第一印象
ハルさん視点です。
私の事情は圭君の受験が落ち着いたら話すと決めたので、私は特に悩んでいないのですが、最近の圭は何か悩んでいるようですね。
時折、心ここにあらずって感じに勉強しています。
勉強ができなくなってる訳じゃないと思うので、大丈夫だとは思いますが、少し心配ですね。
「最後のバイトはいかがでした?」
「店長も代わりに入ってくれた人も、とても温かく送り出してくれましたよ」
「それは良かったですね」
どうやら悩んでいたのはバイトの事でもないようです。
私に言いにくそうにしていますし、私の事で何か悩ませてしまっているのかもしれませんね。
昨日も曖昧で変な返事をしてしまいましたからね。
でも私の事で何か悩んでいるのなら、圭君の受験も全部終わって落ち着いて、私の事情を話す時に一緒に聞いた方がいいですよね。
今は私の事情を話すことによって、余計な心配をしちゃうかもしれませんからね。
「そういえば今度もう1人の、あの神社の神様にもお供えに行こうと思うんですが、どうしたらいいですか?」
「あぁ、神ちゃんですか? 神ちゃんの方はあんまり勝手なお供えとかは出来ないんですよ。神社を管理していらっしゃる方がみえますからね」
「そうなんですか……」
「圭君、結構な頻度でお供えしてくれてますよね? 私が言うのもなんですが、無理はしなくて大丈夫ですよ。思い出した時とか、たまたまトウモロコシが余った時とかでいいんですよ」
神様への信仰が弱くなっているとはいえ、そんなに深刻なことでもありません。
神様の存在や伝承を知らない人が増えているというだけの事で、あの神社がある以上は神様もそんなにお供えしてもらわなくて大丈夫ですからね。
ましてや神ちゃんの方なんて、信仰が弱くなってすらもいません。
まぁ神様は、大好きなトウモロコシが食べれるので、喜んでいるとは思いますが……
「本当に無理なんてしてないですよ。この間も実家から野菜が届いたんですが、トウモロコシも多く入れてくれてましたから。僕が実家にいた頃もトウモロコシはよく余ってたので、丁度いいと思いますよ」
「それならいいのですが……」
圭君はとても楽しそうにご家族の話をしてくれます。
神様方と知り合いになった事で、変なプレッシャーがかかって、僕が絶対にお供えしなきゃいけない! みたいな、使命感とか感じているんじゃないか……とか、心配していたのですが、その心配は不要なようですね。
「あ、ハルさん。僕今日から早く寝ようと思ってるんですよ」
「いいですね。急な生活習慣時間の改善より、ゆっくりと変わっていった方が体に負担もないですからね」
「はい」
「じゃあ今日は早めにお暇しますね」
「えっ、そんな……いいですよ。別に早く寝るって言ってもハルさんが早く帰る必要なんてないですよ」
圭君は、早く帰ってもらうつもりで言ったんじゃないと、言ってくれています。
それはもちろん分かっているのですが、やっぱり新生活を始めようとしているのに、私が邪魔をするわけにはいきません。
「いえいえ、最初が肝心ですから。明日はいつもより少し早めに来ますね」
「……はい。お待ちしています」
「作ったフィナンシェもいくつか置いていくので、勉強の合間にでも食べてくださいね。糖分摂取は大切ですよ」
「ありがとうございます」
「では」
圭君にお別れの挨拶をして、今日もお暇しました。
明日早めに来る為にも、今日は私も早く帰って、報告だけしたら寝るとしましょうか。
あっちにいく必要もないですし、ここ最近はこの町も特になんの事件もないですからね。
前は結構頻繁にあった怪しい取引や、怪しい密会などもなくなってきています。
犯罪組織が引っ越しでもしてくれたのかと思ったのですが、それは変わらずいるようですし、もしかしたら今までと時間を変えているのかもしれませんね。
私も行動出来る時間は限られていますし、常にパトロールが出来ている訳でもありません。
パトロールは空き時間にやっているだけですからね。
ん? 何でしょうか……
変な臭いがしますね……火薬のような? 拳銃とかを撃ったあとのような?
今の私は猫に化けているので、鼻はそれなりに敏感です。
臭いのする方へ行ってみましょう。
あれは……
忘れもしない、私を撃った猫嫌いの人ではありませんか!
髪は整ってるし、服もちゃんとしたスーツを着こなしていますが、間違いなく同一人物です。
あの見た目では、そうそう悪い人には見えません。
そう考えるとやっぱり見た目って大切ですよね。
人は見た目が全てじゃないとはよく言いますが、内面が分からない他人を知る上で、1番最初にその人への印象として注目されるのはやっぱり見た目ですからね。
まさか、あんな真面目そうな人が拳銃とかもってて、闇取引とかしてる悪い人だなんて、誰が思うんでしょうかね。
もしかして、最近怪しい取引を見かけなかったのって、怪しい格好をしていなかったからなんでしょうか?
私はいつも怪しい人達を発見しては追跡していましたからね。
そもそもが怪しくなければ、追跡もしません。
今日だって変な臭いがしていなければじっくり顔なんて見ませんし、気が付かない所でした。
それにしてもあそこで何をしているんでしょうか?
時計を気にしてるみたいですし、人と待ち合わせでしょうか?
少し様子を伺ってみましょう。
それから暫くして、もう1人スーツ姿の男性が来ました。
あの人は……物凄く見覚えがありますね……
確か……警察の……石黒さん?
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




