外伝 ミオ視点 17
ミオ視点です。
「まず、現状を整理しましょうか」
「お願いします……」
ハル姉さんが規約違反をしたとして訴えられ、それを女神様が受理された。
受理されたという事は、女神様はその訴えを認めたという事だ。
だからこそハル姉さんの部下であるサクという人は不安に駆られているみたいだけど、ハル姉さんに勝ち目がない訳じゃない。
「今回規約違反とされているのは、ハル姉さんが私情で力を用いた件です。世界の法則から外れた力を行使し、本来殺されるはずであった自分の恋人を助けたと……」
「こ、恋人……」
「ハル姉さーん! 今はそこに照れている場合じゃないですよー?」
「はい! すみません!」
基本的に私達は、私情で力を使う事を禁止されている。
とはいえ、世界に影響を与えないのならば多少は好きに使って問題はない。
うっかり壊してしまったものを復元したり、適度に記憶や感情を変化させ、自分に都合が良いようにしたりなんて私には日常茶飯事だ。
人に見られていない、もしくは見ていた人が変に広めたりしない存在なのであれば、その程度の力の行使は規約違反にはならない。
それでいうと今回のハル姉さんの件は、"化ける力"が見られた訳でもなければ、世界に影響を与えた訳でもない。
記憶を消したのだって、瑞樹圭を自分に関わらないようにする為と、石黒という存在に自分の事を忘れさせる為だ。
特に石黒はハル姉さんに執着していたから、記憶を消さない限りはずっとハル姉さんを追い続けていた事は間違いないし、記憶を消す対象として十分に認定される存在だった。
瑞樹圭が記憶消去に打ち勝ったという異例の事態が発生しているけど、それがハル姉さん自身にも予測出来ていなかった事は簡単に証明出来る。
つまり、私達には勝ち目しかないんだ。
「特定のものを私情で助ける事は禁止されていますが、ハル姉さんは恋人だから助けたのではなく、相手が私達の敵だったから戦ったんです。そもそも瑞樹圭が危険に晒された事自体、ハル姉さんが関わってしまった事が原因ですし」
「そ、そうなんですよね……」
「そこは落ち込むところじゃないですし、もう圭さんは協力者になってもらったんですから、今更巻き込みたくないとかは無理ですよ?」
「……はい、分かってますよ」
あまり分かっていなさそうではあるけど、話は続けさせてもらおう。
「ハル姉さんの力の行使には正当性があります」
「ですが今回の規約違反の証拠には、その恋人さんが記憶消去を弾いている事が上げられていて、しかも……」
「あとから記憶を返す予定のやらせだと言われているんですよね。ですがそれは、聖水審判をすれば済む話ですので、何も問題ありません」
聖水審判は発言の真偽を確かめる為の審判で、聖水を飲んでから発言する事で、発言者が真実を語ればただの水、嘘を語れば猛毒になるという単純なものだ。
自分でも気が付かない程の力の調整をしてしまっていたとはいえ、ハル姉さん自身は本気で瑞樹圭から記憶を消すつもりだったんだから聖水はハル姉さんを嘘付きだとは判断しない。
まぁそもそも、ハル姉さん自身が"真実"を司っている方なんだから、誰もハル姉さんの虚偽なんて疑わないだろうけど。
「では、何故女神様はこの申請を受理されたのでしょうか?」
「それは単純に……」
「面倒だったから、であろうな」
「えっ!?」
「死神様! 言い方、言い方!」
「面倒な部下を持つと、上司は苦労するものだ」
「ちょっとー? それは私が面倒だとでも言いたげだねー? 言っとくけど、面倒な上司を持った部下の方が苦労してるんだからね?」
「はぁ、全く……」
呆れたように溜め息を吐いている死神様。
確かに私は死神様に迷惑をかける事が多々あるけど、総合的に見ればミオは死神様の役に立っている。
寧ろミオの方が死神様に面倒事を押し付けられていると言っても過言ではない。
だからこの溜め息には大いに腹が立つんだけど、今は置いておこうと思う。
「えっと、あの……?」
「失礼しました。要はですね、女神様はいい加減ハル姉さんを庇うのが疲れたのでしょう。ハル姉さんのやり方が気に入らないと苦言を呈する者は多いですし、今のポストから降ろすようにという声も聞きます。それら全てを今までは女神様が抑えて下さっていたのはあなたもご存知でしょう?」
「それはもちろん……」
「今回の訴えでハル姉さんが勝利すれば、当分の間はハル姉さんに対する口出しが出来なくなります。つまり、普段の煩い人達が静かになって、女神様が楽になるわけですね!」
「え、そんな自己中な……でもそうですね、女神様ですもんね」
女神様の領域で働いているだけあって、サクも女神様の事は分かっているみたいだ。
女神様はハル姉さんの評判なんて気にされない。
長い年月を生きる神様方にとって、一時の風評なんて取るに足らないものだから。
そして相手の目論見はこの訴えを押し通す事ではなく、ハル姉さんの評判を下げる事……となれば女神様が受理されるのも当然だ。
ただ、少しは私達への迷惑も考えて欲しい。
「サク、そんな言い方は良くありませんよ。これは女神様の優しさでもあるんですから」
「優しさですか?」
「ここでこの訴えを退ける事が出来れば、今後二度と同じ訴えは起こせませんからね」
「あぁ、なるほど!」
ハル姉さんは相変わらず発想が優し過ぎるな。
女神様にその優しさがあったとしても、殆どは自分が楽になる事しか考えていないだろうに。
「ですが……」
「ハル姉さん? どうされました?」
「その、大変申し上げにくいのですが、今回の件は戦わずに終われたな〜と思いまして……」
「それは……」
まさか自分を陥れようとしている奴等までを庇おうとされるなんて。
本当に優し過ぎるのは困りものだ。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




