表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜色のネコ  作者: 猫人鳥


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/331

最後のバイト

圭君視点です。

 今日も変わらずハルさんは家に来てくれている。

 この間の紅葉狩りの時、ハルさんとのこれからについての話をした。

 最近ハルさんが悩んでいたのはどうもその事のようで、ハルさんの悩みは解決したようだ。


 僕も自分が大学に行くようになって、ハルさんに会えなくなるくらいなら、大学へは行きたくない……とか、そんなことばがり考えていた。

 でも、それももう心配いらない。

 ハルさんはこれからも家へ来てくれる。


 だからこそ、その悩みが解決した今、僕は前に進むためにもハルさんに自分の思いを伝えなければいけない。

 それによって何を得て、何を失うのかをしっかりと考えて……

 そう考えると結局、今までのハルさんとの関係をすべて失う気がして、伝える勇気がなくなってしまう……


「圭君? 大丈夫ですか? 何か悩み事ですか?」

「いえ、大丈夫ですよ」


 少し考え過ぎていて、手が止まってしまっていた。

 ハルさんが心配してくれている。

 何か話を変えないと……


「あ、そういえばハルさん。僕、今日でバイトやめます」

「今日が最終日ですか? じゃあこれからは受験に集中できますね」

「はい。直ぐには無理ですけど、寝る時間と起きる時間も変えていこうと思ってます」

「そうですね。大学に通う前に早起きに慣れておいた方がいいですね」


 よかった。

 いい感じに話が変わった。


 ついでにハルさんの起床時間も聞いておこう。

 今までとは違う時間にハルさんに来てもらことになるんだし、ハルさんの行動パターンも知っておいた方が都合がいい。


「因みに、ハルさんっていつも何時に起きて、何時に寝てるんですか?」

「えーっと……適当ですね」

「適当……なんですか?」

「私は目覚ましとかも使ってないですし、こっちで寝たりあっちで寝たり……あっちに長く居たり、行かずに送るだけにしたり……時間を調整したりして……んー、何と言いますか……圭君っ! 今は余計な事は考えないで受験に集中しましょう」

「は、はい……」

「落ち着いたらまた話しますね」

「え……分かりました」


 何でだろう……?

 今、ハルさんの事情を結構教えてくれた。

 今までは僕が聞かない方がいいことを聞いてしまった時は、困った顔で悩んでいたりして、僕の方が話を変えたりしていたのに……


「じゃあ今日はここでお暇しますね。最後のバイト、頑張って下さいね」

「はい、ありがとうございます」


 ハルさんは帰っていった。

 さっき、"落ち着いたらまた話す"って言ってくれたけど、あれはハルさんの事を教えてくれるって事だと思ってもいいのかな?


 落ち着いたら、か。

 何が落ち着いたら何だろう?

 でも、今は余計な事は考えないで受験をって言ってたって事は、僕の受験が落ち着いたらって事でいいのかな?

 なんにせよ、ハルさんの事を知れるチャンスなのは間違いないだろう。

 このチャンスを逃さない為にも、全力で勉強しよう。


 ハルさんが出ていってからも少し勉強をして、夜ご飯を食べてからバイトへ行く。

 もう今日で最後だと思うと、本当にあっという間だったように感じる。


「お疲れ様です」

「あぁ、瑞樹君。今日が最後か、寂しくなるね」

「はい……」


 バイト先につくと店長が声をかけてくれた。

 少し残念そうな感じで挨拶してくれるのが、悲しいような嬉しいような、微妙な感じだ。

 僕も寂しくて、返事が少し暗くなってしまった。


「いつもなら最後だからって気を抜かないように、って言うんだけど、瑞樹君には言う必要ないね! 今日もよろしくね!」


 店長は暗くなった僕の為か、明るくそう言ってくれた。


「お疲れーっす」

「あぁ、よろしくね。稲村君」

「うぃーっす。あ、瑞樹さん。今日が最後ですね。いやー困りますよ。明日から俺の仕事増えるって事じゃないですか」

「僕はもう最近は何もしてないし、稲村さんだけで十分じゃないですか」


 稲村さんも出勤してきた。

 稲村さんももう夜勤の仕事は完璧だ。

 なんなら今日だって本当は僕なんて必要ない。

 そこを店長が考慮してくれた結果が、今日の最後のバイトだ。


「自分では何もしてないって思っても、誰かのためになってたりするもんですよ」

「……」

「何か言って下さいよ……」

「あぁ、すみません。僕の周りの人って、何でこんなにいい人が多いんだろうと考えてました」

「いい人が多い? それ俺もいい人に入ってますか?」

「もちろん」

「そういうのは即答しないで下さいよ、恥ずかしいんで……」


 いつものように稲村さんと雑談とかして、最後のバイトは時間があっという間に経ってしまった。


「店長。短い間でしたが、本当にお世話になりました」

「こちらこそ。瑞樹君には凄く助けられたよ。これからは大学で頑張ってね。よかったらこのコンビニにもまた買いにきてね」

「はい。ありがとうございます」


 店長には本当に沢山助けられた。

 こんな愛想のない僕に優しく接してくれて、仕事もしっかり教えてもらえた。

 このバイトは本当にいい経験をさせてもらえたと思う。


「稲村さんも、僕の代わりに夜勤を引き継いで下さってありがとうございました」

「大丈夫ですよ。ただ、受験落ちたりしてまた夜勤やりまーすなんてのはナシにしてくださいよ。俺ももう夜勤の体になってるんで」

「はい、頑張ります」


 稲村さんらしい応援もしてもらった。

 最初はこのグイグイくる感じが苦手だったけど、喋りやすかったし、稲村さんにはハルさんの事や受験の事を応援してもらった。

 ここ最近のバイトが楽しかったのは、本当にこの人のお陰だ。


 最初は母さんからの電話から逃げるために始めたバイトだったけど、このバイトから学んだ事は多い。

 これから先、この経験が役立つかどうかは分からないけど、店長や稲村さんとの出会いは本当に大切な出会いだ。

 これからもこのコンビニは利用しよう。

 まぁでも店長や稲村さんは結局夜勤だから、あまり会うことはないんだろうけど……


読んでいただきありがとうございます(*^^*)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ