志望動機
圭君視点です。
僕の地元は田舎と言っても人口は多分多い方だと思う。
実家は農家。
結構大きな土地を持っていて、畑も広い。
広すぎるので、畑仕事は人を雇っている。
幼い頃は母に連れられて、僕も畑仕事を手伝ったりしていた。
働いてくれている人達からは、
「圭君は大人しいねー」
「いい子やねー」
とか、よく言われていた。
妹が産まれてからは、妹の面倒を任されることが多くなり、友達と遊ぶという機会はあまり無かった。
それでも、小学校とかでは話してくれる友人も多かったので、特に困ることも無かった。
「ねぇねぇ、瑞樹君。私、瑞樹君のことが好きー」
「そう……」
「って、ねぇ? それだけ? 私が告白してあげてるんだよ。他に何かないの?」
「そう言われても……僕、君の事知らないし。クラスも違うし、名前も知らないから、その……」
「あー、もういいよ。じゃあ、今の告白無しって事で」
全然知らない隣のクラスの女子から告白されたのは、中学の時。
その時は、きっと勇気をだして告白してくれたのに、申し訳なかったと思った。
でもたまたま隣のクラスの前で、その女子が話しているのを聞いてしまった。
「お前、何で瑞樹に告ったんだよ」
「何でって、だって瑞樹君の家ってお金持ちじゃん! 家とか畑とか滅茶苦茶でかいしー」
「それが理由?」
「そう。でもやめたー。だってこの私が告白してあげたのに無表情よ。感情ないんじゃない?」
「それ、分かるわ。俺も昔から親に"あの子とは仲良くしとけ"って言われてたけど、ありゃ無理だよな。無口だし、何考えてるのか分かんねぇって」
「え? なに? あんた、そんなこと言われてたの?」
「ああ、俺の親父、アイツんとこで働いてっからな」
「あー、なるほどねー」
そんな会話を聞いてしまった。
家が金持ちだから告白した?
自分のお父さんが僕の家で働いてるから、仲良くした?
無表情で、感情がなくて、何考えてるかも分からない……
もともと大人しいとか、あまり喋らないとかはよく言われてたけど、友人達の方から話しかけてくれていた。
何処と無く気を使われている気はしていたけど、僕は家のおかげで友達がいただけだったんだ。
違うな、僕には最初から友達も何もなかったんだ。
誰も僕の事を知らない所に行きたい……
そう思った。
高校の志望校を知り合いの1人もいない都会にした。
急な事で先生も驚いていたけど、成績的にも大丈夫だろうと応援してくれた。
心配してくれた両親にも、1人暮らしをしたいからと伝え、納得してもらえた。
その日の夜……
「あの子、何考えてるのかしら? 急にこんな高校志望校にして……何かやりたいことでもあるのかしらね?」
「どうだろうな?」
両親がそう話してるのを聞いた……
僕は親にも、何考えてるかも分からない奴だと思われてたんだ。
高校に入れば誰も僕の事なんて知らないし、家を理由に話しかけてくる人もいない。
きっと本当の友達が作れると思ってた。
でも……
「瑞樹ってさ、何考えてんのかマジ分かんねぇよな」
「あぁアイツ、無表情過ぎて怖いわ」
「分かるー」
クラスの皆の僕の評価はそんなだった。
今まで向こうから話しかけてくれていたから、僕は自分から話しかける方法を知らなかった。
気がつけば友人の1人もできず、無表情とか無感情とか、同じような事しか言われていなかった。
家なんて、関係なかった……
結局、僕がいけなかったんだ。
「圭? 元気にやってる?」
「うん」
「そう。また、野菜送るから」
「うん」
「たまにはあんたから連絡くれてもいいのよ?」
「いや、母さん達、忙しいでしょ? いいよ」
「そう」
「僕は大丈夫だから、そんなに心配して連絡してくれなくていいよ」
「分かったわ。なら、何かあったら連絡してよ」
「うん」
定期的に母さんから電話があったけど、家が忙しいのも勿論分かってる。
無理に電話してくれなくていいと、電話も断った。
「圭、あんた大学落ちたって?」
「ごめん。迷惑かけたよね。僕、バイトすることにしたから。せめて自分の生活費くらいは自分で稼ぐから」
「ねぇ、圭? 大丈夫なのよね?」
「うん、大丈夫だよ。来年はちゃんと頑張るから」
「そう?」
「あ、あと、深夜バイトすることにしたから、電話とかもうそんなに出れないと思う」
「バイト? しかも深夜って……本当に大丈夫なの?」
「大丈夫だよ」
「そう? こっちは大丈夫だから、いつでも連絡してきてよ」
「うん、ありがとう」
大学に落ちたときの電話……
それ以来、連絡もしていなかった。
だんだん、何のために勉強してるのかもよく分かんなくなってきて、僕って何やってるんだろ? って思ってた。
でも、ハルさんと出会って、変わったんだ。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




