障壁
圭君視点です。
手紙の返事が来たこともあり、少し昔を思い出していたら、ハルさんの話を聞いてなかった。
それを怒ることもなく、心配してくれたハルさんに、昔言われた事の話をしたら、凄く励ましてくれた。
「何を考えているのか分からないなんて、あたり前じゃないですか。人はそれぞれ、違う存在なんですから」
ハルさんは何でもない事のようにさらっと言ってくれたけど、僕にとっては結構衝撃の言葉だった。
今までずっと、僕は親にも理解されない、何を考えてるのか分からない奴なんだと思っていたから。
でも、そう言われるとすぐに納得できた。
僕も皆も、超能力者って訳でもないんだから、何を考えてるのか分からないなんて当たり前の事だったんだ。
分からないから皆は、話をしてお互いを理解してたんだ。
そんな事にも気が付かずに、そう言われた事だけを気にしてたとか……
僕は本当にバカだな。
ハルさんはいつも僕に大切な事を気付かせてくれる。
僕が自分には夢がなくて、やりたいこともないのに大学へ行く意味とか考えてた時も励ましてくれたし、手紙の時も今回も、本当にハルさんには感謝しかない。
僕とそんなに歳も変わらなさそうなのに、いろんな事を知ってるし、教えてくれる。
まぁ、ハルさんの年齢は知らないんだけど……
それにしても、さりげなく好きとかいうのはやめて欲しい。
僕が恥ずかしさから赤くなっていたのを、熱だと思ったみたいで、ハルさんはお菓子も作らずに帰ってしまった。
まぁ、今日はその方が良かったかもしれないけど。
あのままだったら、恥ずかしさで言葉を失ってたから……
でも、あの時のハルさん"好き"という言葉に、僕の期待してるような気持ちがないことも分かってる。
そもそもあれは性格が好きって話だったし……
「瑞樹君? おーい」
「あ、すみません……」
「最近なんか、ずっと悩んでるよね? 大丈夫? 相談なら乗るよ?」
そうだ、今はバイト中だった。
店長に声をかけられて、自分の手が止まっていた事に気づいた。
いつもは考えながらでも手はちゃんと動かしているんだけど……これじゃ、サボってるのと一緒だ。
「すみません店長。手が止まってました」
「いや、止まったのは今さっきくらいで、ずっと動いてたよ。でも、考え事してたでしょ? この間も考え事してたみたいだし、何か悩んでるんなら聞くよ」
「あ、ありがとうございます」
本当に店長は優しいな。
そういえば店長って結構僕の体調とか気にしてくれるし、僕が考え事してるとか楽しそうとか、よく気がついてくれるよな……
「あの、店長。僕って無表情で、無感情で、何考えてるのか分かんない感じですか?」
「えっ? 急にどうしたの? 誰かに言われた?」
「あ、いえ……最近言われた訳じゃないんですが……」
いきなりこんなこと聞いたら店長も驚くよな。
それでも店長は、ちゃんと考えながら僕の質問に答えてくれる。
「うーん、無感情ではないね、君は優しすぎるよ。最初の頃は無表情だったけど、最近はそんなこともないと思うよ。それに、何考えてるのか分からないなんて……」
「当たり前の事ですか?」
「そうだよ。ちゃんと分かってるじゃない」
店長はハルさんと同じように、僕を励ましてくれた。
店長が優しいとは思っていたけど、僕の事をこんなに考えてくれているのは知らなかった。
これは今、聞いたからこそ分かったんだ。
きっと今までもそうだった。
僕の事を思って、考えてくれている人はいたのに、僕がその人の事を考えてなかった。
自分の気持ちを伝えようとしていなかった。
「今日、教えてもらいました。無表情とか無感情とか、昔言われた事を引きずって、僕が勝手に周りの人はからもそう思われてると、思い込んでいただけみたいです」
「なんか、解決した?」
「はい。ありがとうございました」
僕は無表情とかよく言われるし、自分でもあんまり笑えてないと思う。
でもそれを無理に直す必要も、どうせ理解されないと諦める必要もなかったんだ。
僕がそういう人間だと分かってもらえばいいだけだった。
相手が分かってくれるだろうと勝手に決めつけて、自分の思いを伝えないのは相手への甘えだ。
だから僕はもっと自分を分かってもらえるように、思いを伝えるべきだった。
そうすればきっと僕の事を理解してくれる人は現れる。
いや、きっと今までだっていたはずだ。
お互いが思い合っているからこそ、言葉は届く。
ハルさんはそう教えてくれた。
今まで僕は、誰も分かってくれないと決めつけて、分かってもらおうとしていなかった。
家族や同級生達との間に、壁を作っていたのは僕の方だったんだ。
今回の事でもよくわかった。
ちゃんと言葉にしないと伝わらないって。
だからこの気持ちも伝えないといけない。
"ハルさんが好き"だって事を……
でも何故か分からないけど、それを伝えてしまったらもう今のままじゃいられなくなる、もうハルさんに会えなくなる……そんな気がして、伝えようとは思えなかった。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




