外伝 ミオ視点 14
ミオ視点です。
「さてさて圭さん。さっき私が圭さんを応援した理由を、ハル姉さんに聞かれるのが嫌だと言ったのは覚えてますか?」
「はい、もちろんです」
「何が面倒なのかっていうのは、ようはハル姉さんに聞かれると、私は闇堕ちを心配していましたーって、ご本人に言わないといけなくなるんですよ。そうなったら当然ハル姉さんは、迷惑かけてごめんなさいってなるじゃないですか」
「それは確かに、なりそうですね」
「それが嫌だから聞かれたくないんです。ご理解頂けたのなら、圭さんもハル姉さんに言わないで下さいね」
「分かりました」
瑞樹圭に闇堕ちの話も出来たし、ハル姉さんへの口止めにも成功した。
ハル姉さんの事を大切に思っているからこそ、ハル姉さんに隠し事をするのには躊躇いがあるみたいだけど、それがハル姉さんの為になるのだと納得したんだろう。
「圭さんが話の分かる方で良かったです。まぁ分かって下さらなかったら、記憶を消すだけですけどねー」
「え……」
「ふふっ、私は色んな世界で、たくさんの人の記憶を消してきてるんですよ。圭さんの記憶くらい、簡単に消せます」
『簡単に消せるっていうのは、記憶を消す力を使うのが難しいとかという事ではなくて、そんな恐ろしい事も躊躇いなく出来てしまうという事ですね……』
「そうですね」
これは脅しでも、冗談でもない、ただの事実だ。
ミオは本当に簡単に記憶を消せる。
そしてその記憶消去に対して、責任以外には何も持たない。
互いを忘れてしまう恋人同士に同情もしないし、消した事に罪悪感も抱かない。
それがミオという存在だから。
『僕はまだミオさんに信用されてない。そしてミオさんは闇堕ちの事しか考えてない。だから、僕の発言……いや、考え方をみたミオさんの判断で、記憶を消されてしまうかもしれないんだ……ん? だったら、最初から応援なんてしなくても良かったんじゃないか?』
「圭さん?」
「あの、本当に闇堕ちを防ぎたかっただけなら、最初から僕とハルさんから記憶を消せば良かったんじゃないですか?」
「え、そんなことして欲しいんですか?」
「絶対してほしくはないですけど……」
『でも、本当に闇堕ちだけを防ぐのなら、それが一番の方法のはずだ。それなのにどうして……』
物分りが良すぎるというのも面倒だな。
加えて瑞樹圭には自己肯定感がないから、信用されていない自分がハル姉さんと共にいる事を認められたのが理解出来ないんだろう。
だからこんな、ハル姉さんの闇堕ちを防ぐ為だけの方法をすぐに思いつくんだ。
流石にハル姉さんに闇の種が埋め込まれている事は話せないし、ミオがほぼ私情で動いていると思われるのも困る。
とはいえ、闇堕ちの事しか考えていないと言っている以上は、闇堕ち関連で説明しないといけないからな……
「まぁ、それは……ハル姉さんから圭さんの記憶を消したとしてもハル姉さんがこの世界を担当している以上は、また圭さんと出会う可能性がありますよね?」
「そうですね」
「さっきも言いましたが記憶消去というのは、何かの切っ掛けで、その記憶が間違っていることに本人が気付いてしまえば、正しい記憶が戻ることもあります。私の記憶消去が破られるなんて事はよっぽどありませんが、それでも100%ではありませんから」
面倒だから、違和感を持たないようにちょっと記憶操作でもしようかと思ったけど、そこそこにいい理由を思いつけた。
これはメモリアのお蔭だな。
メモリア達が先に記憶消去を打ち破るという前例を作ってくれていたからこそ、思いつけた理由だし。
「なら仮に今ここでミオさんに認めてもらえなくて、記憶を消されていたとしても、思い出せていたかも知れないってことですか?」
「そうですね。試してみますか?」
「全力でお断りします!」
「まぁそうですよね。でも、思い出せる自信がないんですか?」
「それは、もし本当に消されたら絶対思い出してみせますけど、そんなお試しみたいな感じでハルさんとの大切な記憶を忘れるとか、そういうのがいやなだけです。別に思い出せるかに自信がないわけじゃないです」
「ふふっ、分かってますよー。今ここで、『僕達の愛の力なら、記憶を忘れるなんてあり得ない!』とか言って、お試し感覚で記憶を消すような人なら、私は認めていませんよ」
「そ、そうですか……」
『そんな恥ずかしい事、言うわけない……』
「そうですか? でも前に、『僕は記憶を消されても、思い出してみせます! ハルさんの事を!』って、言ってますよね?」
「あぁ……」
「勢いで言ってしまったにしても、私達の力の事を軽く考えてるからこその発言に思えます」
「すみません……」
「今回は確かに私達の力を打ち破れましたが、絶対に軽く考えないで下さいね。私達は普通の人とは違う存在だということを、よくよく考えておいて下さい」
「はい」
これで本当に問題なさそうだな。
時間も丁度いいくらいだ。
「さて、そろそろ30分が経ちますね。真面目な重い話は終わりにしましょう」
「30分ですか? 経つと何かありますか?」
「圭さんの愛しのハル姉さんが帰ってきますよ!」
情報共有でこっちがもう問題ない事は伝えてあるし、向こうのミオが上手くやってくれているはずだ。
私達は時間の流れが違う事に慣れているとはいえ、ハル姉さんからしたら瑞樹圭に会うのは久方ぶりになるんだから、ある種2人の感動の再会と言える。
報告の間も、ずっと会いたいと思っていただろうし。
「あぁ、ハル姉さんが帰ってきたら重い話は禁止ですよ。闇堕ちとか私が勝手に話しただけで、別に圭さんが知ってる必要性もないことですし」
「僕は聞かない方がいい話だったんですか?」
「いえ、別に話していけないし事ではないので、私から聞いたと言ってもいいんですよ。でも、折角の付き合い始めたばかりのラブラブカップルタイムに、そういう話は無粋でしょう?」
「はぁ、ミオさんは僕をからかうのが本当にお好きなようですね……」
「そうですね! ふふっ、顔、真っ赤ですよ」
「そ、それは、何度もミオさんがからかってくるからじゃないですか!」
ハル姉さんの事になら感情が動く瑞樹圭。
人間味がないようである、面白い生命体だ。
自己肯定感がない事が若干気にはなるけど、だからといって、自分のような存在にハル姉さんが相応しくはないとは考えていない。
寧ろハル姉さんと共にあるためにと、自分が変わろうとしている。
そんな彼になら、ハル姉さんの事を任せられると思う。
「圭さん、これからもハル姉さんの事よろしくお願いしますね。必ず幸せにしてあげてください」
「も、もう……そうやって急に真面目にならないで下さいよ」
「ふふっ、お返事は?」
「もちろんです! 全力で幸せにします!」
「はい、いい返事ですね」
そして、ハル姉さんが向こうに行ってから、丁度30分が経ち、
「ただいまですー」
と、ハル姉さんは帰ってきた。
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