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桜色のネコ  作者: 猫人鳥


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手紙

圭君視点です。

 さっきからハルさんはずっと悩んでる……

 多分僕の実家にお礼を言いたいけど、自分が行くことは出来ないから悩んでるんだろう。

 本当に気にしなくていいのに。


「私が直接お礼を言えないので、圭君に沢山お礼を言います。だから圭君からご実家の皆様に、私の分までお礼をお伝えして下さい」


 しばらく様子を見ていたら、もう他にどうしようもない……という感じにハルさんはそう言った。


「いえ、本当に大丈夫ですから。僕もいつも何も言ってないですし」

「えっ? 圭君、ご実家にお礼の連絡とかしてないんですか?」

「しないですよ」

「……それは良くないですね」


 あれ?

 ハルさん……ちょっと怒ってる?

 なんかこの感じは久しぶりだ。


 本当に気にしなくていいって事を、伝えるつもりで言ったんだけど、それよりも僕が家族になんの連絡もしてないって事に対して怒ってるみたいだ。


「いや、でも、僕の実家の農家、結構忙しくて……電話とか忙しい時にしたら、邪魔になってしまいますし……」

「それでも良くないです! ちゃんとお礼を言いましょう!」 


 実家にお礼とかを言ってない理由を説明しようとしたら、言い訳してるみたいになってしまった。

 ハルさんには少し強めに怒られた……


「圭君はいつも野菜を送ってもらって、助かってるんですよね? ありがたいって思ってるんですよね?」

「それはもちろんです。いつも本当に助かってるし、ありがとうって思ってますよ。実家の皆も、僕が助かってるって分かってて送ってくれてるんですし……その、わざわざ電話して伝えなくても大丈夫ですよ」


 頑張って弁解してみたけど、結局言い訳っぽくなってしまった。

 もちろん野菜を送ってもらって感謝してない訳じゃない。

 でもそんなこと、言わなくったって伝わってるはずだし……


「圭君。思ってるだけじゃ伝わりませんよ。ちゃんと言葉にしないとダメです」

「えっ」


 急にすごく冷静な声でハルさんは言った。


「確かに近しい方なら、わざわざ伝えなくても分かってくれる事もあると思います。でもそれに甘えちゃダメですよ」

「甘え……ですか?」

「相手が分かってくれているから、言葉にしなくていいっていうのは、相手に対しての甘えです。たとえ、相手が分かってくれるのだとしても、やっぱり言葉にして思いを伝えるっていうのは、とても大切な事ですよ」


 僕は甘えてしまっていたのか?

 今までお礼も連絡も何もしていない。

 家が忙しいのを言い訳にして……


「分かってる事でも、言ってもらえるのと、何も連絡がないのとでは全然違いますよ。言葉の力というのは偉大ですからね」

「言葉の力ですか?」

「はい、誰でも簡単に使える力です。目には見えないけれど、とても強い力なんですよ」

「えっ、えっと……」


 僕がありがとうと思ってる事は、きっと伝わってるだろう。

 でもだからって、声に出さなくていいわけじゃないんだ。


 言葉の力は偉大、か……

 僕もちゃんと伝えないといけないんだ。

 でもいまさら、ちゃんと伝えれるのか?


「ごめんなさい……ちょっと話がそれましたね。要はいつも野菜をありがとうって思ってるのなら、ちゃんと言葉で伝える事が大切って事です」

「で、でも……」


 自分でもすごく動揺してるのがわかる。

 僕はずっと逃げてたんだ……

 家族の優しさに甘えて、向き合おうとしてこなかった……

 それに気づいてしまったから動揺してるんだ。


「電話で伝えるのが難しいなら、お手紙を書きましょう」

「手紙……ですか?」

「はい、そういう時のために文字があるんですから」


 確かに、電話が無理なら手紙を書けばよかった。

 僕が家族が忙しいからと散々言い訳して、家族に全く連絡しなかったのは、本当にただ逃げてただけだった。

 心配してくれてる母さん達の声を、聞きたくなくて……


 自立したくて出てきたとか言っておいて、ずっと家族に甘えてたとか……

 情けないな、僕。

 本当にハルさんからは学ぶ事が多い。


「そうですね。手紙、書いてみようと思います」

「善は急げです! 今すぐ書きましょう!」


と、ハルさんはどこからかいきなり便箋をだして、机の上においてくれた。

 何気に前に僕に書き置きしていった時のと、同じ便箋だ。


「えっと……でも、何て書けば?」

「思った事をそのまま書けば大丈夫ですよ! 圭君の本心を、偽りなく、ちゃんとお伝えしましょう。必ず伝わりますから。さっきも言いましたが、言葉の力は偉大ですよ!」

「ありがとうございます。書いてみますね」

「はいっ! 是非そうしてください。私がいたら書きにくいと思うので、キッチンの方でフィナンシェ作ってますね」

「あ、お気遣いありがとうございます」


 気を使ってキッチンの方に行ってくれた。

 手紙なんて書くの、いつぶりだろうか?

 小学校の授業とかで書いたのが最後な気がする。


 思った事をそのまま書けばいいってハルさんは言ったけど、どうすれば……

 やっぱりどうしても、今さらって感じがするし……

 いや、そんなこと考えたって仕方ないんだ。

 僕に使える"言葉の力"を信じて書こう。


父さん、母さん、珠鈴、久しぶりです。

元気にしてますか?


ずっと連絡してなかったので、連絡しようと思ったんだけど、電話だと忙しい時の邪魔になってしまう思ったので、少し恥ずかしいけど手紙にしました。

全然言えてなかった日頃のお礼を、伝えたいと思います。


いつも美味しい野菜を沢山ありがとう。

最近は作れる料理も増えたので、すごく助かってます。


大学の事とか、バイトの事とか心配かけてると思うけど、僕は大丈夫です。

バイト先の人とか親切な人も多くて、色んな人に助けてもらいながらだけど、ちゃんと生活できてます。

だから、心配しなくて大丈夫です。


勉強もちゃんと捗っているので、来年は必ず大学に合格します。

色々と迷惑かけてると思うし、そっちも大変だと思うけど体調に気をつけて下さい。


長い休みがとれたら1度帰ろうと思っています。

その時にはまた、話を聞いてください。


いつも本当にありがとう。


っと、こんな感じで大丈夫かな?

 脈絡もなく、言いたいことが畳み掛けてある感じになってしまったけど……

 でも、今僕が伝えたかった事は書けたと思うし、これでいいかな。

 こうして考えると、以外と伝えたい事がたくさんあったんだな。


「書けました?」

「はい、一応……」


 僕の手が止まったからか、ハルさんがキッチンから気にかけてくれた。


「あとでバイト行きがてら、出してきますね」

「はい、是非そうしてくださいね!」


 ハルさんはまるで自分の事みたいに、凄い笑顔でそう言ってくれた。


読んでいただきありがとうございます(*^^*)

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