愚かさ
ハルさん視点です。
私を撃った男と警察の石黒さんは、待ち合わせをしていたようで、2人で一緒に建物に入っていきました。
怪しすぎるんですが……
私も普通にあの2人が歩いていたら、ただのサラリーマンか何かの2人組だと思いますが、1人は私を撃った人で、1人は警察の人です。
そんな変な組み合わせがありますか?
私も2人の入っていた建物に入ります。
毎回ワンパターンですが、通気孔から侵入しました。
薄暗い通気孔からさっきの2人を探します。
結構奥へ行った部屋で発見しました。
「あぁ、絶対にあの少年はあの女の仲間だ」
「バイトやめたみたいですよ」
「そうだな……ちょっと監視しづらくなるな……」
「兄貴も最近動きにくそうですね」
「熊谷の奴がしつこくてな」
何か話していますね……
バイトをやめた少年……
もしかして、圭君の事ですか?
「あの女さえ見つけれれば警察にも用はねぇってぇのにな」
「そうっすね。でも動物に気をつけ出してから、邪魔されるのも少なくなりましたね。流石兄貴っす」
あの女……動物……私か!
私の事を追っているという事ですよね?
それで圭君も疑ってるんですか?
警察の方達は、もう圭君が通報者と無関係だと思っている筈なのに、やけにこの人は圭君に関わって来るとは思ってましたが、この人は犯罪組織側の人だったんですね。
ガタッ
あー、またやっちゃいましたよ……
「おい! まさか!」
「通気孔っすね」
あらら、そんな拳銃構えて……
でも私も2度もやられるほどバカではないですよ。
2度もガタッはやっちゃってますけどね……
この通気孔の金網がサビサビの脆い物のようですし、簡単に壊せそうです。
こっちに撃って来られたら、この細い道で私の逃げ場は無くなってしまいます。
なので、私は撃たれる前に通気孔から飛び出しました。
「うわっ、ね、猫です!」
「逃がすなっ!」
「はい!」
追っては来ますが撃っては来ません。
ここは結構普通の街中ですし、多分撃つと音が響くんでしょうね。
だからあの人達も撃つに撃てないんでしょう。
ある意味ラッキーです。
あまり追い駆けっこしてもしょうがないので、とりあえず物陰に隠れておきましょう。
「くそっ! 見失った。すみません、兄貴」
「あの猫にカメラでもついてたら終わりだ。こうなったら仕方ない……いくぞっ」
2人は慌ただしく出て行きました。
気が付かれなくてよかったです。
本当に、もっとバレない尾行の仕方を練習した方がいいですかね?
尾行を撒く方は慣れてるんですけどね……
さて、一応あの人達もいなくなったので、さっきの2人がいた部屋を調べておきましょうか。
あの人達は急いで出ていったので、この部屋には色々と残されてます。
怪しげな箱とか、怪しげな部品とか、怪しげな紙とか……
やっぱり結構大きい犯罪組織のようですね。
この町には大きな犯罪組織があるというのは知っていましたが、ここがそうでしょうか?
でもこの部屋から分かるのは、怪しげな人達がいたらしいという形跡くらいでしょうか。
誰がどうやって使っていた部屋なのかまでは分からないでしょう。
だからあの人達も特に気にしないで置いていったんでしょうね。
とりあえずはこの部屋の事を警察に連絡しておきますか。
それにしてもあの石黒という人が犯罪組織の仲間だったとは……
しかも兄貴とか呼ばれていましたし、結構偉そうでした。
幹部的な人なのかもしれません。
これではこの部屋の事を通報しても、警察内部で誤魔化されてしまうかもしれませんね。
困りました……警察にどう伝えたらいいんでしょうか?
まさか警察内部に犯罪組織の幹部的な人がいるとは……
いつものように匿名で通報したいところですが、謎の匿名電話なんかより、ずっと一緒に仕事をしてきた同僚を信じるに決まってますし……
だからといって私が直接行くわけにも行きません。
犯罪現場をたまたま見たから通報する、位の介入は許容されていますが、私のような存在が直接犯罪組織を潰すとか、そういう人の行いに直接的に関わることは禁止されてますから……
この問題はすぐには解決できませんね。
しばらく様子を見る事にしましょうか。
あの人は私を探る為に、圭君によく関わっているようでしたし、とりあえず圭君にもあの人とあまり関わらないように伝えた方がいいですね。
早い方がいいと思うので、本日2度目ですが圭君家に行きましょう。
今日早く寝ると仰ってましたが、もう寝ちゃってますかね?
流石にまだ早いですかね?
いつも通りベランダ側から行きますが、多分閉まってますよね。
扉を嘴でノックしたら気がついてくれるでしょうか?
と、そんな心配をしながらやって来た圭君の家ですが、その心配は不要でした。
ベランダは開きっぱなし、押し入れや、大きめの収納棚なども空きっぱなし……
まるで何かを探したかのように散らかっていました。
玄関の戸にも鍵はかかっていません。
そしてもちろん、圭君はいませんでした。
私はなんと愚かだったのでしょうか。
あの石黒という人が、圭君と私に繋がりがありそうだと思っている事は分かっていたのに……
何故すぐにこうなることを予測できなかったのでしょう。
本当に自分の愚かさが嫌になりますね。
確かに世界は落ち着いています。
以前のように変に巻き込んだりすることもないかもしれません。
神様達も後押しして下さっていましたし、話しても大丈夫だと、圭君に協力者になってもらってもいいんじゃないかと思っていました。
でも世界がどうのとかじゃなくて、結局私の不注意で圭君を巻き込んでしまっています。
協力者にするしない以前に、こんなに迷惑をかけているとは……
今の私なら無力ではないからと、自分の事を過信していた結果がこれです。
やっぱり私は、大切な人達に迷惑をかける存在でしかありません。
本当にもう、終わりにしなければいけませんね……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




