外伝 ミオ視点 8
ミオ視点です。
「ミオ、こっちもOKだよ」
「はーい! お疲れー、ん?」
「どしたー?」
リリーと一緒に来ていた仕事が丁度一段落ついた時、ハル姉さんから連絡がきた。
"力を使い過ぎて、これから倒れる予定ですが、私は大丈夫です。何日か連絡が出来なくなると思いますが、心配はしないで下さい。それと、おそらく大丈夫だとは思いますが、この世界の事も一応気にかけてもらえると助かります"
……って、なにこれ?
連絡してくれただけまだいい方だと思うけど、倒れますだの心配はしないでだの……
「ふふっ」
「楽しそうだね? いい事あったの?」
「まぁね、ちょっと行ってくる。長くなるだろうから、分身残しとくね」
「ハルさん関係? 良かったね」
「良かったかどうかはこれから決めるんだよ」
「でもミオ、もう良かったって顔してるよ。ほら」
「……そうだね」
リリーは分身体の私の肩を支えてくるっと回し、私に分身体の顔が見えるようにしてきた。
今の私の分身体なんだから、表情も今の私の状態が反映されている。
これは確かに"良かった"と思っている顔だろうな。
「じゃあ後はよろしく」
「ほーい」
「メインの私、ちゃんとハル姉さんの彼氏を見極めるんだよ?」
「分かってるよー」
リリーと分身体の私に見送られながら、ハル姉さんの世界へとやってきた。
ハル姉さんと彼氏がいい雰囲気だったら申し訳ないので、空間を裂いて登場する前に一応状況の確認をしておく。
「あの、ハルさん?」
「んー? 今ので返せたはずなんですけど?」
「そうなんですか? 特に何か変わったようには思わなかったんですが……」
「私も全然倒れてないですし、おかしいですね……」
記憶は既に返したみたいだな。
その上で何も起こらなかったから、不思議がっているみたいだ。
「ちょっとハル姉さん! 変な連絡、寄越さないで下さいよ! ビックリしたじゃないですか!」
「あっ、ミオ。えっと、ごめんなさい……」
私が登場すると、ハル姉さんは少し驚きつつ謝ってこられた。
目元が少し腫れているようにみえるけど、これはおそらく彼に思い出してもらえた喜びで泣いたからだろう。
総合的に見て、元気そうだ。
「それで? 倒れる予定はこれからですか?」
「それが……何故かそんなに力を使わなくて、倒れずにすみました。何故でしょうね?」
「もしかして、こちらの……」
「瑞樹圭君です」
「圭さんから消した記憶を返したり、とかしてました?」
「はい、その通りですよ! 流石ミオですね」
「まぁ、来る前から大方の予想はしていましたから……」
大方の予想どころか、かなりの状況把握はしていたけど。
それでも私が2人の関係に詳しい事はハル姉さんには隠しているから、こういう説明をさせてもらう。
ハル姉さんにとっての私は、怪我をした際に助けてくれた男性から記憶を消していない事と、向こうの皆がハル姉さんが楽しそうだと話していた事を知っている程度のはずだ。
この世界に来た時点で、使われた力の残渣から記憶の返還をしていた事くらいは分かるから、私ならそれくらいの予想は出来るだろうとハル姉さんも納得してくれたみたいだ。
とはいえ、彼の名を忘れていたのは素だ。
わざと分からない振りをして聞いた訳ではなく、本当に忘れていた。
ヘマをして名前を言うなんて事をするつもりはないけど、教えてもらっていない私が知っているのはおかしいから、今は忘れていて良かった。
私は基本的に物覚えは悪い方だ。
それは忘れっぽいという事ではなく、必要だと判断した記憶をすぐに見つける為に、どうでもいい事を忘れるようにしているからだ。
忘れるとは言っても、その記憶を完全に消している訳ではないから、必要な時は自分の記憶閲覧をして検索をかけるか、相手の記憶を見ればいい。
そういう意味で言うと、瑞樹圭は私にとって覚えていなければならない存在ではないという事だ。
「それで、何故私は倒れていないのでしょうか? 圭君も寝ていませんし……記憶をちゃんと返せていないんでしょうか?」
「いいえ、返せていますよ。力の消費や圭さんへの負荷が少なかったのは、既に圭さんが返してもらう記憶を思い出していたからでしょう」
「そうなんですね、良かったです」
記憶を消す力は対象の記憶を箱に閉じ込めているだけ。
ただこの箱には鍵がないから、閉じ込められた記憶を開放したいのなら、強引にこじ開けるか、箱を壊すしかない。
だから記憶の返還には相当な力を消費する。
でも瑞樹圭は自力で箱をこじ開け、記憶を取り戻していた。
その為にハル姉さんの力も消費されず、瑞樹圭にも何の反動もなかったんだ。
あまり知られていない事だから、ハル姉さんも知らなかったんだろう。
こんな前例、片手で数え切れるくらいしか起きてないし。
「それと圭君の記憶についてなのですが、私はちゃんと消したはずなんです。それなのに、何故圭君は思い出せたのでしょうか? ミオは分かりますか?」
「……一概には言えませんが、圭さんの記憶を消しても、圭さんのハル姉さんと過ごした事で身についた習慣までは消せていなかったからじゃないですか?」
「ん~? でもそれをおかしいと思わないように、辻褄を合わせたはずなんですが……」
「何か切っ掛けがあれば、その辻褄合わせが間違っていることに本人が気付いてしまいますからね」
「なるほど……でもそうなると、何が切っ掛けだったんでしょうか?」
「何でしょうね? それは私には分かりかねますが、何にせよ良かったですね! 思い出してもらえて」
「そ、そうですね」
ハル姉さんは少し顔を赤らめながら俯かれた。
からかわれた事が恥ずかしかったんだろう。
それにしても、ここまで幸せそうに笑っているとは……
やっぱり恋愛感情が絡むと、私の予測は大幅にズレてしまうんだな。
読んでいただきありがとうございます(*^^*)




