言えない事
圭君視点です。
土地神様に悩み相談をして、僕自身がこれからどうやっていくべきかを改めて考えていたら、
「すみません、お話し中ですか?」
と、ハルさんの声が後ろから聞こえた。
「えっと……ハルさん、いつからそこに?」
「今ですよ。丁度、神ちゃんが送ってくれたので」
今来たのならさっきまでの話は特に聞かれてないだろう。
結構ハルさんに聞かれたら恥ずかしい話をしていたし、もし聞かれてたら僕がちゃんと告白する前に気持ちを知られた……みたいな、変な感じになってしまう。
「ではあれは今は1人か。儂はあれの所へ行ってくるよ」
そう言って土地神様は下に降りていってた。
気をつかって2人きりにしてくれたんだろう。
「あの、圭君。前にも聞こうかと思って聞けなかった事なんですが……」
「え? 何ですか?」
土地神様が行くと、ハルさんは少し思い詰めた様子で、
「圭君はこれから大学生になって、お昼も忙しくなりますよね? 私がいつもお邪魔してる時間では合わなくなってしまうと思うのですが、いつまで圭君の家にお邪魔していいですか?」
と、僕を真っ直ぐに見つめてこの質問をしてきた。
ついさっき、土地神様と話していて、大学に受かって大学生になったらハルさんと時間がズレるとか、もう来てくれないかも……とかを、僕も考えていた。
ハルさんも同じ事を考えて、悩んでくれていたんだな。
「ハルさんさえ良ければ、僕はこれからもずっとハルさんに来てほしいです。僕は今までハルさんに沢山助けてもらいました。そのお礼も出来てないですし、何より会えなくなるなんて寂し過ぎます。僕はハルさんと一緒にいると本当に楽しいですから」
「あの私、特に圭君を助けたりとかはできてないと思うんですけど……」
「いえ! 僕の大学受験へのやる気はハルさんのお陰で湧いたものですし、家族との関係もハルさんのお陰で前より良好になったんです。今日だってこんなに凄く綺麗な景色を見るかとができたのはハルさんのお陰ですよ」
改めて思い返すと僕は本当にハルさんに助けられてばかりだ。
だからこそ、ハルさんの役にたちたいんだ。
そのためにいく大学なんだから、受かりたくないとか言ってる場合じゃない。
でもそもそもハルさんが来てくれないのなら、大学へ行く意味なんてない。
だからこそ、ハルさんにはこれからも家に来てほしい。
「そう言って頂けると、とても嬉しいです。私も圭君と一緒にいるととても楽しいですし、出来ればこれからもお邪魔したいのですが……今までと時間を変更して、これからも圭君の家に行ってもいいですか?」
「もちろんです! お昼ご飯は時間が合わなくなるかも知れませんが、そうなったら時間を変えて夕食とか一緒に食べてもらえませんか?」
ハルさんにも仕事がある。
それも僕なんかじゃ分からない、大変な仕事をしてるんだろう。
だから来てほしいっていうのが僕の我が儘なのは十分に分かってる。
それでもやっぱり来てほしいし、御飯もちゃんと食べてほしい……というか、僕の作ったご飯を一緒に食べてほしいんだ。
「はい、じゃあ時間は変わるかも知れませんが、これからも圭君のお家にお邪魔させてもらいますね」
「ありがとうございます、良かったです。僕はこれからもハルさんとずっと一緒に居たいですから」
「えっと……ありがとうございます……」
ハルさんがこれからも来てくれるという嬉しさから、ハルさんにこれからも一緒に居たいと言ったら、ハルさんは少し恥ずかしそうに照れながら、喜んでくれた。
多分、この間ハルさんが僕に聞こうとしていたのは、この事だったんだろう。
これで最近ハルさんが悩んでいたことは、解決できたかな?
これから僕がバイトをやめ、大学へ通う事で、ハルさんとの時間は今までとは違ってくる。
それでもハルさんは家に来てくれると言ってくれた。
むしろハルさんの方が、これからも来ていいのかと悩んでくれていたみたいだ。
だったら少なくとも、ハルさんは僕に好意を持ってくれているはずだ。
今なら言えるか? ハルさんの事が好きだって。
言って、ちゃんと思いを伝えられたら……僕も前に進む事ができるかな……?
「ハ、ハルさん」
「えっ! はい。なんですか?」
ハルさんも何か考え事をしていたようで、僕が声をかけたら少し驚いた。
「あの、その……」
「ん? 圭君?」
言えない……やっぱり言えなかった。
確かにさっき、これからも家に来てくれるって約束してくれたけど、それは友人としてって事だ。
結局の所、僕の思いを伝えたらこの関係は壊れる。
そう思ってしまったらやっぱり言えなくて、俯いてしまった。
「圭君? 大丈夫ですか?」
僕の言動を不思議に思ったようで、ハルさんが顔を傾げて僕を心配してくれている。
いつまでも黙っていると、ハルさんを困らせてしまうし、何か言わなきゃいけないと思い顔をあげた時、丁度少し強めの風が御神木を揺らした。
ハルさんの方をみると、風になびくハルさんの髪と御神木の枝とが重なって、桜の木から花が揺れているように見えた。
「あの……その……ハルさんの髪って、桜みたいで綺麗ですよね。今日は紅葉狩りですが、桜も一緒に見れた気分です」
「えっ……そ、そうですか……」
思わず言ってしまったけど、ハルさんは驚いたような顔で、少し困っているみたいだ。
もしかして、そういう事を言われるのが好きじゃないのか?
珍しい髪色だし、今までも髪の事で何か言われてきたのかもしれない……
「すみません。今の、ハルさんにとっては言われるの嫌なことでしたか?」
「いえ、そんなことはないですよ。圭君はラッキーですね! 紅葉狩りに来てお花見も一緒にできるんですから!」
ハルさんはそう言って笑ってくれた。
いつもと変わらない優しい笑顔だし、言われて嫌だったとかではなさそうで、安心した。
さっき微妙な顔をしていたのは、単に驚いただけなのかな?
「本当に綺麗です。ありがとうございます」
これが今の僕に言える限界だった。
結局僕にはハルさんに思いを伝える勇気はなかった。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




