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桜色のネコ  作者: 猫人鳥


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外伝 ミオ視点 7

ミオ視点です。

 応援すると決めたとはいえ、軽率な行動は出来ない。

 瑞樹圭の様子も観察しないといけないので、霊体状態になって瑞樹圭の部屋へと侵入した。


「寒っ……」


 あれは、何をしているんだろう?

 ベランダの戸を開けたかと思うと、すぐに閉めてカーテンまでかけている。

 開けたら寒かったって事なんだろうけど、そもそも最初から開ける意味なんて……?

 瑞樹圭の記憶では、いつもあのベランダを開けてハル姉さんを招き入れていたはずだけど、まさか?


「……」


 今度は胸を抑えて首を傾げている。

 更には部屋を見渡し……料理をし始めた。

 料理中も何度か首を傾げていたし、食事後に始めた勉強では、


「ここって、この式であってますよね?」


と、決定的な一言を呟いていた。

 これはもう、ハル姉さんと共に築いた習慣の影響を受けているのだと判断してよさそうだ。

 まぁ、だからといってハル姉さんの事を思い出せる訳じゃないけど。


 日も沈んで来た頃、瑞樹圭の家に荷物が届いた。

 中身は大量の野菜……

 あれは確か、この世界ではキャベツと呼ばれている葉物で、瑞樹圭の記憶内でハル姉さんが好きだと言っていたものだ。

 こんな事が起こらなければ、これから先もずっとハル姉さんに美味しいキャベツ料理を食べてもらうつもりだったんだろう。


 そういえば、ハル姉さんの部下の人が、ハル姉さんが仕事中に食事をするようになったと言っていた。

 手作りのお菓子をくれる事もあると……

 それはつまり、瑞樹圭はあの頑固なハル姉さんの意志を変えられる存在でもあるという事になる。

 だったら……


 それからも様子を見ていたけど、瑞樹圭は自分の行動に違和感を抱きながらも、それを深く追求する様子はなしに寝てしまった。

 そして翌日もベランダや料理に違和感を抱いては、全て"気のせい"として片付けてしまっている。

 それが出来る事が私達の力の凄さでもあるんだけど、やっぱり残酷なものだとも思う。

 そしてそれを多用している私を含む全てのミオも、鍵を掛けて逃げている本体も……今はそんな事、どうでもいいか。


 外へと出掛けた瑞樹圭は、空を見上げて立ち止まっていた。

 私の方を見ているようにも見えるけど、霊体状態の私が見える訳はない。

 おそらく鳥を見ていたんだろう。

 動物がハル姉さんかもしれないなんて事を気にするのも、瑞樹圭の日課だったから。


「おぉ、ミオちゃん。どうじゃ?」

「あれだけ僅かな綻びであるにも関わらず、随分と違和感を感じているようです。ハル姉さんの事を考えた行動ばかりをしていた結果でしょうね」

「本当に優しい人の子じゃからの。ほれ、今も」

「お供え、ですか」

「とても美味しいんじゃよ? 後でミオちゃんも食べてみるといい」

「私には必要ありません」

「いや、食べるべきじゃ。食の有り難みが分からんわけではなかろう?」

「……では、後ほどいただきます」


 瑞樹圭はお供えに来ていたお婆さんと少し話してから、帰っていった。

 あのお婆さんがいなかったら、社にハル姉さんが寝ている事に気付かせてあげようかと思っていたんだけど、人前で侵入禁止の社に入るなんていう奇行はさせられないからな。

 でももし気付かせていたら、どんな行動をしていただろうか?


「ほれ、ミオちゃん」

「はい。あ、美味しいですね」

「そうじゃろう?」


 ただ穀物を焼いただけのものなのに、かなり美味しかった。

 "まずは胃袋をつかめ"という言葉を聞いた事はあるけど、ハル姉さんも掴まれたんだろうか?


「ん……」

「ハル姉さん、随分と回復されましたね。この調子なら、明日にでも目覚められるでしょう」

「行くのか?」

「応援をしたら、そのまま戻らせてもらいます。ですので、ハル姉さんをお願いしますね」

「もちろんじゃ! ところで、あの人の子を見ていて、ミオちゃんの考えは何か変わったかの?」

「特には変わりません。ですがまぁ、お似合いの二人だとは思いますよ」

「ミオちゃんは……いや、気を付けてな」

「はい、ありがとうございます。では、失礼しますね」


 土地神様の社を後にして、もう一度瑞樹圭の家へと向かう。

 私ももうそこまで時間がないので、少し睡魔を送らせてもらい、早々に眠りにつかせた。

 これで瑞樹圭の夢に介入できる。


「夢の中でこーんにーちはー☆……うーん? 違うかな……あなたの夢にお邪魔しまーす☆……これも違いますね……あなたの夢をジャックしたぞっ☆……うん、これですね! と、まぁ、下らない挨拶は置いといて、本題に入りますね」


 それなりのテンションで挨拶をしてみたものの、瑞樹圭は無反応だった。

 いきなり現れた私に動揺して反応が遅れているというよりは、現状を冷静に分析しているみたいだ。


「私はあなたの事、応援してるんですよ。だから、もっと頑張って下さい! 確かに私達の力は強いし、記憶を消されたら逆らえませんよ。でも頭から思い出は消せても、体に染み付いた習慣までは消せません。いや、まぁ、消そうと思えば消せるんですけどね……でもそれは、"記憶を消す力"じゃなくて、"体ごと作り替える力"になりますからね……」


 記憶を消す力というのは、正確にいえば記憶を箱の中に閉じ込めて思い出せなくしているだけで、その人から記憶を奪い去っている訳じゃない。

 記憶を完全に消去してしまうというのは、私達にとってもリスクが大きすぎる行いであり、力の消費も激しいから。

 それに今回が異例なだけで、本来であれば思い出せなくする程度で十分なんだ。

 だからこそ、その異例を上手く活用してほしいと思う。


「しかも残念な事に、チャンスは一度しかないんですよ。頑固ですからねー、ホントに……だから私はあなたを応援します。特に協力とかは致しませんが、応援だけなら安いもんですからね!」


 私に出来るのは本当に応援だけだ。

 それ以上の事をすればハル姉さんにバレるだけでなく、向こうでの問題にも発展してしまう。

 そしてこの応援には、綻びに気付きやすくする効果はあっても、箱をこじ開ける力はない。

 瑞樹圭には自力で箱を開けてもらうしかないんだ。


「結局の所、私が何を言いたくて来たのかといいますと"感じた違和感を気のせいで片付けないで"って事です。結構難しい事だとは思いますが、頑張って下さい。きっと、あなたなら出来ますから! 勝手に夢に出てきてごめんなさい。でも応援していますよ!」


 あの僅かな綻びに気付き、箱を開けられるかどうか……最初は開けられる確率が17.373%だった。

 でも瑞樹圭の様子を見ていて、37.373%までは上げてもいいと思った。

 もちろんまだまだ不可能である可能性の方が高いけど、もう少し見ていたらまた数字を上げていただろうし、期待は出来ると思う。


 私はもうこれ以上何も出来ない。

 だから、いい報告を期待していよう。

 次にお会いするハル姉さんが、幸せそうに笑っている事を信じて。

 

読んでいただきありがとうございます(*^^*)

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