"復元の力"で直しておきますよ」
何でもないことのようにハルさんはそう言ったけど、復元の力って相当凄いんじゃないのか?
でもこういうのは多分、刑事さんが調べに来るんだよな?
勝手に戻すのは良くないだろう。
「ハルさんは復元もできるんですね。でも一応刑事さん達が調べに来たりするかもしれないので、このままにしておこうかと思ったんですけど……」
「大丈夫ですよ。刑事さんは来ませんから」
「え?」
刑事さんは来ない?
でも僕は明日、事情聴取に行かないといけないし、その時にこの部屋の事も話す事になる。
それはハルさんだって分かってるはず……
なのに何で来ないなんて断言できるんだろう?
「そんなことよりも圭君、手を出して下さい」
「はい? えっと、こうですか?」
僕が悩んでいたら、急に話を変える感じでハルさんはそう言った。
とりあえず言われたままに、ハルさんの方へ両手を出した。
「やっぱり怪我をしてますね」
「こんなのただのかすり傷ですよ」
さっきのロープで縛られていた時、抜け出そうとして手を動かしていた。
その時に擦れてついた傷があるだけだ。
怪我というほどの怪我でもない。
「他に痛いところとかはありませんか?」
「はい、大丈夫です」
「良かったです。では」
「えっ、ハルさん……これ……」
ハルさんが僕の手の上に手をかざすと、白い綺麗な光の粒子が降ってきて僕のかすり傷が消えていった。
これは、治癒の力?
でも確かハルさんは、治癒の力は使えないんじゃなかったか?
「治癒の力、覚えたんです。もう誰にも迷惑かけたくなかったので……なのに、こうして圭君に迷惑かけて……」
「僕、ハルさんに迷惑なんてかけられてないですよ?」
「いえ、あの石黒という方はずっと私を追っていたようでした。私が迂闊に圭君を巻き込んでしまったから、圭君はあんな目にあったんですよ。私のせいです……」
「全然、ハルさんのせいなんかじゃないです!」
確かに石黒さんはハルさんを追っていて、ハルさんに会うために僕に色々聞いてきたけど、それは別にハルさんが悪い訳じゃない。
そんなの、ハルさんのせいで巻き込まれたとも思わないし、そもそも始まりは、ハルさんは帰ろうとしていたのに僕が無理矢理に引き留めて、僕の携帯を使わせてしまった事だったんだ。
巻き込まれたというより、自分から巻き込まれに行った感じなんだけど……
むしろ僕の方が迷惑かけてるな……
ハルさんが少し暗い感じなのは、僕を巻き込んでしまったと思っているせいだったのか。
全然そんな事ないって分かってもらいたいけど、今はそれも難しいかな?
でもいつもの明るいハルさんに戻ってほしい……
「そういえばキツネのハルさん、動きも華麗で強いんですね」
「え、あぁ……そうですね。キツネは動きやすいですし、尻尾も使えますからね」
「凄くかっこよかったです。助けていただき、本当にありがとうございました」
「いえ……」
あんな銃とか持ってる恐ろしい相手に、1人で勇敢に戦ってくれた。
本当にかっこよかった。
僕は最近、自分には勇気がない……と、そんなことばかり考えているのに、ハルさんは本当に強いな……
いや、僕もいつまでも逃げてちゃダメだ。
ちゃんと勇気をもって、思いを伝えないと!
「あ、あの! ハルさん……」
今このタイミングで伝えるのは、雰囲気的におかしいような気もする……
でも今言えなかったらきっと、これからも伝える勇気がなくて、もう言うこともできないだろう。
だからこそ、今ちゃんと言うべきなんだ。
「僕は、ハルさんの事が好きです! これからは僕の恋人として、お付き合いしていただけませんか?」
ずっと伝えたかった僕の気持ち……
僕はハルさんの友達じゃなくて、恋人になりたい。
やっと言うことができた。
「……圭、君…………」
なかなか返事をくれないハルさん。
最初は少し驚いたような顔をしていたけど、今はとても悲しそうだ……
何か、思い詰めているようなそんな感じ……
「あの、ハルさん……?」
「……ごめんなさい、圭君。今から圭君の中にある、私に関する記憶は全部、消しますね……」
「えっ?」
今、ハルさんは何て言ったんだ?
記憶を全部消す……?
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




