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桜色のネコ  作者: 猫人鳥


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時間稼ぎ

圭君視点です

 僕はハルさんに、もう嘘は言わないって約束したんだ。

 だから全部、本当の事しか言ってない。

 でも石黒さんは信じてはくれない。

 これだけ僕と石黒さんのいう女性とが知り合いだという証拠があるんだから、仕方のない事だけど……

 それに石黒さんは、お祭りの日にハルさんを直接見ているからな……

 どう言えばいいのか、正直困る。


「あの祭りの日だけじゃありませんよ。あの時だってそうですよ」

「あの時?」

「あの神社に貴方が行った日です。貴方が急に出掛けたので部下に尾行させたら、女と一緒に神社に入って行ったと部下から連絡を受けました。急いで私も向かったんですがね、向かう途中で部下から尾行に気がつかれたようで、撒かれてしまったと連絡がありました」


 多分、最初にお供えに行った日の事だ。

 お供えの台座が分からなくて、ハルさんに案内をしてもらった日。

 あの時ハルさんが急に走り出して、尾行されてたって言ってたからな。


「私はとりあえず、部下には尾行を誤魔化すようジョギングでもしておけと連絡をして、やっと私が神社に着いた時、丁度貴方が帰ってこられましたね。ですが、貴方は1人だった。本当に、尾行なんてまどろっこしい事をせず、最初から部下にあの女を捕まえさせればよかったと、後悔してるんですよ」


 あの日は突然ハルさんに仕事が入って、帰りは僕1人で帰ったんだ。

 その時に石黒さんに会った。

 色んな偶然の重なった結果だけど、そう考えるとハルさんが急に仕事になって良かった。


「確かにあの日一緒にいたのは、お祭りの時も一緒にいた僕の大切な友人ですが、あの日はその友人に急な仕事が入ったから、神社でそのまま別れただけです。友人が後ろから人がついてきてる気がすると言っていたので、ストーカーとかかと思って走ったりはしましたけど、石黒さんの部下だったんですね」

「ええ、尾行がバレたことで貴方達が変に警戒するかと思いましてね。あれは尾行ではなくジョギングだと思ってもらう為、部下にはあれから毎日あの時間に、神社でジョギングをやらせてたんですよ。まぁ、お陰でアイツはあんなにも足を鍛えれた訳ですが」


 石黒さんが指を指した方……

 この倉庫のような場所の入り口を見張るように立っている人は、遠目でも分かるくらいに足が筋肉質だった。


「そういえば先程から友人、友人と仰ってますが、やはり彼女ではないんですね」

「彼女になってもらえたらいいとは思ってますけどね」

「そうですか。ではその彼女候補、呼んでください」

「何で呼ばなきゃいけないんですか? 巻き込みたくないので嫌です」

「彼女候補(イコール)あの女だからですよ」

「僕は自分の大切な人を、こんな訳の分からない事に巻き込みたくはありません!」

「本当に、あんまりイライラさせないでくれませんかね?」


 基本的に丁寧に喋る石黒さんも、だんだんと苛立ってきたみたいだ。


「怪しく手紙出したりしてたんで調べたら、ただの家族への手紙でしたし、コンビニで貴方の知り合いが来たっていうから聞いたのに、あの女でもなくてガキだったとか、空振りも多かったのでね。もう苛立ちも限界なんですよ」


 手紙を出した時にポストの前で会ったこともあるし、バイト中のコンビニに来たこともあった。

 本当にずっと、僕は見られてたんだ……

 もっと疑うべきだった……


「それでも貴方にバレないように、冷静に振る舞って、ここまでやってきたってぇのに」


 なんかもう口調がちょっと石黒さんっぽくない……

 怒らせちゃったのかもしれないな……


 ハルさんも気づいてるんだから、もう通報はしてくれているだろう。

 あとは時間さえ経てば、必ず警察が助けに来てくれるはず。

 警察が来るまでの時間を稼ぎたいけど嘘もつけないし、本当の事をずっと言ってるのに石黒さんには信じてもらえない……

 僕が何て言えばいいか悩んでいた時、


「石黒よぉ、この兄ちゃんが言ってる事は本当だぜ」

「何ですか熊さん、起きてたんですか」


一緒に捕まっている年上の刑事さんが、突然喋り出した。

 さっきまで気絶してたし、僕と石黒さんの会話をどれだけ聞いていたかは分からないけど、僕の意見に賛同してくれるみたいだ。


「俺は目を見ればソイツが何を考えてるのか大体分かる。この兄ちゃんは嘘つきの目はしてねぇよ」

「熊さんの"目を見れば分かる"は聞き飽きましたよ。大体熊さん、あんたは俺がこういう奴だって見抜けなかった。あんたの目は節穴だよ」

「ふっ、言うじゃねぇか。確かにな、お前の目からは絶対に捕まえてみせるっつう熱意を感じてたんだが、まさか犯人じゃなくてあの姉ちゃんに向けられた熱意だったとはな、見抜けなかったよ」

「だから節穴だって言ってるんですよ」

「まぁ、そうだな」


 石黒さんと刑事さんの会話が終わってしまった。

 どうにかして話を引き伸ばさないと……


「そういえば、何で刑事さんは一緒に捕まってるんですか?」

「何でだろうなぁ? 俺も聞きてぇよ」

「瑞樹さんを連れていくところを、熊さんに見られてしまったからですよ」

「えっと、それは僕のせいですみません……」

「兄ちゃんが気にするこったねぇよ。それに俺は石黒の教育係みたいなもんだ。監督責任ってのがある。俺の監督不行き届きで悪かったな」

「いえ……」


 この刑事さんも、話を長引かせるのに協力してくれそうだ。

 早く警察が助けに来てくれるといいんだけど……と、僕が考えていると、


「話を長引かせて、時間でも稼ぎたいんですか?」


石黒さんにそう言われた。


「何の事ですか?」

「どうやら助けが来るまでの時間を稼ぎたかったご様子ですね。でも、貴方に助けが来るなら、それは私達にも好都合なんですよ。私達の目的はあの女に会うこと。つまり、貴方があの女を呼ばなくても、あの女の方から貴方を助けに来れば一緒ですからね」


 僕が長引かせようとしていた事はバレていたみたいだ。

 でもなんで石黒さんはハルさんが直接来ると思ってるんだろう?

 ハルさんが通報した事で、刑事さんが来るはずなのに。


「僕が期待してるのは、刑事さん達が助けに来てくれないかって事で、その女性が来るなんて考えてもないですよ。何故その女性が助けに来ると思うんですか?」

「残念ですが、警察は助けに来ませんよ。正確に言えば、来たとしても私が追い返します」


 追い返す……そうだ、石黒さんにはそれができてしまう。

 その可能性は考えていなかった……


「私が真面目に刑事をやっていたのは、あの女の情報を得るためだけではありませんよ。警察からの信頼を得るためでもあります。この意味が分かりますか? 仮にあの女が警察に通報して、ここに警察が来たとしても、私がもう調べたと言えば信じてもらえる訳ですよ」


 ハルさんの通報のお陰で、きっと沢山の犯罪が防がれていて、警察の人もハルさんの通報を信じているだろう。

 でも、ハルさんはずっと匿名での電話をしていた。

 つまり、ハルさん本人への信用はあまりないという事だ。

 そんな信用できない人の通報よりは、ずっと一緒に仕事をしてきた石黒さんの事を、他の刑事さん達が信用するのは当然だ。

 だからハルさんがこの状況に気付いたとしても、通報する事が出来ないんだ……


「あの女だって、私が自分より信頼されている事くらい分かっている筈ですからね。つまり助けに来るなら、あの女が直接来る以外には貴方を助ける方法がない。そうですよね?」


 石黒さんの言う通りだ。

 このままだとハルさんが来るしかない。

 でもハルさんが来たら殺されるだけだ……

 どうにかして僕が自力で脱出しないと……


読んでいただきありがとうございます(*^^*)

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