問題解決
ハルさん視点です。
電話をしに帰りたかったのですが、足がこれだとさすがにすぐには帰れません。
ここが何処だか分からないこの状況では、帰るのにも時間がかかってしまいますからね。
仕方ないので、お言葉に甘えて携帯をお借りしました。
とりあえず通報は出来たので良かったのですが、問題は山積みです。
まず、この怪我だとしばらく帰れそうにない事。
それと足がつく電話を使ってしまった為の、警察問題。
さらに、この人全然聞いてこないからさっきまでちょっと忘れかけていましたが、化けてるの見られてる問題が……
一応、見られてる問題に関しては後で記憶を消せばいいのですが、しばらく帰れそうにないので色々と大変ですね。
落ち着いて順番に解決していきましょう。
「それでですね、あの……」
「大丈夫ですよ。警察に聞かれても、ちゃんと急に現れた知らない人に貸したって言っておきますから」
「あ、ありがとうございます……」
私が言いたい事を察してくれたようで、私の事を話さないでいてくれるつもりみたいです。
本当にこの人、いい人過ぎませんか?
「そんなに心配しないで下さい。そもそも拾った猫が人になって電話を使ったなんて事は言えませんし、容姿とかも適当に嘘を言っておきま……」
「それはダメですっ!」
ついには私の為に警察に嘘をつく、何て事まで言い出したので、それは否定させてもらいます!
「あの?」
「嘘はダメですよ! 私の為に嘘をついてくれようとしているのは分かっていますが、嘘をついてはいけません!」
「嘘、ですか?」
「警察に聞かれても、ちゃんとこの容姿の人に頼まれたって言って下さい!」
助けてくれた恩人を、嘘つきなんかにするわけにはいきません! と、そう意気込んでいたのですが、
「……それは、猫が人になったとかもですか? そんなに知られて大丈夫なんですか?」
という、最もな質問をされてしまいました。
確かにそれは困るんですよね……
嘘をついてほしくなくてこの容姿のとは言いましたが、全部を正直に話されたら困るのは私です。
後で記憶を消さないといけない人が、増えてしまいますからね。
「えっと……猫とかの事はそうですね、知られたくはないですが……」
「分かりました。どのみち猫が人になったなんて話は信じてもらえないでしょうし、嘘は言わずに言える事だけを言いますね」
「そうですね! それでお願いします」
……この人、ものわかり良すぎませんか?
何で初対面の私にここまで優しいのでしょう?
ただでさえ、猫に化けていたような気味の悪い存在だというのに……あ! 猫好きなのかもしれませんね!
とにかくお礼を言わないと!
「何から何までありがとうございます」
何故ここまでいい人なのかは謎ですが、本当にありがたいです。
普通目の前で猫が人になっただけでもパニックになりますし、こんなに冷静にはなれないと思うのですが?
それに携帯で不穏な通報を警察にする怪しい人物ですよ、私。
もっと質問攻めにしてきてもおかしくないのに……これからしてきますかね?
「困った時はお互い様ですし、気にしなくて大丈夫ですよ。この家もハルさんの過ごしやすいように使ってもらっていいですから」
ここまで言われると流石にいい人過ぎて怖いです!
見ず知らずの不審者に家まで好きにしていいだなんて……んん? 今さらっと名前を呼ばれましたね?
私、名乗りましたっけ?
……よくよく考えてみれば、最初に聞かれて答えましたね。
あの時この人も名乗ってくれていたように思いますが、頭がぼーっとしていたので覚えてないんですねよ……
質問攻めにされる前に、私の方が質問をしなければいけなくなってしいましたね。
「すみません……先程お教えいただいたと思うのですが、あなたのお名前はなんでしたか?」
「名前? あぁ、圭です。瑞樹圭です」
「圭君ですね。恩人の名前も覚えず、大変失礼致しました」
「そんなこと気にしなくていいですよ」
いつもなら人の名前とか覚えるのは得意なんです!
今回がたまたまで……と、ひとり言い訳していても、何の意味もないんですけどね。
「そういえば、病院はどうしますか? 僕の手当てだけでは万全ではないので、朝になったら病院に行こうかと思っていたのですが?」
「お気遣いありがとうございます。でも病院は大丈夫です」
病院に行く訳には行きません。
保険証はもちろん、戸籍もありませんからね。
それに私は我の治りが早いですし、薬とかも必要ありません。
何より目立つ行動は避けないと!
「そうですか。知らない家で落ち着けないとは思いますが、動くと怪我に悪いですし、ゆっくり寝て休んで下さいね」
「……圭君はちゃんと寝たんですか?」
よくよく考えれば圭君が寝られた訳がないですよね。
私を拾えたという事は、あの時間には外出していたはずですし、私の手当てや野菜スープを作ったりしていて、時間はなかったでしょうから。
「まだ寝てないですよ。でも僕、いつもなら6時までバイトをしているので、今頃が家に帰って来たぐらいの時間なんですよね。だからまだ寝てないのはいつもの事なので」
「もしかして、私のせいでバイトを早く終わらせたりしたんですか?」
「終わらせたというか、店長が代わってくれたんです。凄い優しい人なんですよ」
圭君だけではなく、店長さんにもご迷惑をおかけしていまっていたみたいです。
この街は人口が多いだけに犯罪件数も多く、あまり治安は良くないと言われていますが、それでもこういう優しい人はいてくれるのだと分かって嬉しく思います。
そんな優しい人達に、私は迷惑をかけてしまっているんですけどね……
「本当にごめんなさいっ! ご迷惑を沢山おかけしました。私の事はもう気にしないでもらって大丈夫なので、ゆっくり休んで下さいね?」
「えっ? あぁ、じゃあ僕も休みます。僕は布団敷くので、ハルさんはそのベッドを使って下さいね」
圭君のお部屋はそんなに広くはないです。
ですから布団を敷くと、お部屋はかなり狭くなってしまいます。
何より家主の圭君を差し置いて、私がベッドを使わせてもらう訳にはいきません。
とはいえ先程からの圭君の性格を考えても、怪我人の私には絶対ベッドを使わせてくれようとしますよね?
どうしたら……あっ!
「いえ、ベッドは圭君が使って下さい! 私はこのブランケットだけ貸してもらえれば、布団も必要ありませんので」
「え? それはさすがに……」
「いえ、私は猫になれるので!」
まぁ、見られてるのでご存知かとは思いますが。
「猫の状態で寝るんですか? それでちゃんと休まります?」
「さっきは気絶してしまったので人の姿に戻ってしまいましたが、基本的には寝られますよ。ちゃんと休めます」
いつもなら自分から人前で化けたりはしませんが、もうこれ以上の迷惑をかけたくないですから。
それにもう、見られてますし。
私、ちょっと開き直っちゃってますかね?
「なら、お言葉に甘えて僕がベッドを使わせてもらいますね」
「はい! ブランケットをお借りします」
まだ問題が全て解決した訳ではありませんが、今は怪我を直すことを優先しようと思います。
それにしても、偶然助けてくれたのが優しすぎる圭君だったから良かったものの、もうこんな事が起こらないように気を付けないとですね……
読んでいただきありがとうございます(*^^*)