本当の悩み
ハルさん視点です。
私が枝の上に上がると、神様と圭君は何か話していた様子だったのですが、神様は神ちゃんの様子を見に行かれたので、圭君と2人になりました。
いつまでも変に悩んでいてもしょうがないですし、神ちゃんにもわざわざ送っていただいたので、ちゃんと解決させようと思います。
「あの、圭君。前にも聞こうかと思って聞けなかった事なんですが……」
「え? 何ですか?」
私は、どう聞けばいいか若干悩みつつ、
「圭君はこれから大学生になって、お昼も忙しくなりますよね? 私がいつもお邪魔してる時間では合わなくなってしまうと思うのですが、いつまで圭君の家にお邪魔していいですか?」
と、質問していました。
ですが、聞いてすぐに変な感覚というか、自分で聞いておいてなんですが、今の質問に違和感がありました。
私が聞きたかったのは"今後も時間を変えてお邪魔していいか?"のはずなんですが、"いつまでお邪魔していいのか?"だと、若干ニュアンスが違うような?
でも私が聞きたかった事はこれで間違っていないような……?
「ハルさんさえ良ければ、僕はこれからもずっとハルさんに来てほしいです。僕は今までハルさんに沢山助けてもらいました。そのお礼も出来てないですし、何より会えなくなるなんて寂し過ぎます。僕はハルさんと一緒にいると本当に楽しいですから」
私が自分のした質問に違和感を覚えていたら、圭君はそう返事をくれました。
圭君も私と一緒に居て楽しいと、会えなくなるのは寂しいと、言ってくれました。
でも私、圭君を助けた覚えがないのですが?
「あの私、特に圭君を助けたりとかはできてないと思うんですけど……」
「いえ! 僕の大学受験へのやる気はハルさんのお陰で湧いたものですし、家族との関係もハルさんのお陰で前より良好になったんです。今日だってこんなに凄く綺麗な景色を見るかとができたのはハルさんのお陰ですよ」
私は自分の考えを言っただけでしたが、圭君はそういう事を私が助けたと思ってくれていたんですね。
怪我をしていた私を助けてくれたのも、料理をくれたのも、作り方を教えてくれたのも全部、圭君に私が助けられてばかりだと思っていましたが、私も圭君の助けになれていたみたいです。
「そう言って頂けると、とても嬉しいです。私も圭君と一緒にいるととても楽しいですし、出来ればこれからもお邪魔したいのですが……今までと時間を変更して、これからも圭君の家に行ってもいいですか?」
そう、これですよね、私が元々聞きたかったのは。
時間を変更してこれからもお邪魔していいか、ですよね。
「もちろんです! お昼ご飯は時間が合わなくなるかも知れませんが、そうなったら時間を変えて夕食とか一緒に食べてもらえませんか?」
「はい、じゃあ時間は変わるかも知れませんが、これからも圭君のお家にお邪魔させてもらいますね」
よかったです。
ここ最近、悩んでいたことが解決しました。
最初からそう聞けばよかったのに、何を私は……
「ありがとうございます、良かったです。僕はこれからもハルさんとずっと一緒に居たいですから」
「えっと……ありがとうございます……」
何でしょうか? この気持ちは……
なんかこれは少し恥ずかしいですね。
圭君も私とずっと一緒に居たいと思ってくれていたんですね。
ずっと一緒に……ずっと一緒に?
頭の中でやけに"ずっと一緒"という単語がリピートされます。
そして同時に"それは無理だ"と、否定している私がいるんです……
では、何故無理なのか? と、もう一度自分に問えばすぐに答えは出ました。
私の悩んでいたことは解決なんかしていませんでした。
ただ単に、私が解決したと思った……いえ、思いたかっただけなんでしょうね。
神ちゃんにも何をそんなに悩んでいるのか? と言われましたが、私が本当に"これからも時間を変えてお邪魔していいのか"という事を悩んでいたのなら、きっと私はこんなにも悩みませんでした。
圭君が"もう来ないで"、なんて事を言う訳ないんですから。
さっきのように、すぐ聞いて、解決して、それで終わることです。
なら、私が本当は何に悩んでいたのかといえば、それは……私みたいな存在が、一般人の圭君とずっと一緒にいることは不可能なのに、いつまで圭君と会っていていいのか、という事です。
圭君が神様や神ちゃんのように私の事情を知り、協力してくれる協力者ならば、今みたいに一緒にいることは可能です。
ですが私は、圭君に私の事情を話して巻き込む気は、当然ありません。
だからミオも心配してくれていたんですよね。
それは私も分かっていました。
いつまで……それは、いつかは別れなければいけないと分かっているからこその言葉ですよね。
だから私はさっき、"いつまでお邪魔していいのか?"と、質問してしまったんですね。
本当に聞きたいのはこっちですから……
時間を変えてお邪魔していいか? だと、これからも来ることを前提とした質問ですが、いつまでお邪魔していいのか? だと、いつかは来なくなる、来ちゃいけなくなる事を前提とした質問になりますからね。
とはいえ、これは圭君に聞いて解決できる事ではありませんね。
自分で自分が何を悩んでいたのかも分かりましたし、もう少ししっかり考えて、もう一度ちゃんと圭君と話すことにしましょう。
今はまだ……私は圭君と一緒にいたいですから……
結局、本当に解決させたかった悩みは解決できませんでした。
「ハ、ハルさん」
「えっ! はい。なんですか?」
急に圭君に呼ばれて驚きました。
解決できない悩みなのに、考えすぎていましたね。
「あの、その……」
「ん? 圭君?」
どうしたんでしょう?
圭君は何か言いかけたのに俯いてしまっています。
「圭君? 大丈夫ですか?」
「あの……その……ハルさんの髪って、桜みたいで綺麗ですよね。今日は紅葉狩りですが、桜も一緒に見れた気分です」
「えっ……そ、そうですか……」
そう圭君は言ってくれましたが、その言葉……あの人と同じですね。
私の髪を桜だと言い、笑顔になってくれたあの人と……
まさか圭君にも言われるとは……
「すみません。今の、ハルさんにとっては言われるの嫌なことでしたか?」
私が変な反応をしてしまったせいで、圭君を困らせてしまったみたいですね。
「いえ、そんなことはないですよ。圭君はラッキーですね! 紅葉狩りに来てお花見も一緒にできるんですから!」
私がそう言うと、圭君は安心したようで笑ってくれました。
「本当に綺麗です。ありがとうございます」
ものすごい笑顔で私の方を向きながらそう言ってくれた圭君……
そ、そんな笑顔でこっち向いて言われたら、勘違いしちゃうじゃないですかっ!
紅葉がっ! 紅葉が綺麗なんですよね!
もう、変に顔が熱を持ってしまってます……
折角桜の木って誉めてもらったのに、これじゃあ桜の木に真っ赤なリンゴの実が成ってるって言われちゃいますよ……
「ハルさん? 大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です……」
恥ずかしさから両手で顔を覆って隠したのですが、私のその謎行動を圭君は疑問に思ったようで、心配されてしまいました。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




