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桜色のネコ  作者: 猫人鳥


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外伝 ミオ視点 12

ミオ視点です。

 初めて瑞樹圭を見た時の印象は、"特出した能力がある訳でもない、どこにでもいそうな青年"だった。

 多少理解能力が高かったり、戦闘能力が高い程度の存在なんて、世界各地にごまんといる。

 だから協力者にしたいとも思わなかったし、何ならハル姉さんの事を思い出せなくて、あのままハル姉さんと別れる事になっても問題ないと思った。

 リリーの話を聞いていなかったら、私はほぼ間違いなくハル姉さんと瑞樹圭の2人から、互いの記憶を消していただろう。


 ただ今は、なかなかに面白い人間だと思っている。

 ハル姉さんの事を大切に思っているという事はもちろんだし、思考回路が珍しいから。


『大切な人を忘れてしまうのと、大切な人に忘れられてしまうのは、どっちが悲しいのか? そんなの、どっちも悲しいに決まってる。もし僕がミオさんに認めてもらえなかった場合、僕とハルさんの記憶は消されていた。それはつまり、僕もハルさんも大切な人を忘れてしまうし、忘れられてしまうんだ。そんな恐ろしい事はない……』


「そうですね。そんな恐ろしい事を実行しようとしていた私。本当に恐ろしいですね」

「え? 僕はミオさんを恐ろしいとは思いませんよ。ミオさんはとても優しい方だと思います」

「はい? 優しい? どこが?」

「心を読んでいたなんて、言わなくても僕には分からないのに、教えて下さる辺りとか、本当に優しいと思いますよ」

「記憶を消されそうだったんですよ?」

「でも、大丈夫だと判断して下さったんですよね?」

「それはそうですが……」


 今の瑞樹圭は、私に認められず記憶を消されていた場合の事を考えていた。

 だからそろそろ私の事を恐れたかと思って聞いたけど、変わらず恐れているのは私個人ではなく、記憶を消された場合の状況だけのようで……

 でもだからこそ、分かった事がある。


 おそらく瑞樹圭は、物事にあまり関心がないんだろう。

 ハル姉さん以外に興味がない、というよりは、初めて興味を持ったのがハル姉さんなんだろう。

 だからハル姉さんと自分の関係を害する事以外には、感情の起伏がないんだ。

 まるで全てを客観的に見ているみたいに。


 記憶を見させてもらった時に、幼少期の人となりも見たけど、全くと言っていいほどに他人に嫌悪感を抱いていなかった。

 それは出来た人間だからなのではなく、相手に興味がなかっただけの行動だと思う。

 心を読んでいた事に対する嫌悪感がないのも、こんな状況下でも"優しい"なんていう単語が出てくるのもそうだ。

 自分にすらも興味がないから、自分に降り掛かる不幸を気に留めないんだ。


 自分の周りに壁を作り、その壁の向こうの景色を眺めているだけで、壁を壊そうとはしていない。

 壁の向こうにいる家族の事を大切に思っているのに、歩み寄ろうとはしていない。

 舞台作品を鑑賞しているかのように、舞台役者に対する好き嫌いはあっても、結局は自分と関係のない世界のように思っている。


 そんな状況下で、唯一壁の内側、自分の側にいて欲しいと願った存在がハル姉さんなんだ。


『今こうしてミオさんに認めてもらえた事が何よりも嬉しい。僕もハルさんも記憶を消されなくていいんだから……ん? 待てよ……何でハルさんの記憶を消す必要があるんだ?』


 内心でハル姉さんとの関係を私に認めてもらえた事に浮かれていた瑞樹圭は、もう私の話に違和感を持ったみたいだ。

 私個人の事を一切考えておらず、ハル姉さんの事ばかりを考えているからこそ、ハル姉さんに関する事象には敏感なんだろう。

 やっぱりこの思考は見ていて面白い。


「ふふっ、驚きの思考回路ですね。話が早くて助かります」

「ハルさんの記憶を消す必要性の話ですか?」

「はい」


 元々この話をする為に来たと言っても過言ではない。

 ハル姉さんに埋め込まれた闇の種を除去する為にも、瑞樹圭の協力は必要だ。

 だから本来なら協力者になったからといって話す必要はない闇堕ちの話もしないといけない。


 とはいえ、これだけハル姉さんの事ばかり考えているんだから、下手に話すとパニックになられるかもしれないな。

 いや、逆にそれもありか……


「ハル姉さんの記憶も消さないといけない理由は、消さずに放っておくと、ハル姉さんが闇堕ちしてしまうかもしれないからです」

「闇堕ち?」

「はい。私達のような存在にだけ発症する病気だと思っておいて下さい。この病気は簡単には直せません。最悪の場合、殺さなければいけなくなります」

「なっ!?」


 おー、思った通り。

 瑞樹圭は、これまでの落ち着きが全て嘘であったのかと思うくらいに動揺した。


「ハルさんはその病気にならないんですよね?」

「絶対にならないとは言えませんが、よっぽど大丈夫だと思いますよー」


 驚かせてしまったお詫びも兼ねて、安心させておく。

 動揺していたとはいえ、判断力までが低下していた訳ではなかったようで、瑞樹圭は私の意図も察してくれた。

 まだ完全に落ち着いてはいないみたいだけど、闇堕ちの話は続けても問題なさそうだ。

 

読んでいただきありがとうございます(*^^*)

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