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桜色のネコ  作者: 猫人鳥


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外伝 ミオ視点 11

ミオ視点です。

 瑞樹圭に私が"人殺し"であるという事実を打ち明けてみた。

 そんな事を言っても、それがどうした? と、相手にもされずに流される世界の方が多い。

 でもこの世界では、当たり前のように誰もが人を殺してはいけないのだと認識している。


 だからこそ、この事実で瑞樹圭がどんな反応をするのかを見ていたけど……どうにも瑞樹圭は変わっている。

 こんな話をする私を、全くと言っていい程に恐れていない。

 人殺しという行為を恐れてはいても、私がその事実を打ち明けた事や、今のこの話の仕方から、私が"優しい人"であると考えているみたいだ。


「それは、世界のため……なんですよね?」

「そうですよ。私達は人のために動ける存在ではありません。常に世界のために動いています。例え人を殺さなければいけないとしても、それが世界のためになるのなら、実行するのが私達ですから。ハル姉さんは、そういう場所で私達と一緒に仕事をしているんですよ」


 変に優しい人だと勘違いされて、後々にハル姉さんを避けられるのは困る。

 だからハル姉さんを含む私達の仕事は何を優先しているのかを話したんだけど、結局私達への認識を変えてはいない。

 私が優しいという認識はそのままに、仕事内容の方をどうにか出来ないのかという思考をしている。

 人殺しが受け入れられないからこそ、そんな仕事は止めさせたいんだろう。


「私まで受け入れる必要はありませんよ。この世界において、人を殺すという事は、絶対にやってはいけない事ですからね。それをやっている私を受け入れられないのは、至極当然の事です」

「すみません……仕方ない事だったんだっていうのは、分かってるんですけど……」

「そんな"仕方ない事"って思い込んで、無理に受け入れようとするのはよくないです。生まれ育った環境の違いですからね。宗教による考え方の違いとか、そういうのと一緒です。無理に受け入れる必要はありません。ただ、理解して頂ければ……」

「理解ですか……」

「自分とは違う価値観で育った人もいるんだ、という理解で大丈夫です」

「違う価値観、ですか……」


 ハル姉さん以外は無理に受け入れなくていい。

 ただ、ハル姉さんの周りを渦巻く環境を理解してほしかっただけ。

 それも、ハル姉さんを避けない程度の理解で十分だったのに……本当に変な人だ。

 私の事まで考えて……


『ミオさんは一体、どんな世界で育ったんだろうか? それこそ、人を殺してはいけないなんていう法のない世界で育ったのなら、この世界はかなり平和に見えるだろう。平和に見えるというより、異常に見えるのかもしれない……』


 こんな思考をしている瑞樹圭に教えてあげたくなる。

 この世界が異常に見えるか? えぇ、見えますよって……


「どうですか? そんな仕事もある場所で働いているハル姉さんを、それでも支えたいと思いますか?」

「もちろんです。むしろ、そういう仕事もあるからこそ、悩みも多いと思います。僕には解決出来なくても、ハルさんの悩み事を聞くことはできますから」

「……そうですか」


 もう十分だ。

 瑞樹圭がハル姉さんを絶対に拒絶したりはしない事は分かったんだから。


「それを聞いて安心しました」

「安心?」

「はい。実は圭さんに謝らないといけない事がありまして……」

「勝手で申し訳ありませんが、さっきからずっと、圭さんの心を読ませてもらっていました」

「えっ?」

「今の話をして、圭さんに少しでもハル姉さんに対しての嫌悪感とかがあるようなら、2人の記憶からお互いの事を綺麗さっぱり消そうかなーと、考えてましたので」


 これも別に打ち明ける必要のない事なんだけど、瑞樹圭がどんな反応をするのかが少し気になったから言ってみた。

 心を読まれるのなんて、誰もが気持ち悪いと思う事だから。

 だけど瑞樹圭は意外にも……いや、ここは予想通りと言うべきなのか、嫌悪感は一切示さなかった。


 単純な驚きと、少しの怒り……ハル姉さんの記憶を消されたくないからこそ、私を物騒だと思っているんだ。

 人殺しをする事実では物騒だと思わず、私個人の事を否定したりはしてなかったのに、今は私に嫌悪感を示している。

 やっと示した嫌悪感が、ハル姉さんと自分を引き離そうとしていた相手に向けられるものだというのも面白い。


「ふふっ、本当に物騒な考えですねー」

「えっ!? あぁ……僕の心読んでるんでしたね」

「はい。今心を読んで、圭さんがハル姉さんと居ても大丈夫かを判断して、ダメそうだったら消そうとしてました」

「僕は今、試されていたんですね……」


『安心したという事は、大丈夫だと判断してもらえたという事でいいんだろうか?』


「いいですよ」

「……そうですか。ありがとうございます」

「いえいえ」


『ちゃんと認めてもらえたようで僕も安心したけど、ダメだと思ったら僕とハルさんの記憶を綺麗に消してしまおうとしていたなんて、確かに応援してるとか言っておいてって感じだ』


「そうですよね。だから先にそう言ったんですよ?」

「……はい。ありがとうございます」


『質問してなくても、僕の心を読んで会話してくれるんですね』


「それはそうですけど、だからって心で話しかけられましても……」

「えっと……失礼しました」


 心が読まれると分かってからの、この切り替えの速さ……

 しかも、


『ミオさんは今の僕との会話中、僕に分かりやすく説明しながら、僕の話を聞いて、更に僕の心も読んでいた事になるんだ。それって……目茶苦茶大変じゃないか! えっと、お疲れ様です』


なんていう気遣いまでしてくる。

 心が読まれる事を嫌悪されないだろうと予想はしていたけど、ここまで無関心なのも珍しいな。


「心が読まれてたっていうのに、圭さんはその事をあんまり気にしていないみたいですね。そんな風に心配されたのは初めてです」

「え? 気にしてますよ?」

「大抵の人はもっと気にしますよ。それこそ気持ち悪いとかも言われますね」

「僕は気持ち悪いとは思いません。大変だろうとは思いますけど」

「そうですか……」


 こういう人だから、あのハル姉さんが好きになったのかもしれないな……

 なにせハル姉さんは、誰にでも優しくて誰にでも冷たく、常に周りに一線を引いて、簡単には心を開かないようにしている方だ。

 加えて言えば、私達は皆自分を人ならざる化物だと思っているけど、特にハル姉さんは自分を気持ちの悪い存在だと認識している傾向も強い……

 そんな自分が嫌だと自己否定をしている訳ではないから、闇堕ちに影響する事柄ではないけど、あまりいい考え方とは言えない。


 この人なら、いつかハル姉さんのこういった考え方も、変えてくれるかもしれないな。

 

読んでいただきありがとうございます(*^^*)

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