後悔
ハルさん視点です。
最近は本当に平和な日々が続いていますね。
前までは結構よく怪しげな取引とかをしてる怪しげな人も多かったんですけどね。
この町にあるという大きな犯罪組織が、引っ越しでもしたんでしょうか?
私もあまりこの辺りを離れる事は出来ませんし、遠すぎるところまではパトロールも出来ません。
歪みでも発生すれば行きますが……
元よりあまり一般人にも関われませんし、大きな犯罪組織があるからといって、それをどうにかすることもできませんでしたからね。
一般人には関われません……よね。
本当に何でもっと早くに圭君の記憶を消さなかったんでしょうね。
いくら圭君が優しい良い人だからって、甘え過ぎですよね。
後悔しているのでしょうか、私は……
あぁ、こういう事でしょうか、神ちゃんに言われたのは。
1人で考えていると、どんどん悪い方へ考えてしまいますね。
神ちゃんに言われた通り、1人で考えないでちゃんと神様に相談に行きましょう。
「神様ー? いらっしゃいますかー?」
「おお、ハルちゃん。この間は見に来てくれてありがとうな。木々も喜んどったよ」
「いえ、こちらこそ綺麗な景色をありがとうございました」
この間の紅葉狩りに呼んでもらった時がやっぱり一番の見頃だったんですね。
まだ全体的には綺麗ですが、紅葉は結構散ってしまっていますね。
「こういう景色の移り変わりを見ると、時の流れを改めて実感するのぉ」
「そうですね……」
時の流れの実感、ですか……
私達と一般人では時の流れの感覚が違います。
だからこそ、それを理解してくれる協力者じゃないと、共にいても混乱を招くだけです。
「神様……その、先日の紅葉狩りの時、私はこれからも圭君の家にお邪魔すると約束しました。でも……」
「悩んどるのか?」
「いえ、その約束自体は嬉しかったのですが、いずれは記憶を消して離れなければならないのに、そんな約束をするべきではなかったと……その、反省しています」
「反省、か……」
一般人である圭君は、これからも一般人としての人生を歩んで行きます。
私みたいなのに巻き込んで良いわけがありません。
「以前神様に言われましたよね。同じことを先日、神ちゃんにも言われました。"後悔はしないように"と。きっと私は、圭君から私の記憶を消したら後悔すると思うんです」
圭君とは仲良くなりすぎてしまいました。
圭君から私の記憶が消えるのは悲しいです。
記憶を消そうと考えると胸が痛くなるのも、私が圭君の記憶を消したくないからこそなんでしょうね。
後悔しないようにと言われたのに、これから自分がやろうとしている事で、間違いなく私は後悔します。
「だから今は、何でもっと早くに……圭君と仲良くなる前に記憶を消さなかったのか……という後悔をしていて……後悔したくないのに、既に後悔しているという意味の分からない状況になってしまっていて……」
「ハルちゃんが後悔しているのは、記憶を消さなければいけないという前提があるからじゃな。だから、その前提を一度忘れて考えてみたらどうじゃ?」
「一度忘れる?」
どういう意味でしょうか?
圭君が一般人である以上は記憶を消さないと、混乱を招いて、巻き込んでしまうのに……
「ハルちゃんはあの人の子と共にいて、楽しくはなかったのか? 嬉しくなかったのか? 辛い時間だったのか?」
「いえ! そんな事はありません。圭君には色々教えてもらいましたし、圭君と一緒にいるのは本当に楽しくて、私は幸せな時間を過ごせてました」
「ならば、ハルちゃん。今悔いる必要はないじゃろ? 人の子と出会った時、人の子の記憶を消さんかった事を後悔する必要はないよ」
「ですが、そのせいで私は……圭君が普通に暮らして行くべきだった圭君の大切な時間を奪っているんですよ。私なんかと関わってしまったせいで……」
だから圭君の為にも早く記憶を消さないと……
でも消したくないという、私の我が儘が……
だから後悔してるんですよね……
「ハルちゃん、人の子の気持ちはちゃんと聞いたか?」
「え? 圭君の気持ちですか?」
「人の子はハルちゃんと共におる事を、嫌がっておるのか?」
「いえ、圭君は私といて楽しいと言ってくれています」
その優しさに私が甘えてしまっているのが今の現状です。
これ以上圭君の、一般人として過ごすべき時間を奪わないためにも……
「ハルちゃんが人の子の時間を奪ってしまっていると考えてしまうのは、人の子が一般人だからじゃ。事情をしっている協力者ならば、記憶を消す必要もないし、これからも共におれるだろう?」
「え? えぇ、それはそうですが……」
確かに圭君が協力者なら、記憶は消さなくてもいいですよね。
巻き込んでしまう以前に、巻き込まれている存在ですからね、協力者は。
でも、私は協力者をつくる気はありません。
「人の子を一般人ではなくするという選択肢はないのか? ハルちゃんの事情をすべて話して、協力者となってもらうのはダメなのか?」
「神様……神様もご存知の通り、私は以前、そうやって協力者をつくった結果、あの方々に多大な迷惑を……だからもう二度と協力者はつくらないと決めました」
「あれはハルちゃんのせいではないだろう? それに今はハルちゃん達のお陰で、世界もこんなに安定しておる。以前のような事にはならんじゃろ?」
確かに世界も安定していますし、昔の様な悲劇ももう起こらないでしょう。
今の私もあの時ほど無力ではありませんが……
「すべてを人の子に話してみてはどうじゃ? それでもし人の子が自分には荷が重いというのであれば、その時は人の子の為にも記憶は消してやるべきじゃ。じゃが、それでも人の子がハルちゃんと共にいたいというのであれば、協力者になってもらうべきじゃ」
「神様……」
「確かにハルちゃんは特別な力も持っておるし、こうして世界の為、儂等の為に今まで1人で頑張ってきてくれた。じゃが、ハルちゃんも人であることに変わりはない。人は支え合って生きていくものじゃ。ハルちゃんもそろそろ協力者をつくっていいんじゃないか?」
協力者をつくる……私が……?
でも確かに、私はもう絶対に協力者はつくらないと、意地を張りすぎていたのかも知れませんね。
皆は協力者と共に頑張っていますからね。
「そうですね……ありがとうございます。一度圭君に話してみます。あ、でも圭君の受験の邪魔はしたくないですから、受験が終わって、落ち着いたら話してみますね」
「儂もそれがいいと思うぞ。人の子の事は儂も彼奴も認めておる。なんなら既に協力者でもおかしくない位には馴染んどるからの」
圭君の順応性は高過ぎますからね。
協力者になってくれるかどうかは分かりませんが、ちゃんと話してみましょう。
今の私なら、変に巻き込むこともなく、守っていける筈ですからね。
「ハルちゃん、その……世界が落ち着いた今なら、彼等ともう一度……」
「いえ神様。それは必要ありません。あの方々が今を幸せに生きているのなら私はそれで構いませんから」
「そうか……」
神様が心配してくれるのも分かるのですが、あの事はもう終わった事ですからね。
今更どうにかするつもりもありません。
ただ同じ失敗はしないように、圭君を協力者にするのなら余計に気をつけていかないといけませんね。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




