外伝 ミオ視点 22
ミオ視点です。
「じゃあなー」
「早く行け」
どんな相手であれ、呼んでおいてやっぱりいらないから帰れなんて言う事が失礼だとは分かっているけど、謝る気は毛頭ない。
私だって姉さん達程ではないにしろ、この男を殺したい衝動はあるんだ。
早々に帰らせるに越したことはない……と思っていると、
「ねぇ待って! そういう事なら使った方がいいと思う」
と、カナが引き止めた。
「カナ?」
「私はミオにこの提案をしようと思って来たの」
「んー?」
カナが見せてくれたのは、今度の大会の資料だ。
これにハル姉さんを参加させて、ハル姉さんがもう戦えないお荷物の管理職だというイメージを払拭させようって事なんだろうけど?
「これとこの男に何か関係ある?」
「ハル姉様が大会に出てる間なら、コレが会場にいても会う事はないでしょ? それに情報を流すのなら、噂好きが犇めく大会の会場は最適」
「そもそもハル姉さんは大会に出ないだろうし、仮に出てもらうとしても、他の姉さん達が応援に来ちゃうからこの男と会わせられないよ」
「だったら、姉様方全員に参加してもらえばいい」
「それはちょっと……いや、ありかも?」
姉さん達全員が大会に参加するなんて、これまでにはあり得なかった。
それはハル姉さんはこの世界のバランス維持を、ナツ姉さんは闇の浄化や歪みの修正を、アキ姉さんは結界の存続を、フユ姉さんは封印の安定をしていたからだ。
でもバランスを狂わせに来る元凶たるこの男を倒し、闇や歪みの発生頻度も落ち着き、この男の力を結界と封印にも使う事で姉さん達の負担を減らした今なら、全員参加という事も出来なくはない。
「そう、寧ろ全員参加する事によって、それだけの余裕があるのだという事を見せつける事も出来るはず」
「なるほど、流石カナだね! それで私にハル姉さんの大会参加を説得するよう言いに来たんだ」
「私は前にもハル姉様に大会の参加を促して、失敗してるから。私よりミオが適任でしょ」
「……分かった、説得はまかせて!」
アキ姉さんとフユ姉さんは、姉さん達全員参加の大会にしたいからと言えば、二つ返事で了承してくれるはずだ。
だから問題は、戦闘を好まないハル姉さんとナツ姉さん。
とはいえナツ姉さんは新しい世界の調査報告書とかで釣ればなんとかなるし、ハル姉さんも戦うのは私とだけって事にすれば問題はないだろう。
前にリリーやカナが誘って失敗してるのは、どれだけ成長に繋がるのだとしても、相手を傷付ける事をしたくないっていう考えをハル姉さんが貫いているからだ。
私が相手なら怪我の心配はいらないし、恋人にも早く会えるって事を強調して話せば……
「おーい? 話はまとまったのかな?」
「貴方は予定通りに準備をしておいてくれればいい」
「へいへーい、で? その大会、ミオちゃんは参加するのかなー?」
「するに決まってるでしょ。ハル姉さんの強さを見せないといけない以上、それなりの戦いはしてもらわないとだし、かといってハル姉さんは戦うのが嫌いなんだから、私とだけ戦うんじゃないと……」
「やめた方がいいと思うなー」
「は? なんで?」
「俺だったら、その大会はやらせだと思うからね♪」
「……」
確かに一理ある。
今まで弱いと思われていたハル姉さんが私とある程度戦えていようと、私が手加減をしていると思われるのがオチだ。
リリーや他の姉さん達と戦うにしても、やらせだと思われる可能性は高い。
誰かもっと、絶対にハル姉さんに手加減なんてしないと分かっている相手じゃないと……
「戦いが嫌いなハル姉様には本当に申し訳ないけど、今回はハル姉様の強さを知らない連中としっかりと戦ってもらうしかない」
「私以外の奴と戦う事の説得かぁ……」
「大変だろうけど頑張って。あと、姉様方全員に参加してもらえるのなら、今回は特別な大会って事で、ブロック制にしようと思う」
「ブロック制?」
「Aブロックはハル姉さん、Bブロックはナツ姉さんって感じで4つのブロックを作って、ブロック内で勝ち抜いた4人でトーナメント。1位の人はミオかリリーと戦うって感じ」
「いいねー! 特に、各ブロックに誰を配置するのかは、カナちゃん次第ってとこがいいねー!」
「黙れ」
この試合形式ならハル姉さんの事を弱いと思っている奴等を一気に相手に出来るし、ハル姉さんの強さを見せつけられる。
もちろんハル姉さんより強い人も参加してくるだろうけど、それはアキ姉さんやフユ姉さんのブロックに割り振ればいい。
大会の出場者を管理してるカナならそれも可能だ。
「でもそんな血気盛んな大会、余計にハル姉さんは嫌がるだろうね……」
「うん、悪いけどよろしく」
「頑張れ♪」
あの平和過ぎる世界で育ったからというのも理由の1つではあるんだろうけど、ハル姉さんの戦闘嫌いには困ったもんだ。
本当はあまり恩着せがましい事はしたくないんだけど、この際それもしょうがないか。
どうしても参加してくれそうにない時はもう、これまでのミオへの感謝を利用させてもらおう。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




