無表情
ハルさん視点です。
お手紙の返事が来て、喜ぶべきはずなのに何故か悩んでいた圭君。
圭君にとっては自分の思いが伝わるというのは、よく分からない感情になるようです。
きっと、今まで無表情とか感情が無いとかを言われていたことで、感情は伝わらないものなんだと、思い込んでしまっていたのかも知れませんね。
だから今回、手紙で思いを伝えることが出来て、困惑してしまったんですね。
問題は、どうして感情が無いとかを今まで言われてきていたのかという事ですよね。
「私からすると、こんな優しさの塊みたいな圭君が、感情が無いなんて言われていた事が驚きですけどね。圭君は優しすぎる位優しいんですから」
「そんなことはないです。僕はずっと全然笑わないとか、無表情とか言われてましたから……自分でもあんまり表情が変わらないと思いますし……」
「ん~、確かに圭君はあまり感情が顔にでない方なのかな~と思う時はありますね」
「そうですよね……やっぱりそういうのがダメなんですよね……」
「ダメなんかじゃないですよ! そういうのは人それぞれですからね。それに私は圭君が笑ってくれてるのも何度も見てますし、圭君の笑顔はとっても素敵ですよ!」
「えっ……ありがとうございます……」
感情が表情に出にくいというだけで、別に感情がないわけでもないですから。
笑ったり、驚いたりする圭君も私は何度も見てます。
そういう色んな表情の圭君をみれると、私も嬉しく思います。
「圭君は多分、優しすぎて物事を受け入れるのが早すぎるんじゃないですか?」
「受け入れるのが早すぎる……? そうですか?」
「そうですよ。なかなか受け入れ難いような事も、すぐに受け入れちゃいますよね?」
「そんなことはないと思うんですが……」
「いえ、そんなことあります。そもそもいきなり動物に化けるような変な存在に、こんなに優しくする人はいません。まず疑って下さい」
最初に会った時から圭君は私にとても親切でした。
特に驚いている様子もありませんでしたし、とても冷静でした。
こんな変な存在、普通なら気味悪がられてもおかしくないのに……
「僕も疑いましたよ? でもすぐにハルさんはいい人だって、分かりましたから」
「それは……ありがとうございます。でもまぁ、圭君は本当に受け入れるのが早すぎます。動揺が少なく見えたから、感情がないように見えてしまうのかも知れませんね」
神様に会ったときもそうでしたが、私が神様と言っても特に驚いてはいませんでした。
それに神様にトウモロコシプレゼントしたいとか言ってくださいましたし、順能力が高すぎます。
「そうなのかも知れないですね……これからは改善していきます」
「いえ、別に改善する必要はありませんよ。圭君が改善したいならそれでもいいかも知れませんが、これは圭君の魅力の1つでもあるわけですから」
「み、魅力?」
「はい。他の人とは違う、圭君だからこその性格。つまり、個性ですね。個性は魅力の1つですよ」
他の人とは違った考え方や捉え方。
そういうものは時折逸脱し過ぎていて、周りから疎まれる場合もありますが、価値観というのは人それぞれです。
もちろん自分で変えたいと思うなら、それもいいと思います。
でも圭君の場合で言えば、周りの人が圭君がどんな人なのかを分かってくれていれば、問題のないことです。
そうやって分かり合うために、人はお互いに思いやりをもって、話をするものですからね。
「私は圭君のそういう優しすぎるところ、好きですよ。まぁ、受け入れの早さはたまに心配になりますが」
「えっ、あ、ありがとうございます……」
と、まぁ長々と話し込んでしまいましたね。
言葉とか、気持ちを伝えるとか、そういう話だとどうも長話をしてしまいますね。
私は私の価値観を基に話しているだけでですが、圭君はいつも真剣に私の話を聞いてくれます。
「ごめんなさい、大分長く語ってしまいましたね……」
「いえ、その……あの、ハルさん……さ、さっきの……」
「はい? どうしました?」
「あっ、いえ……何でもないです」
圭君は少し下を向いていて、どこか様子がおかしいので、顔を覗き込んでみたのですが、圭君の顔、少し赤いですね。
もしかして……
「圭君? 顔が赤いですけど、もしかして熱があるんじゃないですか?」
「えっ、いや、そういうんじゃなくて……あ、いえ……そうかもしれないです……」
「それは大変ですね。微熱のうちにちゃんと休んで治しておいた方がいいです。すぐに寝て下さい」
「いや、あの、大丈夫です」
今日はあまり元気がないような感じでしたが、悩んでただけでなく体調も悪かったんですね。
こんなに長話する前に気がつくべきでした。
早く寝て元気になってもらわなくてはいけません。
でも私が出て行くとき、ベランダの鍵を閉めてもらわないといけないんでした。
「私が出てかないとベランダの鍵が閉めれないですよね、すみません。体調の悪い時に長居するのも悪いですし、今日はお暇しますね」
「あ、その……すみません」
「いえ、ゆっくり寝て、休んで下さいね。では」
「はい、ありがとうございます」
今日はお昼御飯をいただいただけになってしまいましたね。
でも、体調の悪い時にお邪魔する訳にも行きませんから。
少し顔が赤い位でしたし、早く寝たらきっとよくなりますよね?
明日は元気な圭君に会えることを信じて、仕事に戻りました。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




